人身御供
非現実:作

■ 落日6

「これ琴乃、しっかり歩きなさい」
「ふぁ〜〜栄弦様ぁだぁ〜〜、えへぇ〜〜」
「ああそうだよ、そうだから…しっかりと」

4つの人影は……遅々として進まない。
フラフラと危なげな琴乃の両脇を固める、私と桔梗。
その後ろから周囲を伺うように守る我らの守護者、金剛と不動。
(全く……大分飲まされたものだ)
琴乃に対する勧めは過剰だった。
「いや私が」と無理矢理に杯を受けてきたが、党首の返杯だけは邪魔できない。
そして総布兵重は執拗だった。
人の妻を呼び付け、更にはトコトン飲ませて……。
その振る舞いは海賊頭そのものだった。


ようやく我が家へと辿り着いた。
城内だというのに、随分時間が掛かってしまった。

「ほら、家に着いたよ」
「んふぅふふふ〜〜……到着ぅ〜〜」
「参ったな……」

隣で支えてないと歩けないくらい、琴乃は千鳥足。

「主様、お抱えした方がよろしいかと……」
「そうだな……あっ、こらこら、座るでない」
「んふうう〜歩けなぁぁい」
「待っておれよ……よいしょっ!!」

長い髪を掻き分けて、頭の後ろと膝裏に手を通してから一気に持ち上げる。
力に自信は無いが、妻を抱く位は訳ない。
着物の乱れを桔梗が整えてくれるまで、そのまま待った。
私の胸元にコトンと顔を埋めながら、早くもうたた寝の準備を始める琴乃。

「やれやれ……やっと大人しくなったな」
「そのようで」
「床の準備を頼むよ」
「はい」

桔梗が奥の間に消える。
抱きか抱えたまま、揺り篭みたいにゆっくり琴乃を揺らしてやる。
琴乃の安堵した表情を見ていると、こちらも嬉しくなる。
   ・
   ・
   ・
「それにしても〜〜あの…姫は……良いのう」
「まさに……」
「あれこそ姫という者じゃな、美姫じゃ」

控えの間で総布兵重が3度目の同じ言葉を吐く。
酔っ払いの党首を相手しているのは風見甚五郎。

「まるで雪のように白い肌、良いのぉ」
「はい」
「どうじゃ〜〜風見は?」
「ははっ、確かな美しさにて……」
「であろう〜、アレはきっと良いぞぉ〜〜」
「はい」

襖が開き、魏志四郎が姿を現した。

「準備整えてございます」
「おお、そうかそうか」
「酒の用意も準備万端です」
「あの女房にも、たっぷりと飲ませたか?」
「ははっ飲ませた所、意識が戻りだいぶ感じてまいりました」
「それはよい、たっぷりとヤレるのう」

総布兵重が腰を上げ掛けると、風見甚五郎が待ったをかける。

「明日は大事な一戦でございます、あまり遅くにならぬよう……」
「わぁっておるわっ、楽しい気分を削ぐでない!」
「ははっ、……行ってらっしゃいませ」
「おぉ〜〜っ、がぁっはっは、魏志よ行くぞぉ〜ぉ」

かなり酔いどれ状態の総布が意気揚々に出て行った。

「さて……と」

腰を上げて廊下を足早に進む。
風見甚五郎は酒を飲んでいない。
これから最前線の仕事を、夜通しで進めなければならないからだ。
(明日は、戦を絶対してもらわねばならぬ……)
その為には、最前線の再築を完成させなければ……。

風見が出撃の間へと足を進めると、そこには鎖に繋がれた数十名の男達。
彼らは衣服もボロボロで、酷い扱われ方をされていたと解る。
彼らは村を襲った敵兵だったのだ。
その者等を囲うようにしている数十名の兵士は、れっきとした総布家の兵士達。
一斉に全員が平伏する。

「揃っておるな」
「ははぁ」

その部隊長が前に出て言った。

「大事な仕事じゃ、心せよ」
「はは」
「それと奴隷共……貴様らも存分に励めよ?。
励めば約束通り、逃がしてやる。」
「へへぇーーっ!!」

敵兵等の目が変わった。
風見甚五郎は心の中でほくそ笑んだ。
(いけそうじゃ……な)

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