Netに舞う女
羽佐間 修:作

■ 第1章 投稿小説「ちなみ 陵辱」15

- 鈴木 陽一 U-


香は、早川が送って来た自分の痴態を写した写真を眺めながら、自分が演ずる”麗香”を嬲る言葉を書いていた。

【Mr.M から 麗香へ】
お前は、何て恥知らずな女なんだ!
そんなにもいやらしい姿を見て欲しいのか?!
誰がいつ覗くかも知れない場所でオマ○コ丸出しにするなんて…
こんなド助平のお前は、俺だけにしか見て貰えないのは不満で仕方がないんだろ!
もっと大勢の人に見て貰いたくて仕方がないんだろ?! 変態麗香!
見られたいなら家から素っ裸で駅まで歩いてみろ!
たくさんの人にお前の淫らな身体を見てもらえるぞ!どうだ?!

 麗香への叱責のトーンがいつしかキツイ調子になっていた。
 かつて度々浴びせられた言葉を自然に選んでいる。
――私、どうしたいの…

【麗香 から Mr.M様へ】
大勢の人に私の恥かしい姿を見て欲しいのは仰るとおりです。
でも、駅まで裸でなんてそんな事をしたら私…今の暮らしを続けていく事が出来なくなってしまいます…
どうか貴方だけが私を蔑んでくださいませんか? お願いです。

 ここまで書いて香は身体に刻み込まれた拭えぬ想い出が鮮烈に蘇ってきた。
 努めて思い出さないようにしていた過去…

   ◆

 およそ7年前、香は研究に没頭する大学の助手・鈴木 陽一と恋に落ちた。
 収入の乏しい彼を支え、身も心も捧げ、尽くしぬいたのだが、3年前に棄てられてしまった。
 出世の為に大学教授の娘との結婚を選んだ陽一は、香をまるで飲み干した缶コーヒーの空き缶をゴミ箱に投げ捨てるかのように何の躊躇もなく捨てた。
 義理の父親の引きで今は立京大学の助教授の地位に付いている陽一は、歪んだ性癖の持ち主だった。
 出逢った頃は、性経験の乏しい香を優しく慈しむように抱き、やがて女の悦びを覚えた香は彼との結婚を夢見て幸せな日々を送っていた。
 しかし、エリートを自負する陽一は、日々の努力が報われぬ事に苛立つことが多くなり、中々自分を認めぬ周辺に対する不満の捌け口を健気に尽くす香の身体に求め、サディスティックに責めるようになっていった。
 鬱屈する男の心が自分に向けられる事で少しでも慰められるのならと、どんなにはしたなくおぞましい行為にも耐え、陽一の要求をすべてを受け入れていた香だが、いつしか虐められる事自体を悦ぶ身体になってしまっていた…

 それは香がマゾヒスティックな素養を持っていたこともあるが、元来研究熱心な陽一がどこで仕入れてくるのか、香を嬲る技術や知識を貪欲に吸収し、荒っぽく痛いだけの責めが瞬く間に香を酔わせるテクニックを伴ったものに成長したからでもあった。
 香の示す”悦び”の反応が陽一の性癖を一段と激しいものに増幅させていったのかも知れない。

 別れを言い渡された時、当たり前だろといわんばかりの陽一の態度に、香はただ唖然として立ち尽くす。
 無表情で突っ立つ陽一には、泣いてすがる事も、何故?と問い質すことも許されないそんな冷たさが満ちていた。
 別れを告げられた頃には、およそ愛の行為とは思えないような身体への責め苦を身体に刻まれ、泡を吹き、気を失って横たわる身体をも犯されるような壮絶な扱いを受け、陽一の姿を見るだけで香は萎縮してしまうようなそんな関係だった。

 あろう事に、香を捨てて結婚した後も、陽一はいきなりかおるの前に現れては、嫌がる香を無理やり犯し、目的を達すると涙にくれる香に”牝犬め!”とひどい言葉を投げつけて帰るという事が度々あった。
 香はそんな泥沼のような日々に耐え切れず、仕事も住まいも変えてやっと逃げ出せたのが1年前だった。

   ◆

 キーボードに手を置いたまま、香は困惑していた…
 身体が覚えているあの忌まわしい快感が想い出と共に蘇り、どうしようもなく切なくて、身体が疼くのだ… 
 あの時の写真BOXの中にいた”麗香”の気持ちになって改めて考えてみた…

――あんな事をするつもりなんてぜんぜんなかったのに… 
 鏡に映る自分を見つめ、顔を覆う手の隙間からフラッシュの閃光が洩れて眩しかった。

 陽一には、数え切れないくらい淫らな姿を写真に収められてきた…
 目を射た光が当時の記憶をフラッシュバックさせた…
 次の瞬間には、とり憑かれたように足を大きくあげて鏡に掛け、露になった濡れた股間を鏡に映しじっと眺める。
 シャッターのカウントダウンが始まり、鏡に映る股間から勢い良くオシッコが流れ出るのを目にした時、陽一に放尿を命じられ、臭い!臭い!と嬲られた時のあのざわめきが香の中に蘇ってしまったのだ。

 左足を雫が伝い足下に落ちていく…
――あぁぁ… 私、虐められたいの! あの快感… 決してあんな鬼のような陽一さんが恋しいんじゃないわ… 

 昂ぶっていく感情を香は持て余してしまった。
 心を落ち着けようと浴室に駆け込み、身体に温い目のシャワーをいつまでも勢いよく浴びせた。

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