夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲14

 下着を着けていない沙希の下半身が剥き出しに成り、東はオ○ンコに、いきなりチ○ポを挿入して、沙希のハンマーを持つ手に、自分の両手を添え持ち上げた。
 沙希はそれでも何の反応も見せず、ぼんやりと眠ったような表情で、庵を見詰めている。
 だが、意志を操られ、意識を封じ込まれた頭の端で、沙希は状況を見、聞いている。
(な、なにを…してるの…。なにを…するの…。なにを…させるの…。やめて…やめて〜…)
 沙希は朦朧とする、頭の隅で必死に抵抗していた。
「へへへっ、自分の女と思っていた奴に、ボロ屑にされる。身体は痛みを感じ無くても、心は痛むだろ? しかも、その女は俺に犯されながらそれをするんだ。笑えるだろ?」
 東はニヤニヤ笑いながら、沙希の手に添えた両手を勢い良く振り下ろす。
 沙希の持ったハンマーは、庵の左腕にめり込んだ。

 沙希の目はその光景を、まるでスローモーションのように見ていた。
 固い樫材の柄に、赤い大きな鉄の塊。
 鉄の塊は、充分な重さが有り、それが重力で落ちて行き、手を振り下ろす力で加速して行く。
 鉄の塊が庵の左の腕に吸い込まれて行った。
 ハンマーの柄を通じて、庵の腕の骨が砕け、肉がひしゃげる感触が沙希の手に伝わる。
 その感触と同時に、重い物が柔らかい肉を潰す音と、乾いた太い木が折れるような音が、沙希の耳朶を打つ。
 その感触と音は沙希の身体全体に伝わり、自分が行った事を刻みつけて行く。

 沙希の虚ろな瞳から、ボロボロと涙が溢れ出し、身体がブルブルと小刻みに震え
「い…や…〜、いや、イヤ、嫌〜〜〜! ひぃーーーーーっ!」
 悲痛な叫びが、金切り声に変わり唇から漏れる。
 東が沙希の声に驚き、その身体を抱き締めると、パニックを起こした沙希は暴れ始める。
 沙希の悲鳴を聞いた瞬間、庵は無意識に飛びかかろうとした。
 だが、身体が全く反応しない。
 庵の脳がそれを叱咤するように、強い指令を神経に伝達する。
 強い指令は庵の身体全体に行き届き、全ての神経細胞を揺り動かした。
 その瞬間庵の意識が、筋肉の運動以外の物を知覚する。

 庵は、自分の身体の中に起きた変化を感じながら、目は沙希の行動を追い認識を始めた。
(何だ! どう言う事だ? 沙希の悲鳴。そう言えば沙希の表情は、どこかで見たぞ!)
 庵が記憶を探り始めると
「遅いと思ったら何をしているんです! 直ぐに私の元へ、戻しなさいと言っていたでしょ!」
 男の声が、東を叱責した。
 庵の目の位置からは、その男の顔は見え無かったが、その声には聞き覚えが有った。
「お前か…。沙希に何をした!」
 庵は、酔ったような呂律の回らない声で、男に問い掛けたが、男は庵を無視して沙希の耳元に[落ち着いて、眠れ]と低く囁く。
 沙希はその声に、パニックを押さえ込まれ、スッと眠りに付いた。

 男は足早にその場を立ち去ろうとしたが、庵の行動がその動きを封じる。
「待て…。お前、沙希に何をした…。お前が、元凶か…。佐山!」
 庵は佐山を呼び止めながら、筋弛緩剤で麻痺した身体で、頭を持ち上げ顔を佐山に向けた。
「化け物か…お前は…。筋弛緩剤を打ってるのに、動ける筈が無い」
 顔を自分に向け睨み付ける庵を、驚愕の目で見詰める。
「その女を…。沙希を置いて行け…。じゃなければ、俺を必ず殺せ…。もし、俺が生きて居れば、俺はお前を必ず殺す」
 庵は歯を食いしばって、佐山に告げる。

 佐山と庵の間に東が、割って入ると
「ああ…大丈夫…。お前のご希望通り、完全に殺してやるよ」
 庵を見下ろして、答えた。
「後は、任せたぞ」
 佐山はそう告げると、沙希を連れ足早に消えて行った。
 佐山が去った後、庵の周りを10人の男達が、手に凶器を持ち取り囲んだ。
 男達は動けない庵を見下ろし、ニヤニヤと笑っている。

 庵は身体を襲う感覚と、腹の奥底から湧き上がる怒りに、震えていた。
 それは、沙希の金切り声を聞いた瞬間、庵の中に起きた変化だった。
 その感覚は、両腕から細波のように広がり、今では全身を包んでいる。
 庵の顔は蒼白に染まり、脂汗が全身を濡らす。
 それは、骨折を起こした時の通常の反応だが、その反応を引き起こす原因は[痛み]である。
 庵のどうしても繋がらなかった神経のスイッチは、沙希の悲痛な叫びで最悪な状況下で繋がったのだった。
(くっ…! これが、痛みって奴か…。この状況で、神さんも…エグいな…酷な事をする…)
 庵の頭が、再び地面に投げ出され、東がスレッジハンマーを振りかぶる。
(流石に、この状態は…ヤバいな…。狂さんがいつ気付くかが…問題だな…)
 庵は近付く東を見詰め、自嘲気味に微笑んだ。

◆◆◆◆◆

 庵が筋弛緩剤を、打ち込まれる少し前。
 学校の旧生徒会室で、稔と狂は鍵の出所について話合っていた。
「鍵のナンバーは庵の物ですし、必然型を取ったのは、沙希でしょ」
 稔の落ち着いた声に、狂が不満そうに口を開く。
「そりゃ、解るがよ…。お前…沙希の行動どう思ってる? 庵はよ、俺達と違って素直だからよ…。その…、沙希に裏切られてるって知ったら…、相当ショックだと思うんだ…」
 狂の言葉に稔が頷き。
「ええ、分かります。でも、沙希の性格や反応から考えると、僕は有る仮説に行き着くんです。校長達の時にも影を見せて居ましたが、その答えが立証されると、沙希の言動も全て説明が付きます」
 稔は既に仮説を構築し、その仮説に確信すら持っていた。

 稔の言葉に、狂がボソリと呟く
「催眠術だろ…」
 狂の呟きに、稔がコクリと頷くと
「んだけどよ…、お前にそれを気取らせずに、催眠術を掛けられる何て、どんだけのレベル何だ?」
 狂が稔に問い掛けると
「純粋にそのクラスだと、Aプラスのクラス以上ですが…。沙希の場合は僕達の油断もありましたし、今回はBプラス辺りじゃ無いですか? 術の設定に問題が多い、性格的な物か立場的な物かは分かりませんが、強引な傾向を感じます…」
 稔は冷静に分析し答えた。
「問題はだ…、どこの誰で、どんな目的なのか、どこまでこの計画を知ってるか…って所だな…。」
 狂がボソボソと呟く。

 稔は、狂の表情の変化に気が付き、問い掛ける。
「狂…、楽しそうですね…」
 ポツリと狂に問い掛けると、狂はニヤリと笑い
「ああ…。情報戦で遅れを取ったのは、久し振りだからな…」
 稔に告げる。
「全く、へそ曲がりですね…、不利に成った方が楽しい何て」
 稔が呆れると、狂は鼻で笑い
「馬〜鹿…、勝と分かってる勝負より、ギリギリの緊迫感が有った方が、楽しいに決まってるだろうよ」
 稔に言った。
「ですが、この計画は失敗する訳には、いきません。余りにも、多くの人の人生が掛かって居ますから…。その事は、肝に銘じて下さいね」
 狂に向かって、真剣な表情で告げる。

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