夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲25

 狂が制服に着替え学校に着いた時は、既に終業式も終わり、LHRも終わっていた。
 学校にはまだ、ちらほらと生徒が残っていたが、皆項垂れ肩を落としている。
 恐らく期末試験の成績と、夏休みが無く成ってしまった事が、原因だろうが皆表情に覇気がなかった。
(あ〜ぁ…悪く思うなよ…。これも計画の一環何でな…)
 狂は涙ぐむ少女の横を通り過ぎながら、旧生徒会室に急いだ。

 旧生徒会室に入ると、稔が待ち構えていた。
「狂! 昨日の勝手な行動は、一体何だったんですか。説明して下さい」
 稔は狂の顔を見るなり、開口一番詰問する。
 狂は稔の詰問を軽くあしらうと
「それよりよ。これから、庵の抜けた穴どうする? 実働と責め具のメンテナンスはあいつに任せきりだった。それが、抜けるとなるとこの後、かなり厄介だぜ…」
 稔に向かって問題を投げかけた。
「誤魔化さないで下さい。僕にとっては、その庵をなぜアメリカに返したのか。なぜ僕を置いて帰ったのかを説明して貰わなければ、納得行きません」
 稔は狂の言葉を全く聞かず、自分の質問を優先させる。

 狂は稔のそんな態度に、苛立ちを覚え
「うるせぇ! お前の気が収まらないのと、計画の補正どっちが大事なんだよ! 良っく考えろ!」
 狂は稔に捲し立てると、稔と睨み合った。
 稔はジッと狂を見詰めながら
「僕に言えない理由が有るんですか?」
 静かに狂に質問を繰り返すと、狂は呆れ果ててしまい
「庵は痛覚が戻った。だから、あいつはチ○ポの再生手術をしに帰った、日本じゃ出来ねぇしな…。それに、6ヶ月間ベッドに寝たきりに成るのに、あいつがそれを我慢出来ると思うか? 沙希の件や自分の仕返しをほったらかしにして、あいつが黙ってベッドで寝て過ごすと本気で思うか? 俺は思わなかった。だから日本から離したんだ!」
 稔に庵をアメリカにやった理由を話した。

 狂の理由を聞いた稔は愕然とし
「庵に痛覚が戻った? それは、本当の事ですか?」
 狂にボソリと問い掛けると、狂は顔を真っ赤にし
「こんな事で、お前に嘘付いて俺に何の得があるんだ! 好い加減にしやがれ! 昨日てめぇを置いて帰ったのだってな、いつもの[暴走]じゃ無かった。突然、何の前触れもなく入ってたんだ。そんなお前に俺が居て、何が出来る? 何も出来やしねぇ…だから、お前が信頼を置いてる美香を置いて行った。俺のオーバーワークも考えろ! 充分な睡眠を取らないで、肝心な時に俺が出て来れなくなったら、それこそどうすんだよ!」
 稔に言い放つ。

 稔は狂の言う事に、反論出来ず言葉を詰まらせる。
 狂は大きな長い溜息を吐くと、ジッと稔を見詰め
「おめぇよぉ〜…一体どうしたんだ? 何か、意固地になってねぇか?」
 狂は稔を心配そうに問い掛けた。
 稔は珍しく項垂れると、ボソボソと狂に話し始める。
「僕にもよく分からないんです…。昨夜目が覚めてから、何故か自分を自分でコントロール出来ないんです…」
 稔の告白を聞いて、狂はピクリと反応した。
(ちょ、ちょっと待て…稔が自分をコントロール出来ないって…。それって、欲望に流されるって事か?)
 狂は稔との長い付き合いで、稔の口から初めて聞いた言葉である。

 稔は昨夜の病院の個室で自分に起きた事を、狂に話し始めた。
「目が覚める前にとても、気持ちの良い手を触っていて、その手に誘われるように瞼を開けると、病院の天井が見えました。僕は辺りを見渡して、その手の持ち主が美香だと直ぐに解りましたが、美香は固く目を閉じて少し震えていました。僕は美香の恐怖心を取り除こうと、髪を撫で声を掛けると、美香の強張りは途端に解けて…。その時急にお腹が減ったんです」
 稔が狂にそう告げると、狂は頷きながら
「んだよ…いつもと同じパターンじゃねぇか…」
 稔に告げると、稔は顔を左右に強く振り
「違います。いつもはお腹が膨れて回りを認識するのに、昨日はお腹が空いた状態で回りを認識出来ました。ここには、間違いなく大きな差が有ります」
 狂に説明する。

 狂が納得して口を開こうとした時、稔が少し俯きながら、何かを思い出すように話の続きを始めた。
「僕は用意して有った食料で、空腹を満たすと途端に有る欲求が込み上げてきて、その欲求が押さえ切れなかったんです」
 稔がそう告げると、狂は訝しそうに眉をひそめ
「その欲求って何だ…」
 稔にソッと問い掛ける。
 稔は顔を持ち上げ、狂に目線を向け
「はい、[性欲]です。僕は思わず美香を引き寄せ、美香を抱きました。そのSEXが、今まで感じた事の無い快感を産んだんで、かなり戸惑いました。多分美香もそうだったと思います…」
 稔が静かに答えた。

 稔の答えを聞いて、狂のこめかみの辺りがピクピクと痙攣し
「それじゃ、何か…。お前は自分でプッツンと切れて、目が覚めて腹を満たし、ムラムラ来たからSEXして、その口で俺を責め立てるのか? 自分の連れが死にかけるような大怪我をしたのに、お前は安否を確認する前に一発やって、それが凄く気持ち良かったって俺に言って、何で待って無かったって俺を責めるんだな?」
 狂が静かに稔に問い掛けると、稔は頷いて
「結果的には、そう言う形になります」
 狂の言葉を肯定した。

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