縄奴隷 あづみ
羽佐間 修:作

■ 第2章「」1

−カンげーむ−

あづみは、未来を産んでから暫く仕事を辞めていた。
子育てに専念したかったからだ。
あづみは、想像以上に大変な子育てに悪戦苦闘しながらも、日々すくすく成長する未来(みく)の愛くるしい笑顔と仕草に、励まされながら慣れるにつれ心に余裕も出てきた。
平凡だが、平和な時間に満足していた与えてくれる健一に感謝していた。
一流の美容師になる夢は諦めてしまったが、故郷へ戻ってきて今では本当によかったと思っている。

未来が2歳になった頃には、未来が昼寝したりすると、時間を持て余すようになり、時代の流れに乗り遅れまいと、健一と相談してパソコンを購入することにした。
ホームページを見たり、家計簿や年賀状を書いたり、マニュアルとにらめっこしながらも、一応の操作できるようになっていた。

ある日、何気なくインターネットをうろついていて目にしたオンラインゲームがあった。
「カンげーむ」
たくさんのゲームの種類があり、無料で遊ぶことが出来、あづみはたちまち虜になって未来が昼寝するのを待ちわびるようにゲームに没頭していた。
特にお気に入りは、見知らぬ誰かとの文字による「チャット」
IDというNet上の架空の名前を自由に付け、本当の自分を明かさずに色々な人と話が出来る事が楽しくて仕方がなかった。

また、自分の設定したIDに、様々な服やアクセサリを着替えさせたりする事が出来るので、自分の名前を持った着せ替え人形が自分の代理としてチャットしているような錯覚を覚える。

しかし匿名性の為なのか、チャットルームには、本当に会いましょうというナンパ目的のものや、いくつものIDを作って、仮想の人物になりすまし、知性のカケラもない言葉を羅列する軽薄なやつ、小学生、中学生など餓鬼もたくさんいて、うんざりする事も多かった。
しかし、それはそれで、こちらの事も誰だか向こうには判らないという安心感から、普段なら絶対口にしないような卑猥な文字を打ち返すことにあづみも楽しみを覚えている。
ただ、加入した時は、その辺の事情もわからず、本名の「♪あづみ☆」でIDを作ってしまっていたので、”いやらしい会話”を楽しむようになってからは、少し気にはなったが、反対に本名を名乗るとは誰も思っていないだろうしそのまま続けていた。

それにしても、昔を思い起こさせるような「女を虐めて悦びを感じる男性」が多いことには驚いた。
昌也のような性癖の持ち主は、限られた特異な人であるとおもっていた。
そして、虐められて悦ぶ女もこんなにたくさんいるとは、信じられなかった。
チャットルームに出掛ける度、そんな野郎達があづみに群がるように声を掛けてくる。
閉口しながらも、まれに、会話の上手な楽しい人にも出会える事もあるので、チャットルームへは通いは続けていた。

しかし、再び働き始めてからは、以前ほどの頻度ではログインできないのは仕方がないことだった。

一旦夢を途中で諦めたあづみが再びオーナー店長として開店した「ビューティサロン・ジャム佐世保店」は、ビュートリズム・川畑ヨシキ直伝のあづみのセンスとテクニックはたちまち評判になり、森 陽子を初め、優秀なスタッフにも恵まれ、大いに繁盛している。

予約のスケジュールが毎日、埋まるようになってくると、忙しいが心に張りが出て、少し余裕も出てきた。
店を開店以来、カンげーむでは、簡単なカードゲームを少し楽しむくらいだったが、数週間前から再びチャットを覗くようになっていた。
お店が休みの月曜日の昼下がり、健一が未来を連れて釣堀に出かけた留守のリビングで、カンげーむにログインし、Weekdayの昼間だからいないだろうなぁと思いながら、ちょっと前から気になってる人を探してみた。

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