夢魔
MIN:作
■ 第28章 暗雲30
美香は稔の表情を見てゾクリと背筋を凍らせ震え上がったが、次の瞬間溜息を吐きながら、頭を抱え込む稔を見て驚いた。
(あ〜ぁ…これは、狂に相当自慢されそうですね…。今回は僕の完全に負けです、僕の洞察力より、狂の解析力が上だった…。狂の指差しながら、笑う顔が目に浮かびます…。しかし、それも狂の腹の虫が治まってからです…。僕から謝っても、何故狂が怒ったか理由が解らない限り、狂は許してくれませんし…。いや、今回の喧嘩は最悪のタイミングです…、困ったモンですね…)
稔は両手を組んで頭の上に置き、タクシーの天井を眺めて、再び大きな溜息を吐く。
稔達を乗せたタクシーは、学校へ到着した。
時間は17時を少し過ぎた辺りだが、まだ工事関係者は帰る気配を見せていない。
どうやら、この工事は24時間態勢で、行われているようだった。
(理事長は、何か相当急いでいるようですね…。僕も、早々に方針を決めて、対抗策を立てなければ…)
稔は工事の進捗状況を見ながら、理事長への対応を考え始める。
自分がかなり後手に回っている事を感じながら、稔は打開策を模索した。
稔は校舎に入ると、黒澤との約束の時間より少し早かったが、そのまま待ち合わせ場所の会議室に向かった。
稔が扉を開けて中に入ると、その中に居た11人の教師が一斉に稔を見詰める。
稔の姿を確認した黒澤が
「やあ、柳井君少し早かったね。今日は宜しく頼みます」
にこやかに笑い掛けながら右手を差し出した。
稔も微笑んで、握手を交わすと
「ええ、ご期待に添えるかどうかは解りませんが、頑張ります。所で、1人増えていますね…」
黒澤に答えて、問い掛けた。
黒澤は微笑んだまま稔に頷くと
「いや、実は向こうの方から声を掛けて来ましてね…。堕とすとかそう言ったレベルじゃ無いんですよ…」
黒澤は頭を掻きながら、2人の首輪の無い奴隷教師を示す。
「そうですか、解りました。でわ、今日はこのお二人に、[服従と支配]を教えるとしましょう」
稔がにこやかに微笑み、2人の女教師に笑い掛けると、驚いていた女教師達は、頬を染めながら俯いた。
稔は黒澤に顔を向けると
「黒澤先生。突然ですが、学校内での調教は控えましょう。今学校には、工事関係者がかなり入っています。どこで彼らの目に触れ、話が広がるか解りませんので、場所を移しましょう」
稔の提案は理に適っており、至極当然だったが、黒澤は戸惑った。
「い、いや。それは解るが、この人数を収容するスペースは、そうそう無いと思うんだが…」
黒澤が稔に意見すると、稔はにっこり微笑んで
「ええ、それは大丈夫です。僕に心当たりが、有りますから」
黒澤の心配を解消する。
稔達13人は学校を出ると、稔の案内の元、狂が絵美を堕としたカラオケボックスに移動した。
黒澤はその外観を見て、不安を感じる。
ビルの1階にちょこんと扉があるだけで、小さな看板が1つ出ているような店を見れば、誰でもそれを感じるだろう。
黒澤の心配を他所に稔が中に入ると、黒澤達教師も後に続く。
黒澤の不安は店内に入って、徐々に驚きに変わって行った。
通路を進むに連れ、店内の内装が豪華な物に変わり、静かなクラッシック音楽が、とてもカラオケボックスとは思えない雰囲気を作っている。
そして、通路の奥まった部屋、[VIP]と書かれた看板が付いた扉を開けると、黒澤達は目を剥いた。
その部屋は豪華絢爛と言う言葉がピッタリの内装で、広さ30畳程有るラウンジのような空間だった。
踝まで埋まるような絨毯が敷き詰められ、3人用のソファーが10脚、半円を描くように置いて有り、その中にテーブルが3脚置かれ、壁際に掛けられた大型プラズマテレビには、どこかの高原の画像が映されている。
真ん中のテーブルの上には、カラオケ用のリモコンとテレビのリモコンが置かれ、それだけがこの店がカラオケボックスだと言う事を思い出させた。
呆然と部屋を見る黒澤達に、稔が部屋の真ん中で振り返り
「さあ、どうぞこちらです。ここには、本格的なカクテルやワイン、様々なお酒も置いています、お好きな物を注文して頂いて結構です。お料理も一品物ですが、和洋中全て有ります、それもご随意に」
黒澤達を呼ぶと、そのままカラオケのリモコンを操作し、テレビにメニューを写しだした。
黒澤は部屋の中央に移動して、ボソボソと呟く。
「こ、こんな店が有ったのか…。しかし、このスペースでこの調度品…、精算が取れるのか…」
稔は黒澤の呟きに
「この店は、かなりの利益を生んでいるそうですよ…。この店は完全会員制で、年収3,000万以上が会員の最低条件です。僕は、たまたまここのオーナーと面識が有って会員に成っていますが、普通は存在すら知りません。この店は完全防音で、こちらが呼ばなければ店員も近づきませんし、オーダー品の搬入もそこの小窓からで、店員は中に入って来ません。いわゆる、セレブ達の密会用…、レンタルルームの感が強いんですよ」
稔はにこやかに説明する。
黒澤が驚きの余り、曖昧に返事をすると、大貫がそそくさと前に進み出し、稔の横に来ると
「ここ、お高いんでしょ…、一体幾らくらいですの?」
稔に小声で問い掛けた。
「ここですか? この部屋だと20人用なので、1時間40万です。勿論飲食料は別ですがね」
稔はにこやかに微笑んで大貫に話すと、大貫は目を剥いて驚き
「ひ、1人1時間で3万円…。私、銀行に行って来て宜しいですか…」
項垂れて、稔に告げる。
稔はニコニコと微笑んで
「ああ、支払いは気にしないで下さい。ここの、支払いは全て理事長持ちですから」
ポケットから財布を出し、アメックスのブラックカードを取り出して言った。
黒澤達教師がその事を聞き、ホッと胸を撫で下ろす。
安心した井本が、コソコソと手を挙げて
「あ、あの、柳井君…。本当に何を頼んでも良いのかい?」
稔に問い掛け、稔が頷くと直ぐにメニューを操作し、高級ブランデーとつまみを頼み始める。
黒澤が呆気に取られ、井本に文句を言おうとすると、それを稔が制して首を左右に振った。
その時の稔の冷たい表情を見て、黒澤は自分達が試されている事に気付く。
■つづき
■目次3
■メニュー
■作者別