夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲33

 黒澤は稔の技術を見て、激しく後悔する。
 それは、誰がどう見ても、真似が出来ないレベルだからだ。
(これは、無理だな…。こんな事、誰にも出来ない…、出来る訳がない…。化け物だと思ったが…ここ迄とは、思わなかった…)
 黒澤がそう思っていると、ほぼ同時に他の教師達、サディストも奴隷も含めて、稔の事を同じ形容詞を使って見ていた。
 そう[悪魔だ…]と、皆同じ言葉を思い浮かべる。

 稔の何の参考にも成らないデモンストレーションが終わり、教師達は稔の進言で緊張を解く。
 稔に僅か40分程で、奴隷に堕とされた2人の女教師は、黒澤グループに入る事を決めたが、中々主が決まらなかった。
 だが、それも稔の進言が有り、最初の女教師が大城に、羞恥責めの好きな後の女教師が、井本を主にする事になる。
 主従関係が決まると、場が和やかになり、稔の薦めでそのまま夕食会に成った。
 歓談している中、稔は黒澤の耳元に
「大貫先生と大城先生を呼んでおいて下さい、ここを出て1時間後場所は、この間のクラブです」
 素早く囁いた。
 稔の思わぬ真剣な声に、黒澤は驚きながらも頷く。
 黒澤の返事を受けた稔は、また何事もなかったように、普通の人間が食べる量で食事を抑えながら、歓談を続けた。

 稔達は高級カラオケボックスで、2時間近く歓談し席を立つ。
 稔は100万近い金額を請求されたが、眉1つ動かさずカードを店員に手渡し、伝票にサインをした。
 教師達は食べた事が無い高級料理を食べ、酒を飲み、夢見心地で帰路に着く。
「でわ、僕はこの辺で失礼しますね」
 稔が別れを告げて歩いて行くと、井本以外の教師は、皆深々と頭を下げて見送った。

 井本は1人電信柱にもたれ掛かり、ヘラヘラと笑いながら稔を見送る。
 井本は飲み慣れぬ口当たりの良い酒と、味わった事の無いつまみのため、泥酔していた。
 稔の姿が見えなく成ると、黒澤はタクシーを拾い、残った教師達に解散を告げ、井本をタクシーに乗せ自分も同乗する。
 タクシーの運転手に行き先を告げると、黒澤は井本を自宅に送り届け、そのまま駅近くの待ち合わせ場所に、タクシーを走らせる。

 黒澤が待ち合わせ場所に着くと、既に2人の女教師が、黒澤の到着を待っていた。
「お疲れ様です黒澤様…。本当にどうしようもない男…、黒澤様の手を煩わせるなんて…」
 大貫が黒澤に挨拶し、井本をなじると
「紗英、そう言うな…。今のところは、まだ同僚だ…」
 黒澤が苦笑いしながら、大貫を宥めた。
 大貫は黒澤の言葉に含まれていた意味に、敏感に反応し
「まだ同僚と言いますと?」
 黒澤に問い掛ける。

 黒澤はニヤリと意味深に微笑み
「私も詳しくは解らん…。だが、柳井君の思惑が、私と同じなら間違い無く、あいつは私のチームから外れる」
 大貫に静かに告げた。
 大貫と大城は黒澤を見詰め、その真意を測ろうとしていたが、カラオケボックスで意識せず居た2人には、皆目見当が付かなかった。
「どうやら、話がややこしく成りそうな気がする…」
 黒澤は不敵に微笑むと、大貫と大城に呟いた。
 大貫と大城は意味が分からず黒澤に促され、稔との待ち合わせ場所、SMクラブに足を向ける。

 黒澤達がSMクラブに到着すると、直ぐに個室に通された。
 個室は黒い扉で以前使った部屋より、かなり高級でシックな内装だった。
 黒澤達が飲み物を頼むと、それが運ばれると同時に、稔が現れる。
 稔はデニムパンツに、VネックのTシャツの上から、生成の麻のジャケットを羽織った、極ラフな格好をしていた。
 だが、稔はその美貌を隠さず、その本性を滲ませている。
 その表情、仕草、視線…、稔の行動全てが、女性を魅了し惹き付け、滲み出すような雰囲気が、マゾヒストの脳髄を痺れさせた。

 稔は黒澤に軽く会釈をすると
「僕にはコーラをお願いします。それと、運び終えたら、呼ぶまでは席を外して下さい」
 稔に見とれているウェィトレスに伝え、ウェィトレスは悲しそうな表情を浮かべ、直ぐに扉を出て行った。
 それを見ていた黒澤が、笑いを噛み殺し
「本当に君は、男の敵だな…。そこ迄、感情をコントロールする方法を教えて欲しいくらいだよ…」
 微笑みを浮かべ稔に告げると、稔は微笑みを返しながら
「僕は、感情をコントロールはしていませんよ。ご迷惑が掛かりますので、真実は言えませんけどね…」
 意味深な言葉を告げる。

 大貫と大城は、稔の言葉の真意を図りかねキョトンとするが、黒澤だけが有る程度稔の素性を知っており、それが冗談でも何でもない事を理解した。
 微笑みを消し、今日の呼び出しが重要な話だと気付いていた黒澤が、ユックリと口を開く。
「私達をここに呼んだのは、何か状況でも変わりましたか?」
 黒澤が真剣な表情で、稔に問い掛けると、稔は大きく頷き
「理事長の事です。ここでの話は、他言無用でお願いします…」
 現在の状況を黒澤達に話し始めた。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊