縄奴隷 あづみ
羽佐間 修:作

■ 第8章「縄奴隷」17

− 帰省 −

目覚めると、昌也はそこには居なかった。
ベッドルームを出てリビングに行くと、昌也がコーヒーを飲んでいた。
「おはようございます。ご主人様」
「遅くまで寝ていてゴメンナサイ……」
「あぁ、おはよう。いいよ。おまえも疲れただろうからな^^」
「直ぐにご飯を作ります^^」
「ああ」
ベッドルームに着替えに行こうとしたら、昌也が、「おまえ、裸の方が似合ってるぜ!」と声を掛けた。
「はい!」
踵を返し、赤い首輪だけを付けた裸のままキッチンに向かう。
何か心が弾んでいる。
何だか新婚のような気分すらしてしまう。
昔から、時々思い出したように優しい言葉をかけられると、あづみは思わず、「キュン!」となってしまう。
この一瞬のためだけに永く苦しい責め苦にも耐えているのかもしれないと自分で思うこともあった。
しかも今日は、褒美に半日だけ帰省することが許されている。
いそいそと食事の支度をした。
悪夢のようなキャンペーンを強いた本人が、少し甘い言葉をかけてやるだけで、あんなに過酷な日々の事など忘れたかのような仕草に、呆れたような表情を昌也は浮かべた。
−マゾって生き物は、ホトホト可愛い生き物だ! ふふふ^^

身支度も出来て、横田が迎えに来た。
今度の帰省には、横田が一緒についてくるので家族水入らずというわけにはいかなかった。
横田は時々実家を訪ねては、未来や両親に何くれとなく気遣いを見せてくれていた。
それは、あづみへの気遣いからではなく、もしもの時、唯一の逃げ道のはずの家族すら奪われたようなものだ。
未来は横田に懐き、特に父親の古瀬 義男とは、酒を飲む間柄になっていて、あづみにとっては、反対に家族が人質に取られている様で気が重かった。
しかし二度と逢う事が出来ないと覚悟をしていただけに、昌也に言われた時は、正直嬉しく思った。
だが、先日のTV放送を見ているはずの家族の反応が怖くて、スケジュールの連絡も横田にして貰ったほどだ…

横田が、連絡をしたところによると、家族は大歓迎で、夕食にはご馳走を作って待っているとの事だった。
昌也に見送られ、お昼前にマンションを出た。

JR佐世保駅には、健二と未来が車で迎えに来ていた。
未来が楽しみにしていて、「ハウステンボス」にこのまま行くという。
横田は、気を利かせて、先にあづみの実家に行っていると言うので、3人でテーマパークに向かった。
「おまえ、随分と綺麗になったなぁ^^ 何か緊張してしまうよ」
健二とは年末に会ったきりで、最初は、何となくぎこちない雰囲気だったが、未来は両親が揃っているので大ハシャギで、シートの上を飛び回っている。
”夫への裏切り”に関しては不思議と罪の意識は湧かず、今後どうなるのかわからないが、今の瞬間、母親としての時間を精一杯楽しもうと思っていた。

---------------

夕方に「ハウステンボス」から実家に戻ってくると、母親が腕によりをかけたあづみの大好物ばかりが、食卓に並んでいた。
父親の義男は、すでに横田と、焼酎をやっていて、もう上機嫌だった。
両親は、あづみの活躍を大いに悦び、誉めてくれた。
今回の帰省は、頑張った褒美の意味もあったが、もう一つ目的があった。
あづみが、来週から半年ぐらいの予定で、東京本社に転勤する了解を取ることだった。
もちろん、表の仕事もあるだろうが、本当の目的は、具体的な内容は教えて貰えなかったが『愛奴育成プログラム』の参加者のサポートをすると言われていた。
しかしそれも、横田が家族には話をつけていて、父親は反対に娘のあづみを引き立ててくれてありがたいと礼を言い、あづみにも頑張るように激励する始末だった。
TV放送の事も、話題になり、ビデオを見るか? と言ったが、恥かしいからと、慌てて断った。
あづみは、あのビデオを見て?! と不思議な気持ちだったが、怪しい部分は、編集でカットされたんだろうと思い、ホッとした。
楽しい時間は、あっという間に過ぎ、帰る時間になってしまった。
この後、あづみは、今夜のANA 990便で(福岡発21:35 羽田着23:00)東京に入り、昼過ぎには、とんぼ返りで博多に戻るスケジュールになっていた。
東京への転勤の準備や、スタッフとの引継ぎをしなければならない。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊