夢魔
MIN:作

■ 第28章 暗雲47

 稔達3人は駅前からタクシーで、溝口の経営する病院に着き、直ぐに医院長室に通される。
 医院長室では美紀が泣きながら、テレビの画面を見詰めていた。
 稔達が入って来たのに気付くと、直ぐに床に正座して稔に挨拶し、稔が美紀を起こし気遣って声を掛ける。
「大丈夫ですか? 心細かったでしょう…」
 美紀は稔の胸にしがみつき
「パパ、どう成るんですか? 捕まちゃうんですか?」
 泣きながら問い掛ける。

 稔は静かに首を横に振り、美紀を見詰めると
「解りません。現状で言える事は、満夫が警察に拘留され、取り調べを受けて自供するまで、罪に問われる事は有りませんが、いかんせんその満夫の行方が解らないんです」
 静かに美紀に教えた。
「美紀、旦那様が罪に問われる事は、先ず有りません。旦那様が遣ったのは、稔様達に薬を提供した事だけで、後は全て柏木がやった事です。その証拠も、全て旦那様はお集めに成られていました」
 梓がそう言いながら、美紀を慰めると
「柏木? それは、この間の外科部長か…。この、内部告発をしたのが、外科部長と報道していたから、同一人物だぞ…。どう言う事だ…」
 溝口がボソボソと呟くと、稔の携帯電話が鳴り始める。

 稔は慌てて、携帯電話を取り出しサブディスプレイに浮かぶ、名前を確認した。
「狂…? どうしたんですか…。自分の方は着信拒否にしておいて、僕に掛けてくるなんて…」
 稔は表情を能面のように消しながら、携帯電話に出る。
『おい、お前今日の補習どうするつもりなんだよ。システムが立ち上がってねぇから、こっちに来てみたら誰も居ねぇ。遣る気あんのかよ…』
 狂はぶっきらぼうに、稔に悪態を付く。
「ああ、済みません。少し立て込みましてね…。ところで、何故狂は僕の携帯を着信拒否にして居るんですか?」
 稔は静かな響く声で、狂に説明を求める。

 狂は稔の問い掛けに、鼻で笑い
『俺はお前に愛想が尽きた。こんな気分まるで、昔庵が地下リングに上がった時みたいだぜ。あん時も呆れたが、今回のお前の馬鹿さ加減は、それ以上だ、周りが全く見えてねぇ。俺も守るモンが有るんだからよ、お前とは一緒にやれねぇ。俺は理事長に付く事にしたからよ、悪く思うな。それと、立て込んでるって、金田の事だろ? ネットのニュース見て笑ったぜ。ちょろっと調べたら、あいつ市役所から刑事と、どっかに行ってやがったから、もう捕まったんじゃねぇか? どっちにしろお前が手出し出来るモンじゃねぇ。諦めて、こっちの仕事しろ。お前が来るまでは、何とか俺が1人で捌くからよ。んじゃぁ〜な…』
 自分の言いたい事だけ言って、サッサと電話を切ってしまった。

 一方的に決別を告げられた稔は、携帯電話を閉じ、怒りを浮かべるかと思いきや、スッと微笑みを浮かべ携帯に向かって頭を下げる。
 近くで美紀は通話の内容を聞いていたため、稔の行動の意味が全く分からなかったが、問い掛けようとすると稔が口を開く。
「梓、どうやら満夫は、拉致されたらしいです。相手は未だ解っていない状況ですから、下手に動く事は避けましょう。恐らく、生命の危険はないと思いますので、貴女達はここで暫く厄介になって下さい。美紀と一緒に玉置さんの看病を命じます。それと、溝口さん彼女達がここにいる事は、外部に漏れないようお願いします」
 稔は梓達に状況を説明し、命令を与えると溝口に依頼した。

 稔は溝口が承諾したのを確認すると、梓と美香を招き寄せ、3人の奴隷の頬に口吻をし
「僕のミスで不甲斐ない事に成ってしまいましたが、満夫は必ず貴女達の元に連れてきます。ですから、ここで大人しくして居て下さい」
 3人に囁くと、医院長室を出て行った。
 梓は暫く項垂れていたが、頬をパシンと両手で張り、微笑みを浮かべて娘達に視線を向け
「さぁ、私達は主人の命令に従いましょう。玉置様の看病に専念しますよ」
 立ち上がった。

 梓が立ち上がると、美香と美紀もそれに続き、2人とも笑顔を作って、梓に従う。
 溝口の目にはその姿が痛ましく映ったが、同時に昔からの悪友に心から羨望を向ける。
(金田…お前は本当に素晴らしい、家族に恵まれたな…。血を分けた家族でも、ここ迄心配するなんて、無いぞ…。俺も、こんな家族に恵まれたかった…)
 梓達のその姿は、誰がどう見ても虚勢以外の何物でもなく、3人とも心の底から金田の安否を心配しているのが、手に取るように解った。

◆◆◆◆◆

 一方稔との会話を終えた狂は、携帯電話を片づけ、補習の準備に取りかかる。
 PCを起動させソフトを立ち上げて、データーを確認した。
 1サイクル生徒達の教育が終わっていたため、個別のデーターが揃っており、狂は進捗に合わせて補填係数を定めて、自動プログラムに打ち込んで行く。

 本来はこの補填係数を定めるのは、専門家の稔の仕事であるが、狂はそれを見よう見まねで遣る。
(今日一日くらい、何とか遣れるか?。午前中の分は、こんなモンで良いだろう…、昼からは出て来いよ…、俺じゃわからねぇぞ…)
 狂はブツブツと文句を言いながら、PC教室を満たし、補習が始まるのを待っている生徒達が映る、ディスプレーを見てエンターキーを押した。
 途端にPC教室の全PCでソフトが起動し、いつもより2分程遅れて、補習が始まった。

 狂は自分の席に戻ると、音響を操作しながら、メールソフトを起動し狂の自宅で待機する絵美に、指示を与えた。
 電話の方がリアルタイムで的確だが、教頭に盗聴器を仕掛けさせたため、絵美の関与が理事長サイドに知られる恐れが有り、使えない。
(チッこんな事なら、盗聴器の設置は控えた方が良かったか…。だが、さっきの稔への電話で、俺と稔が喧嘩別れしているのは、ちゃんと伝わった筈だ…。差し引きがプラスと出るか、マイナスと出るか…微妙な所だな)
 狂は頭の中で考えながら、自分と稔のディスプレーを見つつキー操作をした。

■つづき

■目次3

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊