夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲34

 稔の話を聞いた黒澤達は、皆重く口を閉ざし、自分の考えをまとめている。
 かなりの沈黙の後、黒澤が口を開き、自分の考えを稔に告げた。
「確かに、柳井君の言う通り、状況は差し迫っている。私の目から見ても、あの理事長は誰かの利益のために、自分の金を使うタイプの人間では無い。そして、コネクションを作ったり、それを利用して別の計画を練る程の策士でも無い。この結論から言うと、柳井君が想定している最悪の結果を目的としている事が、ほぼ確実だと私も思う…」
 黒澤がそう告げると、大貫が顔を蒼白にして
「それじゃ、私達は人身売買の協力者に成るじゃ有りませんか! 私は、そんな話し聞いていませんし、協力もしたくは有りません! 私はサディストでアンモラリストですが、鬼畜では有りません!」
 稔に捲し立てる。

 大城が大貫の意見に賛同し、自分も怒りをぶつけようとしたが、黒澤がそれを止め
「解った…、もう良い。悪いのは、柳井君じゃない…、今彼に怒りをぶつけても何も成らない…。で、それを私達に話したという事は、学校内に反理事長派を作るつもりですね…。私達に、雇用者側の2/3の意見をまとめろ…そう言う話ですね…」
 黒澤が稔の言葉から、その意志を汲み取り問い掛けると
「流石、黒澤先生です。私も協力は惜しみません…教師サイドのリーダーに成って頂けますか?」
 稔が大きく頷いて、黒澤に答えた。

 黒澤は稔の瞳をジッと見詰め
「山本孝三は、かなりの加虐趣味を持って居ますが筋を通す男で、源治は、彼を落とせば付いて来るでしょう。迫田は多分私には付いて来ませんし、小室と白井の2人、私は仲間にはしたくないですね…あの2人は偏執的です。井本と森はハッキリ言って、どうでも良い手合いです、頭数として取り込むのも手ですが、トラブルの元に成りそうですよ…。後は、山基光子ですが…、これはハッキリ言って、柳井君が手を貸せば簡単に仲間になるでしょう。あれは、根が軽薄で淫乱ですから、柳井君が誘惑したら間違い無く、仲間に入ります。後は源先生が仲間なら、副理事長の委任状を持つ柳井君を入れて、ギリギリ2/3ですかね…」
 稔の要望に対する、分析を冷静に判断し告げる。

 稔はコクリと頷くと、黒澤を見詰め返し
「ほぼ僕と同じ見解です。僕は、井本と森…それと、山基は必要ないと考えています。彼らでは、到底4人の忠誠は維持出来ない。それに、僕が次に切るカードで、小室と白井も動きを封じれるはずです」
 黒澤に答えると、黒澤はスッと目を細め
「はは〜…、そう言う事ですか…。それで、今日の午後私にあんな事を…。それなら2/3は、確実に取る自信は有りますよ…」
 黒澤は稔の言葉に頷いて、納得して言った。

 稔は微笑みを浮かべ
「ご協力頂けますか?」
 右手を差し出し問い掛けると、黒澤はその右手を握り
「喜んで、引き受けましょう」
 稔の依頼を快諾する。
 稔が大貫と大城に視線を向けて、承諾を得ようとすると
「私は黒澤様の奴隷です。主の従う方に、従いますわ。洋子も同じ意見です」
 大貫が稔に答え、大城もにっこり微笑み、大貫の言葉に同意した。

 黒澤の協力を得た稔は一安心し、4人は和やかな雰囲気で、様々な事を話し始める。
 取るに足らない雑談から、稔の思い描く計画迄、それこそ止めどなく話し合った。
 小一時間経った頃、大貫が何かを思い出し
「あ、やだ…私ったら、すっかり忘れてました…。黒澤様、柳井様…実は、奴隷達が会談に合流したいと、許可を求めていたんですが、私ったらすっかり忘れておりました。もし宜しければ、ここに呼んでも差し支えないでしょうか?」
 黒澤と稔に許可を求める。

 黒澤は、稔を見ながら
「私は構わないが、柳井君はどうかな?」
 問い掛けた。
 稔はにっこりと微笑みながら
「ええ、大切なお仲間です。僕も、異存は有りませんよ」
 大貫に答える。

 大貫は稔の光り輝くような微笑みに、腰が痺れるような感覚を覚え、思わず頬を赤く染め
「で、でわ、ただ今、連絡致しますね…」
 しどろもどろに成りながら、携帯電話をあたふたと取り出し、コールを始めた。
 数回のコールで相手が出て、大貫は一言[OKよ]と呟くと、通話を切り携帯電話を片づける。
 直ぐ側で待機していたのか、数分で7人の奴隷教師が合流した。
 皆お酒を飲んでいたのか、かなりハイテンションで、稔と黒澤に感謝の言葉を告げるが、大貫の叱責を受け、一瞬でシュンとした。

 稔が微笑みながら、大貫を宥め
「お酒を召し上がって居るのですから、気分が高揚するのは仕方が有りません。大貫さん、今日は大目に見て上げて下さい。僕に免じて、お願いします…」
 稔は頭を深々と下げる。
 稔に頭を下げられ、しどろもどろに成る大貫に
「紗英、今日は躾け役はもう良い。お前も、奴隷として奉仕に回れ…柳井君に招かれたが、柳井君をゲストと思って、皆で礼を尽くしてみろ。柳井君を満足させられれば、褒美をやるぞ…」
 微笑みながら助け船を出し、無理難題を吹っ掛けた。

 大貫は黒澤の心遣いは嬉しかったが、視線を稔に向け
(こ、この殆ど魔神のような、サディストを満足させるって…。私達じゃ、絶対無理です〜)
 稔の微笑みに、引き痙った笑みを顔に張り付けて返し
「宜しくお願い致します…」
 ソファーから滑り降り、床に正座して、深々と頭を下げる。
 すると、大貫を真似てその場の女教師全員が、稔に平伏して挨拶をした。

 酒に酔った奴隷教師達は、大挙して稔に押し寄せるも、あっという間に稔に翻弄され、自分を見失い次々と果てて行く。
 辛うじて踏み留まれたのは、黒澤にみっちり調教された、由香だけだったが、その由香も目に涙を湛え、黒澤に絶頂の解放を懇願していた。
 大貫と大城は、その光景を目にしながら、稔の事をとんでも無い人間だと、初めて実感した。
 自分の認識とは、自分の常識の範囲でしかない事を、実体験で学び、新しい常識を体感する。
 それは[規格外]若しくは[化け物]、そんな常識だった。

■つづき

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