夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲35

 稔が黒澤との約束のため、学校に向かっている頃、狂は教頭に呼び出されていた。
 教頭の用件は当然佐山から命じられた、狂の引き込み工作である。
 狂は教頭の連絡を受け、迎えに来ると言う教頭の申し出を断り、駅近くの人気のない公園を、待ち合わせ場所に指定した。
 これは、狂が今居る診療所の場所と存在を、必要以上に人に知らせないためだった。

 タクシーで狂が公園に着くと、教頭は先に来て待っており、狂の姿を見て駆け寄ってくる。
 狂はその教頭の姿を見ながら
「教頭、話って何だよ?」
 教頭に問い掛けた。
 教頭の話を聞いた狂は、ニヤリと笑い
「良いぜ。渡りに船だ…、その話し乗ってやる」
 教頭の申し出を二つ返事で快諾し、佐山の側に付く事を承知する。

 教頭は余りにも簡単に、狂が説得に応じた事を驚きながら、携帯電話を取り出し佐山に報告しようとした。
 その手を狂が止めて、教頭に問い掛ける。
「教頭…この話、誰が知ってて、いつ指示を受けた…? そして、いつから俺を捜し始めたんだ?」
 狂の質問に、教頭は不思議そうな顔を向けると
「知ってるのは、校長、指導主任、それと指示を出した執事長の佐山さん。この3人で、指示を受けたのは3時間…いや、4時間程前に成るかな…。捜し始めたのも、それぐらいの時間だよ…」
 教頭は言葉を濁しながら、狂に告げた。

 狂は、教頭の顔をジッと見詰めながら
「嘘付け…。4時間俺を捜すなんて、あんたがする筈無い…。今みたいに電話1本掛ければ、済む話だ」
 狂が教頭の嘘を暴く。
 教頭はギクリとした表情を浮かべ、項垂れると
「あの〜…、霜月君を構ってたんだ…」
 ボソボソと狂に本当の事を話した。

 狂はニヤリと微笑み、教頭の胸をポンと手の甲で軽く叩くと
「やっぱりな。そうじゃなきゃ、あんたらしくない。で、どうだったよ? 俺が教えてやった、あの疑似チ○ポの使い方。あいつ潮を吹いたか?」
 教頭の顔を覗き込み、問い掛ける。
 教頭は狂の質問に、頬を興奮で赤く染め
「う、うん…。凄かったよ、あんな風に成ってるなんて、思いもしなかった。霜月の奴、泣きながら俺に許しを請い、何度も先っちょから潮を吹いて、アナルをぐいぐい締め付けて来たよ…」
 狂に春菜の狂態を語った。

 狂は微笑みながら頷くと、教頭に向かって
「これからも、あいつをマメに使ってやってくれ…。あんたが使ってる間は、誰も春菜に手出しは出来ないんだから…。だが、俺が言ってるなんて絶対悟られるなよ」
 春菜を気に掛けるように依頼すると、教頭は何度も頷きながら
「でも、どうしてこんな回りくどい事するんだい? 君の力が有れば、占有する事も、手出しをさせ無くする事も、簡単に出来るだろう…?」
 不思議そうに問い掛ける。

 狂は溜息を吐くと
「庵に頼まれたんだよ。春菜には気付かれず、あいつが奴隷としてちゃんと成長するよう、見て欲しいってな…。だから、表立って俺が、あいつを庇護したり、構う事は出来ねぇんだ…。全く、厄介事ばっかり俺に頼みやがる…。んで、俺は今んとこ、色々と手一杯なんであんたに頼んだのさ。信頼してるぜ、教頭」
 教頭に理由を話した。
 教頭は何となく、狂の説明を理解し、曖昧に頷くと
「よく分からないが、要は私は、霜月を構い続ければ良いって事だよね? 私には願ったり適ったりだ…」
 下卑た微笑みを浮かべ、春菜の身体を思い出している。

 狂は溜息を吐くと、教頭に本題を伝えた。
「でよ、あんたがあいつを構っていた時間も、俺を説得していた事にしろ。俺も中々首を縦に振らず、あんたの熱心な説得で、渋々了承した事にするからよ」
 狂が教頭にそう告げると、教頭は驚きながら、狂に問い掛ける。
「えっ! そ、それじゃ、私の凄いお手柄に成るよ。そう報告して、良いのかい?」
 狂は教頭の質問に頷き
「ああ、俺はそうしろって言ってんだよ。それで、がっぽりボーナスを貰え…」
 自分の思惑を告げると、何かを思いついたような顔をして、ニヤリと微笑む。

 教頭は狂の表情の変化に、何か妙案が浮かんだ事を理解して、ワクワクした表情を浮かべた。
「おい、面白い事を考えついた。今回のボーナス…、あんた達3役の指揮監督権ってのは、どうだ? あんたが、校長に代わって命令を下す。その、命令には絶対に服従させる。そのためには、懲罰権も必要だな…。それらを、まとめて認めさせたら、面白い事に成るぜ」
 狂が考えたボーナスの内容を聞いて、教頭は驚き、暫く考え込むと
「良いねぇ…、それ良い。そうしたら私を小馬鹿にしている、あの2人を私が顎で使える。それにしよう!」
 ニンマリ笑いながら、快諾する。

 だが狂はそんな教頭に
「いや、出来るだけ校長と指導主任には、偉そうにするな…。逆にへりくだって、指示を聞いて貰うぐらいの方が良い…。そうすれば、あいつらがあんたに、変な事を画策しなく成る。あいつらは、ああ見えても他人の足を引っ張るのは、エキスパートだからな…。あんたの権力を維持するためには、どうしても必要な事だ」
 真剣な表情で釘を刺すと、教頭は何か考えながら、渋々頷き了承した。
 狂はその教頭の分かり易すぎる反応に、苦笑いを浮かべると、念を押す。

 2人の密談が終わると、教頭は直ぐに佐山に電話を掛け始めた。
 教頭の報告を聞いた佐山は、驚きながら教頭を褒める。
 佐山が伸一郎に電話を代わると
「おう、最近良くやってくれてるようだな、詳しい報告を聞いてやるから、工藤君と役立たずの校長達を連れて、家に来なさい。学校に迎えの車を出してやる」
 伸一郎は教頭に命令を下した。
 教頭は狂に伸一郎の言葉を告げると、学校に向かう。

 校長と指導主任は、帰り支度をして正門を出る所で、教頭と狂の2人を見かけ、顔を引き痙らせる。
「く、工藤君! ふ、2人で歩いて来てると言う事は…。まさか、教頭の説得に応じたのかい…?」
 校長は顔を青ざめさせて、狂に問い掛けると
「ああ、教頭のしつこい勧誘に、参っちまった…。理事長の方に付く事にしたよ…」
 狂はウンザリした顔で、校長に答えた。
 校長と指導主任は、青ざめた顔を見合わせ、教頭に顔を向ける。
 教頭はニンマリと微笑むと
「お二方…。理事長がお呼びですよ…。もうじき迎えが来るから、待ってて下さい」
 校長と指導主任に、理事長の命令を告げた。

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