The Report from a Fallen Angel
ぽっけ:作

■ 16

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絵美子へ

もう、お前のことは忘れるから。
お前もオラことは忘れて幸せに暮らせ。

   義三郎
――――


最後の手紙を書き終えると、彼女からの手紙を持って表に出る。

「絵美子ぉ……もう、おめぇのことは忘れっから……」

遠い昔に彼女への恋心は失ってしまっていた。
彼女が堕ちていく様を見て、いつの間にか心は痛みを感じなくなっていた。
きっと、真っ白になってしまったのだ。
今の自分の心の中は空っぽだった。

このまま、消えて生きたいと思った。
手紙の一つに火を付け、残りの手紙の山に放った。
火は次々に燃え移り、やがて大きな炎となった。

燃え盛る炎から勢い良く煙が出ては、どんよりとした濁った空に吸い込まれていく。
炎が消えるまで、ただ上空を見上げていた。



それからさらに数ヶ月が経った……
彼女からの手紙はあれ以来、こなくなった……

店には絵美子との思い出が強く残っていた。
そこで、呉服屋の主人に金を借りて、店を改装した。
彼女の記憶は封印するのだ……

「いらっしゃいませぇ」
「よぉ、サブぅ」

店はそこそこ賑わっていた。
以前の寂れた食堂に比べて改装後の店の見栄えがよくなったから、というのもあるだろう。
だが、それ以上に自分自身が商売に没頭していた。
忙しく働くことだけが、彼女を忘れる唯一の手段だった。



閉店した店内で今日の売り上げを数える。

「千三百円……」

一人で生活するには十分な額だといえるだろう。
呉服屋の主人に金を返す必要はあるが、以前のように馬鹿げた利子はない。
だが……
乱暴に札束を机にたたきつけた。

「まだ、足んねぇ……」

足りない……絵美子と二人でやってきたときの売り上げには遠く及ばない。
店はいつも清潔にしているし、何より定食の味は以前とは比べ物にならないほど良くなっているはずだ。
今の自分に唯一目標があるとすれば、それは彼女と二人で働いていた頃よりも、この店を繁盛させることだ。
そうすることで、絵美子のトラウマを完全に克服できると信じていた。
そんなことを考えていると、突如、店の扉が開いた……

ガラ……

「すんません、今日はもう閉めちまったんだぁ…………ッ!?」
「お久しぶりです……サブさん」

見間違いなどありえなかった。
たしかに、以前とは雰囲気は違っている。
しかし四年も共に過ごした人間をどうして見間違えるというのか。
そして何より、彼女の声は、あの頃のままだったのだ……

「絵美子……」

以前より背が伸びただろうか。
それ以上に、体付きが変化している。
もはやその肉付きは少女のものではなく、大人の女のそれだった。

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