縄奴隷 あづみ
羽佐間 修:作

■ 第5章「魔手」27

−カタログ−

昨夜、あづみは11時半くらいにタクシーで「博多アレンツ」に帰宅し、料金の支払いをしている時、マンションから出て、西へ背を向けて歩く女性の後姿を見かけた。
雰囲気が陽子に何となく似ている気がする。
つり銭を受け取り、急いでその女性が歩いていった方に駆けていったが、もう人影は見当たらなかった。
すぐに陽子の携帯に電話をしてみたが、留守電で繋がらなかった。

―見間違いだったかな?!

「陽子ちゃん、昨夜、訪ねて来てくれた?」
「いいえ、そのころならもうぐっすり眠っていました^^」
「そ^^ やっぱり見間違いね^^ ごめんね。変な事聞いて^^」
昨日より幾らか元気に見えなくもないが、身体全体から発する色香が艶っぽく感じた。

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木島 紀子から新サービス「セレブ フルボディ スペシャルエステ」パンフレットが送られてきた。
さあ、オープンまで後1ヶ月、いよいよだわと心がはやる。

包み紙の中には、渋い赤を基調に金文字がふんだんに使われたパンフレットがあり、「セレブ御用達のエステ」のコンセプト通りの格調のある仕上がりだった。
こうしてみると、女達の虚栄心・競争心をくすぐるような表現がなされ、セレブを自認する者は、これをしなきゃセレブじゃないわ!と思わせるような内容だ。
少しあざとく感じて、苦笑してしまったが、大金を自分の身体に投資する意欲を掻き立てるカタログとしては、さすがによく出来ていると素直に思う。

見開きのページを見て驚いた。
高倉由紀の写真の隣に、あづみの顔写真も載っているのだ。
この事業の責任者として高倉由紀の隣に並んでいる自分のおすましした写真を見て、面映いが素直に嬉しく、高倉ビューティでの自分のポジションを再確認し、誇らしげな気持ちになった。

もう一つ少し薄い包みがあり、開けてみると『別紙:ビキニライン脱毛・ボディピアス』と表題がついていた。

『ん?…』
裏面を見て驚いたのは、施術した実例写真が、何点か載っている。
脱毛の部位毎の写真と、ボディピアスの写真が載っていた。
ボディピアスについては、つい先日まで、TOPシークレットだったサービスで、ピアスホールの定着がたった3日で、化膿する事がほとんどないというものだ。
これはアメリカの特許技術を流用して作られたもので、ピアスホールを保持する筒が、本人の皮膚から培養した皮膚を、生分解プラスチックに組み合わせて硬度を持たせたものだという。
つまり、自分の体組織で出来た人口皮膚なので、身体が異物として反応せず、すぐに身体に馴染み、数日で皮膚と同化して塞がない”穴”が形成されるらしい。

そのボディピアスの写真の中に、ボカシてはあるが、脱毛された恥丘の下から覗く性器へのボディピアスの装着写真が載っていた…
ラビアにも… クリトリスにも…

『ウソ… 本当にこの施術を高倉ビューティでするんだわ。
いいのかしら、こんな写真載せてしまって…』

挟み込みの別紙に印刷したのは、必要とする人にだけ、お渡しするつもりだろうと思うが、一歩間違うと誤解を受けるかもしれないと心配になった。

アンダーヘアの脱毛写真の1点に目が留まった。
モデルのプロフィール欄に目が釘付けになってしまった…

『高倉ビューティクリニック セレブ フルボディ スペシャルエステ事業責任者 麻木 あづみ 30歳 』とクレジットされていたのだ。

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