人身御供
非現実:作

■ 処女巫女1

「大変お待たせ致しました」
「おおぉっ、ようこそ参られたっ、奥方殿っ!!」

祠の前で待つ事、数刻。
綺麗な青空は、見上げると赤く染まっていた。
お待たせという限度は超えていた。
さっきまで「遅い遅い」と怒り狂っていた御党首こと総布兵重様は一転、歓喜の声で迎えている。
それもその筈か……目の前に現れた琴乃姫は実に美しく、憂いの表情は全ての不服を掻き消すものだった。

「お…奥方殿、大事ないかの?」
「ぇと、寒いですわ」

それもその筈か……。
琴乃姫は我等の指示を忠実に守って現れたのだ。
白の襦袢に赤い袴、それを覆うものは高値と想定出来る内掛け。
姫として育った者にとっては、これほどの薄着での出掛けは初だろう。
「神に仕えし者の正装である」我等はそう言いくるめたのだ。
最初は言語道断とまで言った侍女とかいう桔梗だったが、最後は琴乃姫の熱意に負けた。
その忌々しい桔梗という侍女は、後ろに控えながらも鋭い視線を浴びせてくる。

「祠には焚火を用意して御座いまする、奥方様」
「…ありがとう御座います、風見様」

馬鹿丁寧にも、この美姫は頭を下げた。
(くくく……これからの事も解らいで、このワシに頭を下げるかよ)
表情こそ出さないものの、ワシは歓喜の思いだった。

「で、では……参ろうかのぉ、のぅ奥方殿」
「ぇ…は、い」
「おっ、お待ち下さいませっ!!」
「控えぃ、侍女っぉ!」
「よい、魏志」
「あの……私も神に仕えとう願いまするっ」
「……ぇ?」

御党首は言葉を詰まらせた。
(ヤレヤレ……機転というのが働かない御方だ)

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