夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲39

 狂は赤ん坊を抱き上げると、自宅に向かった。
 帰りの道で教頭から電話が入り、狂は通話に出る。
『あ、工藤君…。その〜…霜月しか学校に居なくて…、え〜っと…私の家に連れて行ったら、駄目かな…?』
 教頭はがっかりした声で、狂に問い掛けると
「駄目だ。奴隷は基本的に主人の許可が無きゃ、持ち出しは禁止になってんだろ。ユックリ構いたいんなら、用務員室を使え。あそこには、風呂もあるし、布団もあるし、防音も効かせてある。下手なラブホより使いでは良い筈だ」
 教頭の申し出を一蹴し、代替案を告げた。

 教頭は電話の向こうで大きく頷き
『そうか、用務員の玉置は入院してるし、あそこなら誰にも邪魔されない。いや〜、有り難う工藤君そうするよ』
 狂に感謝しながら、通話を切る。
 狂は携帯電話を呆れたように見詰め
(ホントに知恵が足りないって言うか…思慮が浅いって言うか…。あれじゃ、直ぐにボロが出るかもな…。次の手を考えなきゃ、いけねぇか…)
 大きな溜息を一つ吐いて、ポケットに片づけた。

 狂が自宅に着くと、絵美がパタパタと奥から姿を現し、玄関で出迎える。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
 絵美は深々と頭を下げ、狂に挨拶するとリードを差し出す。
 絵美はメイド服に首輪を付け、狂の自宅を掃除していた。
(こいつ…本当にコスプレ好きだな…。全く、ミシン買ってやったら、こんなモンばっかり作りやがる…)
 絵美のメイド服は、真っ赤なメッシュをベースに作られ、下着を着けていない素肌が、透けているのだ。

 狂がリードを右手に持つと、絵美は嬉しそうに顔を上げ
「どうです? 狂様。新作ですよ」
 狂に問い掛けて来た。
「ああ、似合う似合う…」
 狂が投げやりに絵美に告げると
「あぁ〜…狂様…冷たい〜…」
 絵美は頬を膨らませて、狂の後ろを這い進む。

 その時始めて絵美は、狂が抱えている物が、赤ん坊である事を知る。
「狂様! ど、どうしたんです? その赤ん坊…。まさか、狂様の…」
 絵美が顔を引き痙らせ、狂に問い掛けると
「馬〜鹿…。お前も、解っててそんな臭い小芝居すんじゃねぇ…」
 狂は絵美に向かって告げ、事情を説明した。

 話を聞き終えた絵美は、痛ましそうな視線を赤ん坊に向け
「じゃぁ、この赤ちゃん…孤児に成ってしまったんですね…」
 ボソリと呟き、涙を浮かべる。
「ああ、そうなっちまった…。こいつ、暫く預かるから、そのつもりで居ろ…。吉松の親類を調べて、預けられる者を探す…」
 狂がそう言うと、絵美は大きく首を縦に振り了承した。

 狂はクッションの形を整え、ソッと赤ん坊を寝かせると、赤ん坊は目を覚まし泣き始める。
 狂は舌打ちをすると、赤ん坊を抱え上げ、優しくあやしながら
「絵美、オムツとミルクだ。急いで買って来い」
 絵美に指示を飛ばすと、絵美は既に洋服の着替えを始めながら
「私の家に、真美の使っていた物が有りますから、直ぐに持って来ます」
 狂に答える。

 狂は赤ん坊を抱えながら、汚れた紙オムツを手早く外すと、床にうち捨てようとした。
 しかし、その紙オムツに妙な感触を感じ、赤ん坊をあやしながら、その感触の元を探すと直ぐに見つける。
 それは、紙オムツの腹の部分に、同化するように紙テープで留めてあった。
 狂はそれをオムツから外すと広げる。
 紙テープで留められた物は、USBメモリーのカバーを外し、薄くした剥き出しの端子と基盤だった。

 狂は直ぐにウイルスチェック用のPCを起動し、USBメモリーを調べる。
 案の定プロテクト用のウイルスが検知され、狂はそれの解除を始めた。
 絵美が荷物を持って帰ってくると、赤ん坊を絵美に預け、本格的に解除作業を行い、数分で解除するとパスワードの入力画面に行き着く。
(う〜ん…8桁と10桁のクロスタイプか…。こりゃ、結構掛かるな…、本国から解析用のソフトを送らせると、また要らん仕事が付いて来そうだし…)
 狂が頭を捻っていると、絵美が小さな声で
「あら? 何なのこの数字とアルファベット…」
 ボソリと呟いて、赤ん坊の掌を覗き込んでいた。

 狂は直ぐにピンと来て、赤ん坊の掌を覗き込むと、そこには右手に10桁と8桁のパスワード、左手に6桁のパスワードが2個、油性のマジックで書かれていた。
「こいつがパスワードだ…」
 狂はそのパスワードを素早く記憶し、パソコンに入力する。
 するとUSBメモリーにアクセスが可能となり、中身が開いた。
 USBメモリーの中には、プログラムのアイコンが1つとノートパッドが1つだけ有り、狂はプログラムをクリックするとインターネットの接続を求められる。

 狂が予備回線をPCに繋ぐと、プログラムは有る会社のメインセキュリティーウィンドウを表示した。
 TNシステムズのコントロールプログラムが、12桁のパスワードを要求し、狂は左手に書かれていた、2個のパスワードを繋げ打ち込んだ。
 すると、再びプログラムが起動し、PCをデーターベースに繋げる。
 そこには膨大な量のデーターが収められており、アドレスが要求された。
 狂はノートパッドを開いて、中身を確認すると、思った通りアドレスが書かれている。

 3つ有るアドレスの1つ目を打ち込むと、データーは全て表計算ソフトの物で、狂はその一つをクリックした。
 狂はそのファイルの内容を見て、ニヤリと微笑み
「こりゃ、良いや…。こんな所に隠してたのか…、幾ら探しても見つからない筈だ、恐らくこいつを使わなきゃ行き着かねぇ…。竹内の裏帳簿…見〜っけ…」
 ボソボソと呟いた。

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