夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲43

 繁華街から少し離れた小さな2階建ての建物が、目的の店だった。
 外観は四角四面のサイコロのような作りで一切窓が無く、路地を入った1階の真ん中に重厚な組木製のドアが有り、それが唯一の開口部だった。
 扉に金属のアルファベットで[Dorado]と表記されている以外、ドアノブも何も無い。
 困惑する9人を他所に、狂は財布からカードを取り出し、一番左の板と板の間にカードを差し込むと、スッと下に引き下ろす。
 するとドアがカチャリと音を立て内側に開き、純は扉を押して中に入って
「早くして…この扉10秒で閉まるから…」
 伸也達に早口で告げると、伸也達は慌てて扉の中に身を滑らせる。

 純が言った通り10秒経つと扉は、勢いよく閉まり通路は真っ暗に成った。
 真っ暗に成ると、棒状の光が全員の身体を縦横に走り、直ぐに電気が点く。
『2番目と3番目の男性の方、お手持ちの物をフロントにお預け下さい』
 通路に女性の声が響き渡り、通路の扉が開いた。
「ここは、凶器や武器の類は一切厳禁なんだ…。お願いだから、そんな物持ってここに来ないで…。3回目からは、もう通して貰えなくなる…」
 純が庄一と伸介に告げると、2人はポケットからナイフを取りだし、バツの悪そうな顔をする。

 扉を押して奥に進むと、それまでのコンクリートの打ちっ放しと、全く違う世界が広がった。
 豪奢な内装に飾られた部屋には、一面真っ赤な絨毯が敷き詰められ、フロントやクロークが設置されている。
 10人が室内に入ると、タキシードで身を包んだ大柄な黒人が2人スッと現れ、番号札を手に持ち庄一と伸介の前を塞いだ。
 庄一と伸介は余りに唐突な展開に、腰を抜かしそうになり後ずさると
「早く、ナイフを渡して…。帰りにその番号札と引き替えにしてくれるから」
 純が2人に慌てて促した。
 庄一と伸介は顔を青くして、両手で目の前の黒人達にナイフを捧げ出すと、黒人達はスッと番号札と入れ替え、目の前から立ち去る。

 10人はそのまま正面の両開き戸に進むと、6畳程の部屋に押し込められ、扉が閉まった。
「おい、こんな狭い所に入って、次どうなんだよ…」
 この店に入って、落ち着きが無く成った弘樹が、心配そうに純に問い掛けると
「ここから先は、日本だと思わないで…。この店8割が在日の有富層だから、殆どが外国人だし、従業員も日本人は確か居ないと思う。言葉は通じるけど、常識は通じないよ」
 純は大きな溜息を吐いて、弘樹に微笑みながら説明した。

 純が説明すると、部屋全体が軽く揺れ、機械音と共に軽い降下感を全員が感じる。
 数秒後、カクンと部屋全体の揺れが止まり、入って来た両開きの扉が開くと、目の前には広大な空間が広がっていた。
 このカジノは、地上こそ30坪程の建物だが、地下は100坪程の広さが有り、そこに所狭しとギャンブルのテーブルが置かれて居る。
 ポーカー、BJ、バカラ、ルーレット、それぞれが、5台ずつ設置されており、バーカウンターやビュフェ等も用意されていた。

 純はスタスタとキャッシャーに行き、現金をチップに替える。
 純が財布から、10万円の束を6つ出すと、無造作にキャッシャーの中に居る金髪の女性に渡し、60枚のチップを受け取った。
 純は戻ってくると、女性達に10枚ずつチップを渡し
「さぁ、遊びましょう…。増やせば貴女達の物、減らしたら…。解ってますね」
 にっこり微笑んで告げる。
 女性達は、ゴクリと息を飲む者、ペコリと頭を下げる者、無邪気に喜ぶ者と様々だったが、皆一様に純の言葉の意味を理解していた。

 純は伸也達に向き直り
「ここは、暴力沙汰は本当に止めて下さい。冗談抜きで、命の保証は出来ません。それ以外は、飲み食いも女性も全てタダです。あ、女性はバニーだけですよ…、ディーラーやキャッシャーは手出しすると、殺されますし、お客の女性は国際問題に成りかねませんから、本気で気をつけて下さい。じゃぁ、ギャンブルを楽しんで下さい」
 にっこり微笑みながら、頭を下げて伸也達の前から立ち去ろうとした。

 立ち去ろうとした純を、庄一が慌てて引き留め
「ちょ、ちょっと待て…俺達の分のチップは、どうすんだよ!」
 純に詰め寄ると、伸介と弘樹も頷きながら、詰め寄って来る。
「え、だ、だって…僕も、現金は60しか持って来てないし、ここは完全現金支払いだから、どうする事も出来ないよ。もっと、早く言ってくれれば、女の子に渡したチップを減らす事も出来たけど、今更もう遅いし…」
 純が気弱げに俯いて告げると、フロアーの隅に待機していた白人男性が飛んできて
「Are you Trouble?」
 と問い掛けてきた。

 伸介と弘樹は、その物腰の柔らかさと裏腹な圧力に、両手を上げて首を振りながら、焦りまくる。
 純が笑顔を作り[No problem]と答えると、白人男性はニコリと微笑んで、その場を立ち去って行く。
 純は溜息を吐きながら
「だから、ここは社交場なんだから、今みたいな行動は、直ぐにチェックされるんだよ…。もう僕、出禁にされちゃうかも…」
 純はしょんぼりとしながら呟くと、伸介と弘樹はバツが悪そうに、頭を掻きながら謝罪した。

 そんなやり取りを見ていた伸也が、おもむろに財布を取り出し
「おい、工藤。チップは1枚1万しかないのか?」
 と問い掛けてくる。
 純は首を横に振りながら
「キャッシュチップは1万円のチップが、ここでは一番下だけど、各テーブルでチップは交換出来るよ。テーブルによっては、1チップ1000円の所も有るから、1万円有ればそこから遊べるよ」
 伸也に答えると、伸也は財布から20万取り出し
「こいつをチップに変えてきてくれ」
 純に差し出して言った。
 純はその金を受け取り、チップに替えると伸也に渡す。
 伸也は3人に[貸しだぞ]と言いながら、5枚ずつチップを配って、純の説明を聞き一番ローレートのテーブルに着いた。

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