夢魔
MIN:作
■ 第28章 暗雲23
佐山が柏木を配下に納め、竹内の屋敷に戻って来ると、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
佐山が訝しみながら、伸一郎の執務室に行くと
「全く、どう言う事なんだ! 説明しろ!」
伸一郎の怒鳴り声が、廊下にまで響いて来る。
佐山はノックをして、素早く執務室に身体を滑り込ませると
「如何、致されたのでしょうか?」
伸一郎に頭を下げて質問した。
伸一郎は顔を怒りで真っ赤に染め
「そこの、馬鹿共に聞け! 全く、何のために社長の椅子に座っていると思ってるんだ。多少のトラブルぐらい、自分達で何とかしろ!」
佐山に告げ、部屋の隅で小さくなっている、2人の男を指差し罵倒した。
佐山がそちらを向くと、男達は脂汗を浮かべ、しきりに汗を拭っている。
2人共顔面は蒼白で、なにやら重大な事が起きた報告の様だった。
「確かTNシステムズの、加西社長でしたね。一体、どうされたんですか?」
佐山が問い掛けると、加西は脂汗を拭いながら
「あ、あのですね…、何者かが我が社のメインフレームにアクセスして、データーを全て消してしまったんです…。プログラムも、システムドライバーも、顧客データーも、バックアップデーターも…OSすら全て消えてしまったんです…」
佐山にとんでも無い事を説明した。
「ちょ、ちょっと待って下さい。TNシステムズは、竹内グループの全てのデーターを管理していましたよね…。そのデーターが消えてしまったと言う事は、竹内グループのデーター全てが消えたと…。そう言う事ですか…」
佐山が呆然として、加西に問い掛けると、加西は小さな声で[はい]と答える。
佐山は直ぐにそれの意味する事を理解し
「この件で、竹内グループに与える損害は?」
加西に鋭い口調で問い掛けると
「はい、概算で1日2億円程…復旧に全力を傾けても、1週間以上は掛かりますので、実質20億円以上の損害に、それと、その間の顧客離れを考えますと…30億円以上の損失は免れないかと…」
加西の横に立っていた平賀と言う、技術担当役員が汗を拭きながら答えた。
その金額を聞いた伸一郎が、目を大きく剥いて
「馬鹿者! 直ぐに直せ、今直ぐにだ!」
加西と平賀に怒鳴りまくる。
加西と平賀は身体を竦めて、ビクリと震えると
「しかし、システムエンジニア長の吉松が…行方不明に成りまして…。システムを熟知している者が、居ないんです…」
平賀が怖ず怖ずと、縋り付くような声で告げた。
佐山は吉松の名前を聞き、ピクリと反応し
「吉松さんと言う方の、自宅には行ってみたんですか?」
平賀に静かに問い掛けると
「はい、朝出社しなかったので、直ぐに社の者を向かわせたんですが、家財道具も全て無く成って、もぬけの殻に成っていたんです…」
加西がビクビクしながら、佐山に答える。
佐山はその言葉を聞いて、頭の中で全て繋がった。
(吉松の奴…あのガキに、一杯食わされやがった…。大失敗して、とんずらしやがったんだ…、あの野郎ふざけた真似しやがって…、見つけ出して絶対ぶっ殺してやる! ちっ、それよりも、こりゃ間違いなくあのガキの仕業だ…、全くとんでもねぇガキ共だぜ…。くそ、俺の単独で動いた事だから、この爺にも上手く誤魔化さなきゃなんねぇ…)
佐山が頭の中で悪態を付き、伸一郎に向き直ると
「会長、私この手の事のエキスパートに、心当たりが有るんですが…」
進言を始める。
◆◆◆◆◆
純は自宅でボーっとテレビを見ている。
今朝方、学校へ行こうとした所、狂に止められ自宅で待機していた。
(重要な電話って…何だろ…)
純は狂にそう言われ、終業式にも出ないで、ぼんやりテレビを見ている。
用件を聞き直そうにも、狂は意識の奥で完全に眠っており、返事も返って来ない。
純はどうする事も出来ず、リビングで待機していた。
9時を少し過ぎると、純の携帯電話が鳴り始め、純がサブディスプレイを確認すると[竹内]と表示されていた。
純は慌てて、意識の奥に眠る狂に話し掛けると、先程まで、どれだけ声を掛けても反応しなかった狂から、返事が返ってくる。
(おう、解った。直ぐ変われ!)
狂は意識の奥からそう指示すると、純と入れ替わり表層に現れた。
純と入れ替わった狂は、早速携帯電話を操作すると
「はい、工藤です」
少し固い声で、電話に出た。
狂が電話に出ると、携帯電話から伸一郎の焦った声が
『おう、工藤君! 君は確か、かなりコンピューターに詳しかったな! 済まんが、この爺を助けてくれ』
狂に懇願してきた。
狂は伸一郎の声を聞き、ニヤリと笑うと
(へへへっ…、案の定吉松の奴、会社のメインフレームを使ったな…)
昨日狂のパソコンから、データーを引き抜いた吉松が、会社のメインフレームでウィルスを発症させた事を理解する。
狂が仕掛けたトラップデーターは、メインフレームクラスのコンピューターで無ければ、読み取り出来ないように成っていたのだ。
それを、吉松は会社に持ち帰り、読み取ってウィルスを蔓延させ、会社のメインフレームを動かなくしてしまったのだろう。
狂は電話口に向かって
「良いですよ。俺も話がしたかったし、条件次第で手助けぐらいしますよ」
取引を始める。
『ああ、解った。どんな条件でも飲んでやるから、直ぐに来てくれ! 迎えをやるから、家の場所を教えてくれ』
伸一郎は直ぐに了承して、迎えを寄越すために狂の自宅の位置を訪ねた。
「いや、俺も所用が有って、今は自宅に居ないんですよ。駅前で落ち合いましょう」
狂は嘘を吐いて、自宅の住所を教えなかった。
万一のための用心である。
狂は竹内達の事を始めから全く信用して居らず、徹底的に自分の情報を隠していた。
狂は通話を終えると、直ぐに私服に着替え
(全くよ、本来なら俺が家に居るはず無いだろ…。今日は終業式だっつうの…、まぁ、それを忘れるくらい慌てたんだろうけどな…。多分、1日2億は下らない損失が出る筈だし…、ざまぁみろ…)
満足そうに笑いながら、自宅を後にし駅に向かった。
狂は念のため、タクシーを拾いわざわざ遠回りをして、駅に向かう。
■つづき
■目次3
■メニュー
■作者別