縄奴隷 あづみ
羽佐間 修:作
■ 第1章「縄の洗礼」2
何回目かの皆との食事会の時、たまたま昌也の隣の席になり、あづみはウキウキする心を悟られないように、”昌也の隣”を堪能していた。
何杯かの杯を重ね、話が弾んでいる時、昌也があづみに一言小声で言った。
「あづみちゃんはさぁ、男性経験ないでしょう?」
「え?・・・」
聞き間違い? と思って聞き返すと、皆にも聞こえるようにもう一度「男性経験ないでしょ?」と聞かれた。
「・・・・・・」
(酔ってるの? 何てこと聞くのよ、近藤さん! 馬鹿にしてるわ!)
不貞腐れるように無視し続けるあづみに「ねぇ ないでしょ?!」って又平気でニコニコしながら昌也が問う。
顔が火照って真っ赤になっているのが自分でも判って、あづみは内心泣きそうになっていた。
あづみは処女ではなかったものの、SEXの悦びというものは、まだ知らずにいた。
反撃のするつもりで「酔ってるんですか? セクハ・・・・」
いい終わらぬうちに、昌也がいきなりあづみの右頬を抓って「痛い?!」って聞く。
驚いて、強い口調で「は?! 痛くない!」と言い返す。
―(痛くても絶対痛いなんて言うもんか・・・)
昌也は「ふぅ〜ん・・」って言って不思議そうな表情を浮かべ、そっぽ向いて別の女の子と喋りだした。
こんな人のこと、素敵なんて思ったのが馬鹿みたい! とあづみは心の中で舌打ちをし、グラスのビールを飲み干した。
その日以来、昌也の態度はなんとなく、冷たく感じられ、嫌われちゃったかな? って思いながらも、(あんな失礼な事するんだもん、こっちだって嫌いよ!)と意地になり、仕事上の事以外は言葉を交わすことない日を送っていた。
―でもどうして私の頬を抓るのかしら? 痛いに決まってるのに…
数日後、午前の担当のお客が切れたタイミングがちょうど昌也と一緒になり、お昼を一緒に食べようと声を掛けられ、近くのそば屋に入る。
向かい合わせに座り、メニューを見ていたら、いきなり昌也の手が伸びてきて左の頬を抓った。
「痛い?!」
何故か素直に「…痛い…」と頷きながら答えてしまった。
「でしょ^^ 自分に正直になりなさい♪ 素直になれたら気持ち良いでしょ!」って白い歯を見せ、微笑みながらあづみを見つめる。
あづみは昌也に堕ちた!事が分かった。
ドラマの世界の”不倫”の世界に自分が身を置くかもしれない…
食事の後、軽い感じで「今度ドライブ行こうか?」と誘われ「はい!」と返事をするあづみ。
昌也に素直に「はい!」と従う事の心地良さにビックリする…
自分でも不思議に思いながら、昌也とドライブの計画を話し合った。
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店を閉めてから、ドライブの打ち合わせをしようと誘われたショットバー。
昌也の行きつけのようで、カウンターに並んで席を取り、マスターと親しげに会話を交わす。
あづみは、女性にしては九州出身で飲めるほうだが、こういう大人の洒落た店はあまり馴染みがなく、オーダーは昌也に任せた。
暫くすると二人の前に綺麗なピンク色のカクテルが運ばれ「乾杯しよ^^」と昌也がグラスを掲げる。
軽くグラスを合わせ飲もうとした時「やっぱ、富士山に行こう! 夜は箱根で露天風呂に浸かろうな!^^」と昌也がドライブのスケジュールを決めたかのように言った。
「え? 箱根・・・露天風呂ってお泊まりで?…ですか?!」
「もちろん!」と昌也は、なんで? って言いたげにニコッと笑みをあづみに返す。
「でも・・・・」
にっこり笑いながら昌也が言った。
「SEXで逝った事がないでしょう? あづみちゃん^^」
「・・・・・」
「せっかく女に生まれたのに〜^^ 俺が教えてやるよ!^^」
いつかはそうなるといいな! と思っていた。
しかし、当然そうなる泊まりのスケジュールに同意しろという強引な誘い…
安く女と見られまいとおもうのだが、子供ような無邪気な昌也の横顔をみていると、昌也に抱きしめられたいと思ってしまう。
「来週の日曜日でいいよな?!」
「は、はい…」
言う事聞くのが当たり前のようなぞんざいな口調で、まるであづみに覆いかぶさってしまうような威圧感がある。
でもそんな昌也に従う事が、何故だか心地よく、ふと昌也に抱かれている自分を想像してしまった。
「じゃ、指切りの代わりにキスして!^^」と昌也が唇をすぼめてあづみのほうへ体を寄せた。
「え? ここで?」
「うん。チュ〜^^」
「…だって…」
「しょ〜がね〜な〜(笑)」と笑いながら顎に手を掛け、強引にあづみの唇軽くキスをした。
あづみは、初めて訪れる店の他の客の見ている前で唇を奪われたのに、怒りを抱くどころかドキドキして、昌也に心を奪われてしまった事を実感していた。
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