夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲29

 稔は玉置を見舞うために美香を伴い、タクシーの車中に居た。
 途中美紀から電話で連絡が有り、玉置が昏睡状態から目覚めた事を知る。
 稔はその連絡を受けて、ホッと胸をなで下ろした。
 稔の頭の中には、当面の問題。
 学校に登校すらしていない、沙希の行方だけが広がって行く。

 タクシーが溝口の病院に着くと、稔は美紀から聞いていた個室に向かい、扉を開けると医院長の溝口が、診察をしていた。
「こんにちは、玉置さんお加減はどうです?」
 稔が問い掛けると、玉置は顔を歪めながら
「全治6ヶ月の怪我じゃぞ…。良い訳が無かろう…」
 稔にか細い声で、悪態を付く。

 稔は微笑みを浮かべたまま、玉置に向かい
「そう言う事を言うと、美紀が心配しますよ…」
 言葉を返すと、美紀が心配そうに玉置の顔を覗き込む。
「美紀、大丈夫じゃ…、気にせんで良い…。たく…お前も酷い奴じゃな…、そんな返し方するなんて…」
 玉置は美紀に笑顔を向けながら、稔に向かって苦笑いする。
「ええ、僕はサディストですから、平気で酷い事を言います。僕に言われたくなかったら、早く元気になる事ですね」
 稔はニヤリと笑って、玉置に告げた。
 玉置も笑いながら、稔の言葉を認めると、2人で笑い合う。

 稔と玉置は取り留めのない話をしていたが、事故の話になり、稔が玉置に問い掛ける。
「玉置さん…。今回の事故は、明らかに玉置さんご自身を狙っていました。怪我の具合から言って、先ずそれは間違いないでしょう。玉置さんとしては、どうですか? 心当たりは有りませんか?」
 稔の問い掛けに、玉置は暫く考え込むと
「竹内じゃろうな…。実は儂は、この手の事は4回目なんじゃ…。以前にも3回跳ねられ掛けた…」
 玉置の重い唇が開いて、それを告げると、稔の眉毛がピクリと跳ね上がり
「竹内さん…? 玉置さんは、竹内さんと何かトラブルが有ったんですか?」
 再び玉置に問い掛けた。

 玉置は稔の顔をチラリと見ながら
「土地じゃよ…土地。あいつは、儂の持っておる土地が、欲しくてたまらんのじゃ…5つの貸しビル、4つの工場、2つの倉庫に学校とその近辺の土地…、それだけの土地を儂は竹内に貸しておる。あいつはそれが欲しくて、堪らんのじゃ…」
 稔に説明する。
「どうして、玉置さんは売らなかったんです?」
 稔の質問に玉置はニヤリと笑って
「嫌がらせじゃ…。じゃが、悪いのはあいつの方だぞ、最初ふざけた値段で儂に交渉して来て、圧力を掛けやがったんじゃ…。儂はその態度に、カチンと来てな…、賃借料を上げてやったんじゃ。それからは意地の張り合いで、あいつに貸してる土地の坪単価を、今年の契約更新時に年間3万程に上げてやった。そうしたら、このざまじゃ…」
 事情を説明し、最後は自嘲気味に顔を歪めた。

 稔は不思議そうな顔で、玉置を見詰めながら
「年間3万円でですか? それで、こんな事まで…」
 ボソボソと呟くと、玉置はおかしそうに笑い
「柳井君。年間3万円とは言え、儂があいつに貸している土地は4万坪だ…。換算すると年間12億の貸借料が発生しとる。儂は他の者に貸している、金額は大体0.72万で貸しておるから4倍の値段じゃ。3億が12億に成ったら、詫びの1つでも入れに来るかと思っておったが…。甘かったのう…、こうまで変わっとるとは思わなんだ…」
 稔に教えると、大きく溜息を一つ吐いて、額をボリボリと掻く。

 稔は玉置の説明に納得し、語尾の口調から玉置と竹内が、古くからの知り合いで有る事を知る。
「玉置さん…、理事長とは古くからのお知り合いですか?」
 稔は玉置に問い掛けると、玉置は大きく頷き
「3つ年が違うし、直接連んだ訳では無いが、中学、高校と同じ学校じゃ。儂もあいつも地元じゃ名士の息子で通っておったからな…、自ずと話は耳に入ってくるし、何度か逢った事もある。昔から、我が強くてアクの強い男じゃったが、あそこまで酷くは無かった。そうじゃな、ここ10年程であいつはかなり変わった」
 玉置は伸一郎の人物評を稔に告げ、考え込むと伸一郎の人物像が、現在と大きく変わった事を話す。

 玉置が話し終えると、同席していた溝口が口を開き
「多分、玉置さんより私の方が、竹内さんの事は詳しいと思います。何せ30年サディストをしていますから、ここいら辺のサディストとは、かなりの交流を持っていて、情報交換なんかも頻繁に行って居るんです。その中でも、竹内さんは余り、評判が良くないですね…、最近…そうここ5年くらいは、女性を物のように扱っていますし、竹内さんが連れている奴隷達はかなりの傷が有りました。その徴候が出だしたのが、玉置さんの言う通り、10年程前からです」
 伸一郎の実態を明らかにする。

 稔は玉置と溝口が伸一郎の過去を、詳しく知る人物と理解し、2人に有る事を依頼した。
「済みません…、大変不躾な事なんですが、お二人に催眠術をおかけしても宜しいですか? その中で、竹内さんの過去の情報をお教え頂きたいんです…」
 稔の申し出に、玉置と溝口が顔を見合わせ驚き合ったが、2人とも快諾する。
 稔は1人ずつ催眠術に掛け記憶退行させると、2人の記憶の中にある伸一郎の行動や言動を引き出して行く。
 2時間程掛けて、稔が2人から情報を聞き出すと、稔は2人にある暗示を掛け、催眠を解いた。
 稔はこの後この2人が、他者から催眠を掛けられても、それをブロックするように、プロテクトを施したのだ。
 今の稔には佐山の名は解っていなかったが、確実に催眠術師が関係している事を感じていた稔にとって、それは張らなければ成らない予防線だったのである。

 2人の協力者から情報を集めて稔は、美紀を残して病院を後にした。
 稔は帰りのタクシーの中で、目を閉じ腕組みしながら、頭の中で情報のパーツを、組み合わせ始める。
 その情報は、物理的に入手した情報並みの、主観が入らぬ物で信頼性はかなり高かった。
(これは、完全に僕は騙されていましたね…。竹内さんは始めから、僕を利用するだけのつもりだったようです。庵と良い…、玉置さんと良い…、計画からの排除が決まっていたと見るのが妥当です。次は、僕か狂ですね…、流石に満夫に迄手を出す事は無いでしょう…。問題はどのレベルで、この計画を実行するのかです。主導権が変わる程度なら良いのですが、そんな甘い事を考えるような人物では無さそうです。学校の奴隷化…、大量の奴隷…、それを使うバックボーンが無い以上、人身売買も視野に入れて置くべきですね…。僕を騙した代償は高く付きますよ…)
 稔は眼鏡の奥でユックリと瞼を開け、その瞳に寒気のする光を湛える。

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