夢魔
MIN:作
■ 第28章 暗雲15
狂が稔の言葉に、反論しようと口を開き掛けた時、稔と狂の携帯電話が、けたたましい音を立てた。
2人は直ぐに反応し、ポケットから携帯電話を取り出し、発信元を確認して驚いた。
「庵?!」
「この音は、破損だ! アイツがこの音を鳴らす何て、有り得ねぇ! ヤバいぞ!」
狂が顔がを上げた時には、稔の姿は旧生徒会室から消えていた。
狂が慌てて、稔の後を追い廊下に飛び出すが、その姿はどこにも無く、窓から校庭を見ると、稔の姿が校舎から飛び出して来た。
(アイツ…ほとんど、飛び降りたな…。3階から数秒で降りてった…)
狂は呆気に取られながらも、直ぐに階段に向かった。
稔は携帯電話の待ち受け画面に浮かんだ、地図と光点を記憶から呼び起こし、町の状況と摺り合わせる。
月明かりの町を稔の身体が、高速で移動する。
右手に木々が密集する場所に来ると、黒い車が走り去って行く。
稔は直感的に関係者だと理解したが、流石に車に追い付く事が出来ず、足を止める。
その時右手の木々の向こうからする、大量の人の気配に気付き、身体を移動させた。
稔はそこで、信じられない物を見る。
庵が地面に横たわり、10人程の男達に取り囲まれていた。
(庵…何の冗談ですか…。貴方が、地面に這いつくばる何て…)
稔がヨロヨロと近付くと、取り囲んでいた男の一人が、稔に気付き
「おい、見せ物じゃねぇよ! 怪我しない内に、消えな!」
怒鳴りつける。
だが、稔はそんな物は、まるで目に入って無いように、庵を見詰めて進み続ける。
男は苛立ちを浮かべ、稔の顔を睨み付け、バットを突き付ける。
稔は無表情で、半分だけ目を開き、まるでさっきまで居た、沙希のような表情をして男達に近付いた。
無視された男が、激昂し稔にバットで殴り掛かる。
バットは空を切り地面を打ち付け、男は魂切る悲鳴を上げ顔を押さえながら、地面をのた打ち回る。
稔の手は、血で真っ赤に染まって居た。
のた打ち回る、男の悲鳴で、一同が稔の存在に気付く。
「て、手前ぇ…。あん時の片割れ…」
東が呟くと、谷が前に進み出て
「俺…、やる…」
ボソリと呟き、腰の後ろに両手を回し、ゆっくりと前に持って来る。
谷の指の間には、4本ずつ長さ15センチ程の、スリングナイフが持たれていた.
スリングナイフとは、両刃の投擲用ナイフで、長さは10センチに満た無い物が普通で有る。
投擲用ナイフの為、それほどの長さを必要としないのと、重量が増えると殺傷能力が高く成りすぎる為だった。
谷が、持って居るナイフは通常の倍近く有る上、刃の脇に血抜き用の溝迄切られている。
完全に殺傷を目的としていた。
谷の両手が上下に二度ずつ動くと、合計8本のナイフが、2本ずつ僅かにタイミングをずらし、一直線に稔に向かって飛んで行く。
「よけられ…無い…」
谷はニヤリと不気味に笑い呟いた。
全てをかわすのは、誰がどう見ても無理なタイミングと速度で有ったが、稔には何のダメージも与えなかった。
稔の代わりに、側に立っていた男が悲鳴を上げる。
ナイフが谷の手を離れた瞬間、稔が素早く引き寄せ、盾にしたのだ。
男の背中には、8本のナイフが全て、深々と刺さり、ビクビクと痙攣している。
稔の取った回避行動は、確かにそれしか自分の身体を守る事は、出来なかった。
だが、人はそこ迄合理的には、動けない。
周りの男達は、稔の冷徹さに寒気を覚え、固まっていた。
稔に遅れた狂が、物音を頼りに公園の中を見ると、直ぐに顔を引き痙らせて、茂みの中に頭からダイブする。
狂は目線を稔に釘付けにしながら、携帯電話を取り出しコールした。
「し、真さんとんでも無い事に成った、稔が暴走してる。死人が出る前に何とかしないと…。場所は…」
狂が小声で真に、状況と場所と注意を口早に与える。
『狂君、その場所なら、車で1分掛からない…直ぐに向かうよ』
真は狂に伝えると、直ぐに通話を切った。
狂は茂みの中で息を殺しながら稔の姿を凝視し、ソッと携帯電話をポケットに仕舞う。
稔が、背中にナイフを生やした男を打ち捨てると、付近の男が我に返り、稔に木刀で殴り掛かる。
稔は木刀をスルリとかわすと、男の隙だらけの喉に拳を叩き込む。
男は気管支を潰され、血泡を吹きながら悶絶する。
今度は男達が同時に木刀とバットで殴り掛かると、稔は木刀の男の手を掴み、バットの男の打撃を掴んだ男の腕で受け、怯んだ男の股間を蹴り上げる。
股間を蹴り上げられた男は、その一撃で生涯、生殖能力を無くした。
仲間のバットを腕で受け止めさせられた男の腕は、綺麗にへし折れ開放骨折を起こし、喚いている所を稔の膝に、鳩尾を抉られ静かに成った。
稔の戦い方に、全身寒気に襲われた東は震え上がる。
(な、何だこいつ…。人を傷つける事に、全く躊躇いが無い…。ヤバいぞ! こいつも、このガキ同様バケモノだ…。このままじゃ、殺されちまう…)
東は顔を引きつらせ、谷に目配せすると残りの男達をけしかけた。
「おい、何してんだ! 相手は素手で、たった一人だぞ。囲んで一斉に潰せ!」
東は大声で、周りの男達を鼓舞する。
だが、男達が稔を取り囲むと、東と谷はクルリと背を向け、脱兎のごとく逃げ出した。
■つづき
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