理科室
秘月:作
■ 2
キリキリやる、といったわりにたらたらした掃除になった。阿山はほうきをふりまわして「ひとりホッケー」をはじめ、わたしは黒板に落書きをはじめる。
落書きにもあきて、わたしはしかたなく(?)ほうきを掌にのっけて遊びはじめた。
「ていうか髪ふけよ」結局髪をふかずたらたら遊びはじめた自分に、阿山がいった。
「めんどくさいじゃん♪」というと、「風邪ひくだろ。明日休んだらクラスメート全員に髪ふかなかったこと話すからな」
わたしは「休まない」とつぶやいただけだった。そしてまたほうきでぶらぶらやりはじめたのだけど、なかなかうまくバランスがとれない。すると、相手はせせら笑って、
「おまえさ、バカじゃねえの」
「なにが?(ここでまたほうきを落として、立て直す)あんたのほうがバカじゃん」
そういってから、今日のテスト8点だったんでしょ? ときくと、なんだとガリ勉といってふざけてほうきをつきだしてきた。
ほうきといっても、ブラシのほうではなく柄の先っぽだ。しかも、それが……
まだ透けてる胸にクリティカルヒット。
笑ってる場合ではない。あっちはふざけて、あてるつもりもなかったのだろうが、こっちは大事だ。痛いと呻いて、胸を抱えて座りこむ。本当にわたしは間が悪い。なんで、さらりと流さなかったのか。さらりと流して、「痛いじゃん」と言えばよかったのに、真に受けて座りこんでしまった。
ツボにはいって、涙が出るほど痛くて、また乳房にあたったせいで痛がる自分も恥ずかしかった。羞恥心がわく。うつむいて、わたしは膝をついた。
しばらく、しんとしていた。それから、阿山がおそるおそる近寄ってきて、わたしのまえにしゃがみこんだ。流してほしかったのに。そう思うとまた涙が出てきて、それがバレないようにわたしはまたうつむいた。
「悪ぃ……ヒット? ヒットした? マジでごめん。そのぉ…狙ったんじゃないんだよ。ごめんっ。おいおい泣くなって。泣くなよお……ごめん」
ごめんを連発してくれる。こっちも困っていると、阿山は急に立ちあがって、わたしのタオルをとってきた。
「とりあえず拭こうぜ。髪。なあ? 風邪ひかないようにさあ。あと、制服もってねぇの? それじゃ……そのー……マズいだろう。トイレいっても準備室ででもいいけどさあ。なあ?」
流してくれたのだろうか。そう思うと、かすかに心が軽くなって、わたしはタオルをうけとった。「ありがと。でも、制服はもっとびしょびしょなんだ」
また、沈黙。それを、阿山がやぶった。恥ずかしかったのかすごい早口で、
「むむむ胸にあてちゃったのはあやまるからさ。恥ずかしいんならそれでもいいから、とりあえず根に持つなよ。わざとじゃねえからな!」
こっちも恥ずかしいよ。流せよ……。げんなりしながらも、髪をふく。ふきおわって、てぐしで整えると、阿山が急にぶっと吹き出した。
「おまえ、髪ストレートになると顔変わるんな」
濡れたせいでまっすぐになった髪を、阿山は言ったのだと思う。それで、「ふうん」といってみると、阿山はシャイっぽく笑った(ちょっとひいた)。
それでわたしはたちあがろうとしたのだけど、足がもろっとなった。かくかくっと足がまがって、まえのめりに倒れそうになった。やべっとうしろにのめろうとしたらマトリックスのような姿勢になり、しかもそのまま阿山のほうに倒れこんだ。
■つづき
■目次
■メニュー
■作者別