夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲18

 狂は鼻を啜り上げ、満面に笑顔を浮かべ
「そりゃ、最悪のタイミングだな。日頃の行いだぜ、きっと」
 涙をボロボロ溢して、悪態を付いた。
「狂さんにだけは、言われたく有りません…」
 庵は明るく笑いながら、狂に告げる。
 狂は涙を拭いながら、何度も頷くと真剣な表情になり
「沙希の事だけどよ、やっぱりあいつが犯人だった」
 庵に情報漏洩と裏工作の犯人を告げた。

 庵も真剣な表情で頷いて
「ええ、解っています。ですが、あいつが裏切ってない事も、解りました」
 庵は沙希が犯人だと認め、尚かつ裏切っていない事を告げる。
「お前…何か見たのか?」
 狂が問い掛けると、庵は大きく頷き
「だから、狂さんに変わって貰ったんです…。狂さんじゃなきゃ、駄目なんです」
 真剣な表情で狂を見詰めた。
 狂はしばらくの間、黙って庵の視線を、正面から受け止める。
「ああ、解ったよ、ったく、言ってみろ。お前がそんな顔した時は、依頼じゃなくて、殆ど命令だもんな…」
 狂はぶつくさ言いながら、真剣な表情を庵に向け、耳を傾けた。

◆◆◆◆◆

 緊急手術を終えた2人の医師が、医院長室で寛いで居た。
 溝口は3人掛けのソファーに身体を投げ出し、肘掛けに頭を乗せて横に成っている。
 金田はバーカウンターから、ブランデーの水割りを2個もって、応接セットに向かい、横に成った溝口に差し出した。
 溝口は金田からグラスを受け取ると、上体を持ち上げ
「しかし、あの少年の身体は凄かったな…。どう鍛えれば、あんな身体になれるんだ…」
 金田に庵の身体の感想を告げる。

 金田は溝口の正面のソファーに座り、クッっと一口水割りを煽ると
「彼は、肉体も素晴らしいが、発明家でも有るんだ…、様々な道具を作り出す…。もう一人小さな少年が居ただろ、あの少年はコンピューターの天才だそうだ…。小太りの青年は、性技に特化していて、みんな超人レベルの能力らしい…」
 溝口にそれぞれを簡単に紹介した。
 溝口はグイッと、かなりの量の水割りを口に放り込むと、ゴクリと音を立てて飲み込み、大きな溜息を吐く。
「あんな連中に奴隷の調教をされたら…、そりゃ、凄いレベルに成るわな…。あの横にいた女性もそうだろ? 普通じゃない色気だったモンな…」
 溝口が項垂れた顔を、スッと金田に向けて問い掛けると
「ああ、彼女は稔様が通う学校の、養護教員だ…」
 金田はまた、チビリとグラスを傾け水割りを煽り、答えを返した。

 溝口は金田の答えを聞いて、再び水割りを口の中に放り込むと、音を立てて飲み込み、項垂れてジッと何かを考え
「俺は心底、今のお前が羨ましい…。あんな連中とつるめて、あんな綺麗な家族に入り込んで、何かをしようとしているお前が、心底羨ましい…。だが、俺はそこには入れないだろう…。世界が違いすぎる…」
 溝口はボソボソと告白する。
 溝口の告白を聞いて、金田は[くくくくっ]と噛み殺した笑いを浮かべた。
 溝口は金田の笑いを聞き、ムッとした表情で顔を上げると
「溝口、お前が俺にそれを言うなよ。世界が違いすぎるって言ったら、こうなる前の俺はどうなんだ? お前や俺の世界なんか関係ないんだよ。選ばれるかどうかだけなんだ…、そしてお前はもう選ばれている。俺が、お前に話した事は、全て稔様の許可の元、お前に話して居るんだ。良かったな、玉置の爺さんがお前の病院に入院して…、俺という友人が居て…」
 金田は笑いながら溝口に告げた。

 溝口はキョトンとした顔を金田に向けると
「お、俺が選ばれた? お前達の仲間に…? 本当に? 冗談抜きで…?」
 溝口は身体をジリジリと金田に近づけながら、何度も問いかける。
「ああ、後は、稔様が用がある時に、相談される。それを受けるか受けないかで、稔様の対応が変わってくる…。俺の時もそうだった」
 金田がそう言うと、溝口はテーブル越しに、金田に抱きつき
「俺、お前の友達やってて、本当に良かった!」
 金田に感謝した。

 金田が溝口の腕の中で藻掻いていると、溝口は急に金田の身体を離し
「おっと、忘れる所だった。あの少年に使われていた、筋弛緩剤…。ありゃ、普通の病院には無いぞ…、ここくらいの規模の救急病院じゃなきゃ、先ず置いてない…。どの、病院から持ち出したのか、調べれば直ぐに解るはずだ」
 真剣な表情で、溝口に告げると
「ああ、解ってる…、俺もそれを考えていた…」
 金田は溝口の意見に頷いて、同意した。
 すると、その時扉を開けて、一人の少年が入って来た。

 少年はにこやかな笑顔を浮かべ、ズカズカと医院長室に入り
「よっ。お邪魔するぜ」
 かなり、偉そうな挨拶をした。
 その少年は言わずと知れた、狂だった。
 金田は突然の狂の登場に驚いて
「あ、ああ…ど、どうぞ、どうぞ…」
 慌てながらソファーを勧める。

 狂は金田の勧めるソファーにドッカと座り、いきなり話を切り出した。
「あのよ〜、庵な…転院させるから」
 開口一番の狂の言葉に、金田と溝口は呆気に取られる。
「あいつさ、チ○ポが無かったろ。それの再生手術をこの機会にやりたいって、駄々捏ねやがってよ、アメリカに返すわ」
 更に、突拍子もない話で、金田と溝口は頭を捻った。
「あ、渡米の手続きとか、足の方はもう調達したし、後は主治医のOKだけ何で、金田さん頼む」
 狂の示した移送方法は万全の物で、例え瀕死の重症患者でも運べるプランだった。
 狂の準備万端の行動は、金田に有無を言わせなかった。
 金田は狂の持って来た書類にサインすると、狂は直ぐに立ち上がり
「じゃぁ、お世話様」
 一言言って、医院長室を後にする。
 ポツリと残された、金田と溝口は顔を見合わせ、溜息を吐いた。

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