夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲37

 伸一郎の舐めるような目線が、狂を見詰め狂の真意を探ろうとする。
 狂は伸一郎に向かい、口を開く。
「理事長…俺の作ったプログラムは、先ず素人じゃコントロール出来ねぇ、それはこの間も言ったが、プログラムの本体自体、普通のモンに触られたくない…。ハッキリ言って、無理なんだよ…」
 狂の言葉を聞いた伸一郎は、狂をジッと見詰め
「それでは、困るんだよ…。君が居なくなった時、誰もそれを直せないんじゃ…都合が悪くないか?」
 探るような視線を強め、問い掛ける。

 狂は伸一郎に向かい
「ソフトのバックアップデーターは作ってる。それを使えば、完全に修復出来る…だけどよ…、俺がそれを渡した瞬間、俺が[事故に遭う]なんて事に成るのは、俺も避けたい。だから、これは保険として俺が持っておく。俺の安全が完全に保証されたら、データーファイルを渡す…」
 静かに問いに対して答えた。
 伸一郎は狂を無言で見詰め、真意を量ろうとしたが
「確かにそうじゃな…。自分の安全確保が、最優先じゃ…。君の言う事は理に適っとる…良いじゃろう、その条件飲んでやるわ」
 突然笑いだし、狂の条件を了承する。
 狂はその後、計画内での自分の権限も変えない事を認めさせ、会談を終わらせた。

 伸一郎は狂の申し出を受けると、教頭に向かって
「お前は今後、彼のバックアップを、責任を持って行え。これからは、お前が学校内のリーダーだ。この盆暗どもに働き方を教えてやれ」
 横柄に命じる。
 教頭は、自分が切り出そうとしていた事を、先に伸一郎に命じられ、驚きながら承諾した。
「教頭。今回の褒美として、貴方には奴隷に墜ちた教師達を、自由に使わせて上げますよ…」
 佐山が教頭に褒美の内容を告げると、教頭は目が飛び出す程驚き、何度も感謝する。
 こうして、教頭は学校内で狂に次ぐ、絶大な権力を得た。

 校長達は伸一郎の教頭に対する命令を聞き、苦虫を噛み潰したような表情で、項垂れる。
 伸一郎は伝える事を伝え終わると
「さて、儂はもう少しこの裏切り者と、遊んでくるかな…」
 呟きながら席を立ち、移動を始めた。
 メイド達が来た時と同じように、御輿を担ぐように肩に担ぐと、しずしずとリビングを後にする。
 佐山は無言で頭を下げると、手を叩き明日香を呼んだ。
 明日香が直ぐに、リビングの入り口に現れると
「お客様がお帰りだ、お送りしろ」
 短く命じて、リビングを出て行く。
 狂達は明日香の運転する車に揺られ、竹内邸を後にする。

 帰りの車内では誰1人口を開かず、終始沈黙が支配していた。
 校長は気落ちした表情で項垂れ、指導主任は膨れっ面を車外に向け、教頭は惚けた視線を宙に漂わせて居る。
 車が学校に着くと、教頭は脱兎のごとく車を飛び降り、校舎内に入って行く。
 佐山に与えられた特権を行使するために、校舎内に残った奴隷教師を捜すためだった。
 教頭が校舎内に消えると、校長と指導主任がノソノソと車を降りて、校舎内に向かう。

 狂も車を、降りようとすると
「あ、あの…、済みません…」
 明日香が狂に必死の顔を向け、口を開いた。
 狂は明日香の態度から、[何か有る]と察しを付けていたため、口の前に人指し指を立て、頷くと顎をしゃくって車外に出るように指示を出す。

 明日香が一瞬不思議そうな表情を、狂に向けるが、直ぐに頷いて指示に従った。
 車外に出た明日香に、狂は携帯電話を翳すと、明日香のスーツのボタンを行き来させ
「良い体してるな…脱いで見せてみろよ」
 そう声に出し命令しながら、上着を脱いで車に入れるよう、身振りで指示を出す。
 明日香は怪訝な顔をしながら、言われた通り車に上着を入れると、狂は車の扉を閉めるよう指示を出した。

 明日香が車の扉を閉めると、狂が明日香に向かい口を開く。
「お前はズッと、監視されてた。スーツのボタンに、盗聴マイクが仕掛けられてたぜ…」
 狂の言葉を聞いて明日香は驚き、車の中の上着と狂の顔を何度も見比べ、思い当たる事があったのか直ぐに納得した。
 狂は明日香の腕を引っ張り、車から少し離すと
「で、何の用だ? あんなに緊張して運転してたんだから、結構真剣な事なんだろ?」
 明日香に問い掛ける。

 明日香は狂の言葉に驚きながらも、狂の機転と雰囲気に意を決し
「あ、あの…何でもします…。ですから、私のお願いを聞いて下さい…」
 深々と頭を下げて、懇願を始めた。
「私は今、重大な命令違反をして居ます。これが、バレれば先ず間違い無く殺されてしまいます…。ですが、私には見過ごす事が、どうしても出来ませんでした…」
 明日香は涙を流しながら、狂に話し始める。

 狂が無言で頷くと、明日香はその内容を語った。
「今日捕まったご家族の娘さん…。私は犬の檻に置いておくように、命令を受けたのですが…、私には放置しておく事がどうしても出来ませんでした。私は、有る事情で、あの犬達の恐ろしさを熟知しています…ですから、あんな赤ちゃんを犬達の檻に落とす事は…どうしても出来なかったんです」
 そう言うと視線を車の後部に向ける。
 狂は明日香の訴えに驚きながら
「じゃ、あの男の娘は…生きてるのか?」
 真剣な表情で、明日香に問い掛けた。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊