夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲40

 狂は2つ目と3つ目のアドレスを打ち込むと、2つ目には奴隷にされた者のプロフィールデーターと何かの顧客データー、3つ目には膨大な量の映像データーが収められている。
 狂が映像データーの1つを再生すると、そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が映し出された。
 竹内の暴虐の一部始終を収めた記録映像と、狂達が送った調教映像が、そこに全て収められている。
 狂はそのデーターベースにバックドアを付けると、プログラムを終了した。
 狂の手に入れたプログラムは、TNシステムズの裏アドレスに入るための、キープログラムであった。

 恐らく吉松はUSBメモリーは、始めから赤ん坊のオムツに隠し、自分達が捕まってしまった時、赤ん坊の掌にパスワードを書き込んで、竹内の破滅を託すつもりだったのだろう。
 自分より先に赤ん坊が殺されそうに成るとは、夢にも思わず、必死の思いで書き込んだに違いない。
 だが、その思いは何よりも、吉松の願いを叶える男の手に渡った。
 自分自身が死ぬ目に遭う理由を作った男だが、間違う事無く一番の適任者に託されたのだ。
「おっさん…。あんたの切り札は、俺が有効に使ってやる…。それで、勘弁しろや…」
 狂はUSBメモリーを手に取り、小声で呟いた。

◆◆◆◆◆

 春菜は職員室で1人項垂れている。
 春菜は何も考えられなくなり、ただ呆然とした表情で、椅子に座り机に視線を落としていた。
 庵に屑女に落とされ、その存在を否定された事から始まり、必死の思いで懇願してようやく課題を貰えたのだが、その目標を見失ってしまったからである。
 沙希に体中落書きされ、入浴する事もまま成らず、必死に命令に従って快楽を押さえ込んで居たのだが、今朝になって庵の入院を知り、どうして良いか分からないまま教頭に使われ、何度も絶頂を迎えてしまい疑似男根からの解放が遠のいた事も原因だった。

 春菜のスーツはかなりヨレヨレに成り、着ているブラウスにも、所々黄色いシミが飛び、相当見窄らしく成っている。
 春菜は大きな溜息を吐き、項垂れたまま椅子からフラリと立ち上がり
(もう…どうしていいか…わからない…。私は…あの方の前に…身体を晒す事は出来ない…。だからと言ってこの身体を…誰も求めては呉れない…。私は、存在する価値すら無いの…)
 うつろな表情で、フラフラと立ち上がり、職員室を後にした。

 春菜の顔からは表情が一切消え、呆然と項垂れながら歩いている。
 トボトボと歩く足は、教室棟に向き階段を1歩1歩上がって行く。
 2階を通り過ぎ、3階に達してもその歩みは止まらなかった。
(もう…良い…。もう…良いの…。私は…要らない屑…。どうしようもない…屑なの…。こんな身体…捨ててしまおう…)
 春菜は絶望から、短絡的に自殺を考えていた。

 この事は稔も狂も全く、察知する事が出来て居らず、春菜がそこまで追いつめられて居たとは、誰も考えていなかった。
 春菜の足が屋上に向かう階段に、足をかけその半ば迄進んだ時、パタパタと廊下を走る足音がした。
 その足音の主は、春菜の後ろ姿を見て、首を傾げると足を速めて階段の下に辿り着き
「霜月君…? そんな所で、何してるんだ?」
 春菜の背中に声を掛ける。

 春菜はその声に足を止め、ユックリと振り返ると、声の主を確認した。
 春菜の表情がその男の顔を見て、泣き顔に歪む。
(あぁ〜…、この男のせいで…私はまた疑似男根の呪縛に捉われた…)
(あぁ〜…、この方だけが、唯一私に目を向けて下さる…)
 春菜の心の中に、2つの思いが巡り、春菜は屋上の入り口前の踊り場で頽れる。
 春菜に声を掛けた教頭は、不思議そうに春菜に近づくと
「もう誰も居ないと半分諦めていたのに、霜月君に会えて良かったよ」
 教頭はいやらしい笑いを浮かべ、春菜に手を掛けた。

 だが、この時春菜の方からは、教頭の顔が逆光に成り、口元に浮かべた笑みしか見えていない。
(あぁ…教頭…。私を必要だと微笑んで下さるんですね…)
 春菜の心は、自分を完全に否定していたため、教頭の言葉と口元の笑みが心に染み渡った。
 春菜はフラフラと教頭の手を掴み、俯きながら教頭の腕の中に身を寄せる。

 教頭は春菜が近づいた瞬間、春菜から立ち上る匂いに顔を歪め、いやらしい笑いを消した。
(く、くせぇ〜…。ション便の匂いが…髪の毛や身体に染みついてる…。こいつ私にション便掛けられても、身体を洗ってねぇのか…)
 教頭は春菜から慌てて顔を背けると、バランスを崩して足を踏ん張る。
 すると、春菜自体も上体のバランスを大きく崩していたため、教頭は膝立ちで春菜を固く抱き締める形に成った。

 春菜は驚きながら教頭を見上げると、教頭は真剣な表情からフッと頬を緩め春菜に笑い掛けた。
(危ねぇ〜…危うく2人で階段を転げ落ちる所だった…。こいつが居てくれて、バランスが戻って助かった…)
 教頭は春菜が重心を安定した足場に残していたため、バランスを取り戻してホッとしたのだ。
(あぁ〜…嘘…庇って下さった…私が…階段から落ちるのを…助けて下さった…)
 春菜は教頭の取った行動を、春菜の身を守る物と勘違いし、教頭に感謝する。

 教頭は直ぐに春菜を立たせると
「こんな所に居たら危ない。校舎内には工事関係者が、まだいっぱい居る上に、教師は君だけだぞ。何か有ったらどうするつもりです」
 春菜に向かって注意した。
(全く、こんな発情したような格好で、うろついて工事の連中に押し倒されたら、どうするつもりだ…。身体に、変な落書きがごまんと有って、調教中なのが丸分かり何だぞ。無関係の人間にここでの事が、バレかねないじゃないか)
 教頭は情報の漏洩を気にしながら、春菜に注意したつもりだったが、春菜は全く別の受け取り方をする。
(ああ〜教頭先生…私の事を…心配なさって下さるの…、こんな屑女…見向きして下さるのは…、教頭先生だけなのに…。お優しい方…私は、どうしてこの方を嫌っていたの…。本当に馬鹿だわ…)
 春菜は教頭が気遣って、叱責してくれた物と勘違いした。

 これが、春菜の精神状態が普通なら、先ず起こらない心の動きだったが、今の春菜は完全に自己否定し、その存在すら消そうとしていたのである。
 それが、教頭の思わぬ言動で、自分の存在を肯定され、心の拠り所にしてしまった。
 春菜は勘違いから、どっぷりと教頭に依存し始める。
 教頭は春菜の勘違いなど知る由も無かったが、春菜の変化に驚きながら、言動を春菜に合わせ始め春菜の若く美しい身体と、心から示す服従に嵌っていった。

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