夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲36

 2人が蒼白な顔で俯くと、数分後に黒塗りのベンツが正門の前に止まり、運転席から女性が降りて来て、4人を車に乗るよう促した。
 狂が助手席、3役が後部座席に乗り込むと、ベンツは静かに4人を乗せて走り出す。
 運転席の女性は、4人を乗せ走り出したもの、無言で思い詰めたような表情を顔に浮かべている。
 運転席の女性の緊張感が、後部座席の3人に遷り、イヤな汗が3人の背中に流れ始めた。
 誰1人口を開く事無く、車は郊外に向かい竹内邸の門を潜る。

 4人はリビングに通されると、それぞれソファーに座り、理事長の到着を待った。
 狂は竹内の家に入ってから聞こえてくる、有る音が耳について離れなかった。
(けっ…、質が悪い…。おっさんは拷問中か…)
 狂は小さく聞こえる悲鳴から、誰かが相当な苦痛に晒されている事を感じ取る。
 無論その声に気が付いているのは、狂だけだったが、校長達3役は竹内邸の迫力に飲まれ、いつものように小さくなっていた。

 数分後伸一郎が佐山を伴って、リビングに現れる。
 1人掛けのソファーに伸一郎が座ると、その背後に佐山が立つ。
 伸一郎は顔をユックリ狂に向けると
「工藤君、今日は2度目だね…。朝は本当に助かった。君のような優秀な人間が、儂に賛同してくれた事を嬉しく思うよ」
 伸一郎がソファーに座り、開口一番狂に感謝を示す。
 狂が無言で会釈すると、伸一郎は視線を教頭に向け
「教頭、良くやって呉れたな…。お前の働きは、賞賛に値するぞ」
 教頭の行動を褒め、にっこりと微笑んだ。

 教頭は伸一郎に素直に褒められ、恐縮して小さく成るが、校長と指導主任は、別の意味で小さく成った。
 2人は、伸一郎がユックリと視線を巡らせ、自分達に向けられた瞬間、堪らなく成ってソファーから飛び降り、床に平伏して
「り、理事長! わ、私達に挽回のチャンスを!」
 伸一郎に申し出ると、伸一郎は無表情に成り、佐山に顎をしゃくった。
 佐山は理事長の合図に、自分の手をポンポンと二度打ち鳴らすと、扉が開いてメイドが4人姿を現した。

 メイド達はそれぞれ、御神輿を担ぐように鉄の棒を肩に乗せ、有るモノを運んで来た。
 その運ばれてきたモノは、全裸の男だった。
 男は金属の棘が、2m程の間隔で飛び出た鉄の柱に、両手足を縫い止められ、苦悶の声を上げながら、運び込まれてきた。
 メイド達は指示されているのか、無言で男が縫い止められた、鉄柱を垂直に立てると、男は張り付け状態にされ、鉄柱の間で項垂れている。

 狂はその男の変わり果てた顔を、自分の記憶と照らし合わせ、男の名前が[吉松真一]で有る事に、気が付いた。
 男は全身にかなり深い切創を追い、息も絶え絶えに成っている。
 右胸部から左腹部に掛けて、幅30センチ程で斜めに皮膚が無くなり、筋肉繊維が覗いていた。
 その傷は、まるで巨大なピーラーで、皮膚を剥いたような傷だった。
 男の股間には、スライスしたエリンギの様な、チ○ポが血を滴らせている。
 うめき声を上げる口からは、ボトボトと血が滴り、チラリと見える口腔には、血に染まった歯茎しか見えない。

 伸一郎は狂に視線を向け
「こいつは、儂の傘下の会社で、コンピューターを一手に管理していた男だが、[高校生が作ったモノなど、簡単に解析出来る]などと儂に大口を叩いておったが、見事に失敗した。そればかりか、儂の目を盗んで逃げ出そうとした。儂を騙し、裏切った…。逃げれるはずもないのに、妻と娘を連れて田舎に逃げ帰る途中、儂の部下が捕まえて来たんじゃ」
 うっすらと微笑みを浮かべながら、淡々とした口調で告げた。
 狂は、伸一郎の微笑みの下に有る、毒蛇のような視線を正面から受け止める。

 伸一郎は狂から視線をスッと離すと、吉松を見詰め
「こいつのこの傷…誰が付けたか教えよう。こいつの女房だ…、儂はこいつの女房に特性の鞭を渡し、こいつに振るわせてやった。鞭には長さ3pのナイフがビッシリ生えていてな、中々扱いの難しい代物じゃが…その鞭でこいつを打たせたんじゃ。勿論手加減せん様に娘を使う…手首にセンサーを付け全力で振らないと、娘は犬達の檻の中に降りて行く仕掛けを作ってやった。こいつの女房は必死な顔をして、泣きながら鞭を振るいおったわ」
 おかしくて堪らないと言うような声で、自分が吉松家族に何をしたか語った。

 伸一郎はユックリと、校長達に視線を向け
「お前達は、こんな事にならんようにせんとな…、儂の期待を裏切ると知らんぞ…」
 穏やかとも言える口調で、語り掛けた。
 校長と指導主任は床の上で震え上がり、必死で許しを請う。

 伸一郎は2人に冷たい視線を向け、何かを告げようとしたが、それを狂の言葉が遮る。
「こいつの奥さんと娘、どうしたんだ!」
 狂が鋭い口調で問い掛けると、伸一郎は不機嫌そうな視線を狂に向け
「こいつの家族か? 女房は多少の傷は付いたが、生きてるよ…。これから、オモチャとしてもう少し楽しませて貰わんといかんからな…、娘は知らん…。儂はガキは嫌いでな、犬共の檻の上に吊ったままじゃ…。何もせんかったら、ユックリと檻に落ちて行く仕掛けじゃから、今頃は犬達が遊んでるじゃろう…」
 吉松一家に対する凶行を、鬱陶しそうに語った。

 狂は大きく長い息を吐いて、何とか冷静さを取り戻すと
「それは、いつ頃の話しか、教えてくれ…」
 伸一郎に問い掛けると、伸一郎は時計を見詰め
「1時間ぐらい前だな…」
 狂の質問に答える。
 狂はその答えを聞き、吉松の娘がもう人の形をしていない事を悟った。

 狂はグッと息を1つ飲み込むと、ニヤリと笑みを造り
「まあ、この程度の男が、俺の作ったプログラムにちょっかい出そうとしたのが、悪いんだ。自業自得って奴だ」
 伸一郎に言うと、伸一郎は苦虫を噛み潰したような顔をして
「工藤君、君が普通のプログラムを組んでいれば、この男の家族は惨い目には、逢わなくて済んだんだよ」
 狂に戯けたような声で告げる。
 狂はニヤリとした微笑みを、顔に貼り付けたまま[かもね]と軽く答えた。
 答えた狂のこめかみは、ピクピクと怒りに震え痙攣したが、伸一郎の目には入らなかった。

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