縄奴隷 あづみ
羽佐間 修:作

■ 第5章「魔手」24

「陽子ちゃん、大丈夫?」

昨夜遅く、『明日から出勤する』と電話があった。
病院で付き添っていたお父さんの容態は山を超え、快方に向かっているという。
あづみは、お父さんの無事を喜び、まだ付き添っていてあげなくて大丈夫なの?! と口にはしたが、今日から復帰してくれる事を聞き、正直助かったと胸を撫で下ろした。
陽子が抜けた分は、あづみにしわ寄せが来ていたので、いつも以上に忙しく、マンションに戻るのはいつも日付を超える日々が続いていた。

それにしても、久し振りに合った陽子の変貌振りには、少し驚いた。
いつもより濃いメイクのせいだけではない。
どちらかと言えば可愛いタイプだった陽子が、妖艶といえる程、女の色香を漂わせているのだ。
看病疲れなのか、少しやつれた感じが、物憂げな雰囲気を醸し出し、陽子をまったく別人のように感じさせている。

「はい。もう大丈夫です。
あづみ先生! 本当に、ご迷惑をお掛けしまして、申し訳ありませんでした。」

軽く下げた頭を起こし、頬にかかった髪をかき揚げる仕草は、あづみの目から見ても、ゾクッとするような艶っぽさを感じさせる。

「疲れているんじゃないの?! 無理はしないでね、陽子ちゃん…」
「いえ! 大丈夫です。迷惑お掛けした分、バリバリ働いて穴埋めをしなくっちゃ^^」

「そう!? ほんとうに無理をしないでね! でも、頼りにしてるわ ウフッ^^」

「じゃ今夜食事でもどう?
お父様の全快祝いという訳には行かないけど、貴女も看病で疲れただろうから、栄養をつけなくっちゃ!
今夜、私の部屋で、すき焼きでもどうかしら?!」

「え… 今夜はちょっと無理です… ごめんなさい、先生…」
「あ、ううん、とんでもない^^ 疲れてるものね、陽子ちゃん。気にしないで^^」
父親の看病疲れの陽子に、かえって申し訳ない申し出をしたような気がしてしまった。
―すごく疲れているみたいだわ…
本当は、陽子と過す淫らな二人の時間を、少し期待していたのだ。
東京で入れ違いになったきりの陽子に、首から下には1本の体毛もない綺麗な体を、早く見て欲しかったのだ。
「今日は、お店が終わったら、直ぐお帰りなさいね^^ 陽子ちゃん^^」
「あ、ありがとうございます^^」

復帰初日の陽子は、少し動きが緩慢な感じで、時々思い詰めたように立ち尽くし、傍らのカウンターに手を突いて、深いため息をついたりする。

あづみは、心配になり、早引きするように薦めるが、陽子はその都度『大丈夫です!』と無理をしてこしらえた笑顔を、あづみに向けた。
迷惑を取り返そうとしているんだろうと思い、疲れた身体で健気に頑張る陽子に感謝し、頼もしいスタッフの復帰に心強さを覚えた。

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