夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲46

 井本は項垂れてUターンすると、京本が溜息を吐きながら手招きしていた。
 井本はホッとした表情で、京本の側に寄ると
「頭数として、うちに置いて上げましょう」
 京本に蔑みの目で見られ、情けを掛けられる。
 しかし、井本はそれを突っぱねる事も出来ず、遜りながら京本の傘下に入った。

 井本の行き先が決まり、全員がグループを形成するが、最早大勢は決し掛かっていた。
 黒澤はこの時点で教師サイドの半分を取り込み、主導権を握る。
「柳井君の話だと、この後は誰がどの教師を籠絡しても良いようだし、私達は即刻掛かりますね」
 黒澤は京本と迫田に告げると、会議室を出て行く。
 黒澤が出て行くと、迫田達4人も会議室を後にする。

 会議室に残された京本は、小室、白井、井本と奴隷教師3人を見渡し
「取り敢えず、3人は奴隷を引き込みなさい…。後は、私が躾けて割り振ります…。暫くはその形式で遣りましょう…」
 3人に告げた。
 3人はそれぞれ反論があったが、現状奴隷教師を1人も傅かせる事が出来なかったため、京本の意見に従うしかなかった。

 一方、稔の依頼を難なく成し遂げた黒澤は、全員を連れて空き教室に移動し、今後の方針を打ち立てる。
 先ず黒澤が耳を傾けたのは、奴隷教師の言葉だった。
 奴隷教師に対して、どの教師が興味を抱いて、どの教師が嫌悪しているか問い掛け、最新の情報を精査する。
 その中で堕としやすい教師達を大城、光子と奴隷教師に任せ、堕としにくい教師を黒澤、大貫、山孝、山源の4人が担当する事にした。

 この方法は効率が良く、3日で7人の教師が黒澤グループに、引き込まれる。
 それに対して、京本は2人、迫田は1人の奴隷教師を堕とす事で、手一杯だった。
 夏休み最初の一週間が終わる頃には、奴隷化していない教師は、夏休み前の職員会議で、首輪問題に頑なな嫌悪感を持った12人の女教師を残すのみとなった。
 黒澤は一旦堕とすのを止めて、新加入した奴隷教師達を調教し、忠誠を上げて行く。
 教師の奴隷化が進む中、学校の外で事件が起こる。

◆◆◆◆◆

 夏休みが始まって8日目、梓との入籍を済ませた金田が、その日のうちに忽然と姿を消したのだ。
 その日の朝、金田は金田自身の自宅から梓に見送られ、役所に婚姻届を提出して病院に出勤する筈だったが、病院の事務局長から[医院長が出勤してこない]と連絡を受け、その事実が発覚した。
 梓は急ぎ役所に行き、金田の行動を調べたが、婚姻届は提出されており、役所に足を運んだ事は判明する。
 しかし、その後の足取りが、杳として知れなかった。
 梓は不安になり、稔に連絡を入れ事情を説明するが、稔自身も狂との仲違いが解消して居らず、それを調べる術を持たない。

 稔は仲違いしてから2度狂に電話を掛けたが、2度とも着信拒否のメッセージを聞き、狂自身に話をしようにも一度も会えない状態が続いていた。
「困りましたね…。これでは、調べようが有りません」
 稔は携帯電話を持ち、狂の携帯から3度目の着信拒否のメッセージを聞きながら、溜息を吐いた。
「先ず、間違い無く事件に巻き込まれていますね。最近何か変わった事は、有りませんでしたか?」
 稔の問い掛けに、梓が考え込むと
「そう言えば、一昨日柏木が出勤して来て、おかしな事を言っていました。[今なら、まだ間に合う。土下座して詫びるなら、俺がお前を飼ってやる]確か、そう言って私を押し倒そうとしたので、股間を蹴り上げてやりましたわ」
 梓が稔に伝えると、稔は腕を組んで考え込む。

 梓は心配そうな顔をして、頬に手を当てながら
「明後日は理事会が開かれるのに、何処へ行って仕舞われたのかしら…」
 ボソリと呟くと、稔が梓の言葉に
「理事会? 確か満夫の病院は、一族経営で理事は居ない筈なのでは?」
 問い掛ける。
「ええ、経営的な事務は事務局長が行っていますが、人事的な昇格や降任、役員の解雇などは、医師会の手前、単独では行えず、部外理事をもうけています。旦那様はその理事会を招集して、柏木の解雇を審議する筈だったんです…」
 稔は梓の説明を聞いて、話が繋がり始めた。

 稔は腕組みを解き、梓を見詰めて
「先ず間違い無い…。柏木が、この失踪に一枚噛んでる。柏木に聞いてみましょう」
 稔が結論を出した時、梓の携帯電話が鳴り、事務局長から連絡が入る。
『森川君! 直ぐに、どこかに身を隠せ。大変な事に成ってる! 1ヶ月程有休を使って、後は事が収まるまで、病気休暇か療養休暇を使うようにしておく。とにかく直ぐに身を隠した方が良い』
 事務局長は梓に、小声で早口に捲し立てる。

 梓はキョトンとした顔で、事務局長に問い返すと、事務局長はテレビを見ろと言って、通話を切った。
 梓は言われるまま、テレビの電源を入れると、ワイドショーが始まっており、金田の総合病院が映されている。
 ワイドショーのキャスターは、金田の写真を指差し、説明をしていた。
『いや〜、かなり悪どい医院長ですね。医療倫理違反、患者に対する暴行、薬物の横流し何でもござれとは、この事だ。一族経営とはいえ、ここまで遣るなんて、人としてどうかと思います…。それが、内部告発で発覚する迄…』
 梓は怒りで顔を真っ赤に染め、プルプルと震えながら、テレビの電源を落とした。
 金田は柏木の遣った事を、全て背負わされ告発されていた。

 梓がリモコンを放り投げ、踵を返そうとすると、リビングに美香が飛び込んできて
「ママ、外に人が集まってる。何か有ったの? カメラとかマイクとか…何かの取材みたい…」
 稔と梓に告げる。
 稔は直ぐにリビングの窓に身を寄せ、外を確認すると、確かに森川家の玄関回りを取り囲むように、取材陣が集まり始めていた。
「梓、直ぐに身を隠しなさい。これは、大変な事になりそうです」
 稔は顔を引き締め、梓に命令すると、梓は唇を噛みながら頷いて直ぐに、自室に飛び込んだ。

 稔は美香にも荷物をまとめるように告げると、携帯電話を取り出し溝口に連絡を入れる。
『あ、もしもし、私です。金田の奴どう言う事なんですか? あいつがこんな事をする筈がない…』
 溝口は開口一番、稔に告げると
「テレビを見ましたね、話が早いです。満夫は嵌められたようです、対応が異様に早い。梓の事もバレていて、今マスコミが家を囲み始めています。暫くの間、梓と美香をかくまって貰えませんか?」
 稔は溝口に依頼した。
 溝口は快諾して、稔は通話を切ると、梓と美香が、身の回りの物だけ持ってリビングに戻ってきた。
 3人は勝手口から身を隠しながら外に出て、大きく迂回し駅に向かう。
 駅から電車に乗り、溝口の総合病院に移動するまで、3人は誰1人口を開かなかった。

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