夢魔
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■ 第28章 暗雲44

 純と伸也達が分かれて1時間後、純が座る1チップ1万円のルーレットテーブルに、伸也達が現れた。
「おう、工藤調子はどうだ? 俺は、ここまで来れたぜ」
 そう言いながら、伸也達は平均30枚のキャッシュチップを持ち、ニヤリと純に笑い掛ける。
 純が驚いたような顔を向けると
「僕はこの程度」
 そう言って身体を開いて、自分の前に並ぶチップの山を見せた。
 純の前には、200枚程のチップが並んで居る。

 伸也は純のチップを見て目を丸くして
「お、おい…お前それ、幾らあるんだよ」
 純に問い掛けると、純は平然としながら
「200くらいかな…、今日はあんまり調子よくなくて、フラワーが一度も取れないんだ」
 伸也に呟くように答えた。
 伸也達は純をマジマジと見詰めて、小さなギャンブラーに驚いた。
 そのまま伸也達は純にルーレットのルールを聞きながら、そのテーブルに居座り始める。

 最初はよく分からなかった、ルーレットのルールも、純の説明でマスターし伸也達も賭始めた。
 伸也を除く3人は、純の勧めるアウトサイドベットに賭たが、伸也のみインサイドベッドで8に全張りした。
 当たれば、1目掛け36倍、2目掛け18倍×4、4目掛け9倍×4で144倍の配当となる。
 これを当てる事を[フラワー]と言い、ルーレット最大の勝ち方と言えた。
 伸也はそれをそれぞれ2枚ずつ、計18枚のコインを賭、見事に的中させる。
 伸也は一瞬で288万円を獲得した。

 伸也の前にコインの塔が出来る。
 伸也はそれを見て、目を丸くして驚いた。
「す、凄〜っ。伸也さん一発で、300万っすよ…」
 弘樹が伸也に囁くと
「凄い、凄い〜…。私始めて見た〜。1点掛けで、フラワー当てる人」
 一緒に店に入った女の1人が興奮して、伸也に擦り寄って言う。

 女は頬を赤く染め、アルコールの入った顔を伸也の耳元に近づけ
「凄いのね…。あのね、私全部チップを無くしちゃったの…。私のチップ補填してくれない…? そうしたら、私を今夜自由にしても構わない…。どんな事でも…して上げるわ…」
 伸也の身体をまさぐりながら誘った。
 伸也はその言葉に驚きながら、その女をマジマジと見詰める。
 女はかなりの美人で、スタイルも抜群だったが、何より目がくらむ程色っぽかった。

 伸也は直ぐにニヤリと笑い返し
「良いぜ。10枚ぐらい呉れてやる…。ただし、俺はかなりのSだぜ」
 女に告げる。
 女は妖しくニヤリと微笑み返すと
「私はマゾよ…。激しい方が好き…」
 伸也の耳元に囁いて、耳たぶを唇で挟み、舌で耳たぶを愛撫した。
 伸也が女の誘いに頷いていると、回りの取り巻きもそれぞれ、女が交渉を終え弘樹達に取り付いている。
 伸也達はそれぞれのパートナーの腰を抱きながら、ルーレットを再開し1時間程で相当の金額を勝つ事になった。

 伸也はその日、3回のフラワーを引き当て、トータル700万近く勝利し、その他の取り巻きもそれぞれ、200万近い金を勝った。
 伸也達の興奮がピークに達すると、1人の金髪女性が進み出して、伸也に話し掛ける。
「申し訳御座いません、本日の営業はこれで終了させて頂きます。お客様、つきましては、ラスト勝負として店側を代表して、私とお手合わせして頂けませんか?」
 丁寧な物腰で、伸也に問い掛けると、伸也は驚きながら
「ん、勝負ってどんな勝負だよ?」
 金髪女性に問い返す。

 金髪女性は胸元から、1枚のカードを取り出すと
「勝負は単純に赤か黒…。もし、貴方が勝ったら、3年間の無料会員権か、貴方が勝たれた金額の倍のチップを私どもが、お支払いします。どちらを選ばれても結構ですわ」
 指先でカードを妖しく弄びながら、伸也に問い掛ける。
「ここの、年会費は360万だから…単純計算であのカード1000万を超える価値があるよ…」
 純は金髪女性の指にあるカードを示して、伸也に進言すると伸也の表情が引き締まった。

 伸也は金髪女性に頷くと、勝負を受け入れ黒に賭る。
 金髪女性は赤で受けて、勝負は始まった。
 ホイールを回しシューターが玉を投げ入れ、レールを走り始める。
 玉はポケットに2度弾かれ、伸也が始めて賭けた8に入り、黒の勝利となった。
 金髪女性は負けを認め、伸也に問い掛けると、伸也は躊躇う事無く会員証を選んだ。
 伸也は秘密カジノの会員になり、700万近い現金を手に入れ、意気揚々と店を後にする。

 店を出た伸也達はそれぞれ女性を引き連れ、そそくさと夜の町に消えていった。
「こんな事で、本当に良かったんですか?」
 純の横に佇む女性が、純に不思議そうに問い掛けてくると
「ああ、構わねぇ…、今回は上出来だ…。あいつ等その内、嵌るぜ…」
 純はいつの間にか、狂に代わり今日の結果に満足そうに笑っていた。
 狂の横に佇む女性が、ソッと狂の腕に手を絡ませて
「いっぱい働いたんですから、ご褒美下さい…」
 甘えた声で、擦り寄ると
「俺は、もうお前等とは、やらねぇ…。言ってただろ、女が出来たって」
 狂はにべもなく女性を振り解く。

 女性は頬を膨らませると
「工藤様の意地悪…私達の気持ち知ってるのに…。こんな事ばっかりさせるんですもの…、たまにはご褒美下さい!」
 狂に懇願する。
「お前だけに遣ったら、他の4人に恨まれるぞ…。俺は、報酬は平等が基本だ、今度いい男紹介してやる。じゃぁな…」
 狂は女性に手を挙げて別れを告げると、夜の闇に消えて行く。
 その後ろ姿を、女性は地団駄を踏んで見送っていた。

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