縄奴隷 あづみ
羽佐間 修:作

■ 第3章「高倉由紀ビューティクリニック」5

−旅立ちの準備−

健一の勤め先の理解を得られ、思ったよりも早く、翌週の週末から、健一がビューティサロン・ジャム佐世保店に合流できた。
ここにも高倉ビューティから話が通されていた。

何しろ急なことなので、あづみには顧客の引継ぎなど十分に出来るか心配だった。
たった1年だが、一から築いた自分の城を出来るだけトラブル無く、健一に引き継いで貰いたかったので、あづみは嬉しかった。
高倉の丁寧な対応に改めて感謝し、関心させられた。

あづみは、この店の日常の営業をしながら、高倉ビューティの新部門の立ち上げの作業の打ち合わせをする為に、佐世保と博多を往復する日々が続いていた。
どうしても帰れない時に、既にあづみの宿舎として博多に用意されていた高級マンション「HAKATA ARENTS」に泊まることも何日かあった。

新規事業の準備は、事前にある程度進んでいたが、あづみが責任者となった限りは、責任者として知っていなければならない事が山のようにある。
”髪”には精通し、自信を持っており、”通常のエステ”にもそれなりの知識はあった。
しかし、高倉の新規事業は、セレブを対象にした、究極のエステと呼べるものだ。
年間の会費が1千万円にもなるコースまで設定されている。
勧誘方法、広告宣伝、スタッフ募集など責任者としての仕事のほかに、あづみ自身もエステの高倉ビューティ流の基礎知識を勉強しなければならない。
そして、高倉ビューティの”広告塔”としての”あづみ”を作り上げる為に、化粧方法から、身に着ける靴・洋服・香水まで専属のスタイリストが付き、あづみを磨き上げていった。
髪型から爪先まで、上品なブランド品でコーディネイトされたあづみは、高倉ビューティの広告塔として相応しい品格さえ漂わせ始めていた。
しかも、その費用はすべて高倉ビューティの負担で、日々増えていく衣服や装飾品で、マンションの大きなクローゼットもたちまち埋まってしまうほどだった。
急激に美しくエレガントに変貌してゆく自分を鏡で見る度に、興奮を隠し切れない。
化粧も濃い目の派手なものに変えられたため、愛娘の未来でさえ、キョトンとしたほど感じが一変してしまった。

―今日も佐世保に帰れなかったなぁ…
この日も博多に泊まることになってしまった。
たくさんの打ち合わせを済ませ、地元業者との会食を終えて「HAKATA ARENTS」にたどり着いたのは、もう日付が変わっていた。
未来の顔を見られないのは寂しいが、仕事の充実感と、この高級マンションでの生活はとても快適で気に入っているので、博多に寝泊りするのは苦にはなっていない。
「HAKATA ARENTS」の朝は、マンション前に運転手付きの黒塗りの高級車が何台も並ぶようなハイクラスの住人ばがりで、政治家や大手企業の役員クラスが多く利用しているらしい。
オートロック、防犯カメラはもちろん、警備員も常駐し安全面も万全だ。
家具・調度品も、シックな品の良いものが備え付けられ、電化製品はすべて新品で、高倉の配慮でパソコンも最新型のモデルが光ファイバーの環境下で用意されていた。
3LDKで一人で住むには贅沢すぎる間取りと設備だ。
困惑するほどの高待遇に、高倉ビューティのあづみの世話をしてくれている秘書室主任の横田真二に、戸惑いを伝えると、『貴女は高倉ビューティの”顔”なんですから、それなりのグレードでいて頂かないと会社としても困るんですよ^^』と一笑に伏された。

ゆっくりシャワーを浴び、このマンションに来て初めてパソコンのスイッチを入れてみた。
画面の美しさや、とてつもなく速い画面の切り替わりの速さに驚いた。
―これって凄い!^^
新しい玩具を貰った子供のように、自然に笑みがこぼれてしまった。

さっそく、カンげーむのURLを入力してみる。
この20日間ほどは目が廻るほどの忙しさで、サークルはおろかカンげーむにログインすることさえなかった。

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