夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲12

 説明を聞いていた溝口の表情が、徐々に落ち着きを取り戻し、金田が最後にこう締めくくった。
「と言う事で、俺は梓と結婚を許可され、美香と美紀の父親に成るんだ。美香と美紀は俺を受け容れ、今ではこんなに仲良く成れたんだ。なぁ、美香、美紀」
 金田がそう告げると、美香と美紀は両脇から金田に抱きつき
「はい、お父様。美香はお父様を尊敬しています」
「は〜い、パパ。美紀はパパの事大好き〜」
 金田の身体に自分の身体を押しつけ、頬にキスをする。

 溝口は金田を見詰め、羨望の眼差しを向けていた。
「か、管理者って言ってたが、それはどんな事を…するんだ…」
 溝口は気になって仕方がない事を、思わず口にすると
「私達の食事、睡眠、排泄、入浴、躾け、あらゆる事を管理して頂いています」
 美香が溝口に告げる。
 溝口はその言葉を聞いて、顎が外れる程驚いた。
「美紀はパパのお手てで身体を洗って貰うの、大好きなの。だって、凄く優しいんだもん…」
 美紀は金田の腕に抱きつき、頬をすり寄せながら、溝口に告げる。

 金田は溝口に顔を向けると
「俺は梓を含めて、普通の家族以上に仲良くさせて貰ってる。SEXも禁止されていないが、俺はこの子達を抱くつもりは無い。この子達は稔様の大切な奴隷で、俺には梓が居るからな…」
 金田がそう付け足すと、溝口は右手で顔を覆い
「解った…もう良い…。もう、何も言わないでくれ…。俺は、それ以上聞くと…お前の首を、絞めたくなる…」
 疲れ切った声で、金田に告げた。
 金田は初めて溝口を完膚無きまでに叩きのめし、心理的優位に立ったのだが、以前は熱望していたそれも、今となっては取るに足りない些事だった。

 溝口は覆った手の隙間から、美香と美紀を見る。
 そこには清楚と可憐と言う薄皮の下に、凄艶な色気を溢れさせる、美少女が居た。
(凄いな…梓さんも圧倒的な存在感を持っていたが、この子達もあり得ない存在感がある。由美子が子供に見える…)
 溝口はしてはいけない事だが、思わず自分の奴隷と比べ、溜息を吐いてしまった。
 金田はその溝口の溜息を聞き
(馬鹿、そんな事したら由美子の立場がないだろ…)
 一瞬で判断して
「どうだ、羨ましいだろ〜」
 溝口に助け船を出して、その場の雰囲気を変える。

 溝口も自分のミスに気付き、それを瞬時にフォローしてくれた、腐れ縁の友人に感謝を示す。
「おお、羨ましいわ! 何でお前だけなんだ!」
 溝口はソファーから立ち上がって身体を伸ばし、金田の首を笑いながら絞めた。
「どんな事をしても、この幸せは分けてやらん!」
 金田がふざけて、そう言うと
「ちょっとは、お裾分けしろ〜」
 溝口が悔しそうに、要求する。
 2人のじゃれ合いに、その場は和んだ雰囲気に成ったが、助け船を出された溝口は、金田を見て驚いていた。
(こいつ、こんな笑顔で笑うんだ…。それに、あんな気遣い初めてじゃないか…。こいつ、かなり変わった…人は、ここ迄変われるんだ…)
 溝口は微笑みを浮かべ、友人の変化を素直に喜んだ。

◆◆◆◆◆

 稔はタクシーを飛ばし、溝口の病院から学校に戻る。
 学校に着いた稔は、直ぐに旧生徒会室に向かう。
 旧生徒会室に入った稔に、仏頂面の狂が振り返り
「おう、玉置の爺さんどんな具合だ?」
 開口一番、問い掛けた。
「命に別状はないそうです、今はICUに入ってますが、直ぐに個室に移動出来ると思います。看護は、美紀に任せて来ました。入院先の医院長が満夫の友人らしくて、かなりの便宜は図って貰えそうです」
 稔は狂に丁寧に説明すると
「そうか、まあ、あの爺さん殺しても、死ななさそうだったからな…」
 狂は仏頂面のまま、ボソボソと呟いた。

 稔はパソコンの前の椅子に座ると
「それより、狂…。犯人が見つかったってどう言う事ですか?」
 狂が電話で告げた事の内容を、問い掛ける。
「ああ、こいつを見てみろ。これは、今日お前がここを出て、俺が罠を張った後の映像だ」
 そう言って、狂がパソコンのディスプレィに画像を映し出すと、一人の作業服を着た男が、旧生徒会室の扉を開け中に入る様子が映し出された。
「この男は、吉松真一。TNシステムズって会社の、システムエンジニア長だ…。TNシステムズは、竹内の傘下のプログラム管理会社だ。そこのエンジニア長が、こんな所で何してるかも、問題だが…。こいつが持ってる物が、今回の本題だ…。ここだ、見てみろ…」
 狂は稔に説明しながら、有る画面で画像を静止させ、映像にスキャニングを掛ける。

 限界までアップにされて荒かった映像が、直ぐに鮮明な物に代わり、吉松の手に持った鍵が映し出された。
「003…、この番号は庵の物と同じですね…。でも、鍵のベースの形が違うから、コピーですか…これは…」
 稔の呟くような声に
「その通りだ。どんなに、精巧な鍵でも型を取られて、システムがバレれば、コピーは可能だ…。コストは無視してだがな…」
 狂がブツブツと答え、再度パソコンを操作する。
 狂は映像を室内のアングルに戻すと、吉松がパソコンに取り付き、起動に成功してUSBメモリーを突き刺し、コピーを始めた。

 稔がその映像に驚いて
「狂! これは、プログラムがコピーされたんですか?」
 狂に問い掛けると、狂が初めてニヤリと笑い
「馬〜鹿…。俺のセキュリティーがこんな、5流に破れる訳ねぇ…。これは、お土産だ…。俺のPCに手を出したら、どんな目に遭うか身をもって体験して貰う…」
 寒気がするような目付きで、映像を見ながら呟いた。
 映像の中の吉松は、コピーが完了しUSBメモリーを引き抜くと、嬉々とした表情で旧生徒会室を出て行った。
 それが、狂の罠とも知らず、吉松はこの後死ぬ程後悔する事に成る。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊