真梨子
羽佐間 修:作

■ 第6章 従属8

 身支度を終え、出勤しようとした時に浩二から電話が掛かった。

(真梨子、おはよう。 まだ札幌かい?)
 札幌に着いたとき、梶に命じられて浩二に出張してることをメールで知らせていた。
「浩二さん… おはようございます。 さっき戻ったところです」
(そうか。 仕事は上手くいったのかい?)
「ええ とっても順調です」
(そう。 でもちょっと疲れてないか?! 声に元気がないぞ)
「そうですか? ちょっと早起きで眠いし… そ、それに生理が始まってるから少し…」
(そっか。 もう少しだから頑張るんだぞ。真梨子)
「はい。 後少しですね…」
(あのさ。 今日は報告とお願いがあるんだよ)
「何ですか?」
(会社の上場日が9月15日に決まったんだ)
「わぁ〜! おめでとうございます!浩二さん」
(ああ、ありがとう。 それでね、お前のプロジェクトの仕上げの時期と重なるかもしれないが、その前後数日戻ってきて欲しいんだ。 上場記念パーティに社長婦人として俺の隣に居て欲しいんだよ)
「は、はい! 嬉しい! それくらいのスケジュール調整は今からならどうにでもなりますから」
(そうか。 じゃ頼んだよ。 じゃそろそろ会社に行くよ。 暑い日が続くが身体に気をつけるんだよ、真梨子)
「はい! 浩二さんも忙しいと思いますけど栄養を摂って深酒はしないようにしてくださいね」
(はいはい。 判ってるよ。じゃな、真梨子)

 いつもと変わらず真梨子を信頼しきって自分の事を案じてくれる浩二の暖かい声に、真梨子の心は痛みで震え涙が込上げてきた。
――戻りたい… 浩二さん… きっと…

   ◆
「吉岡専務… 橘様からお電話が入っています」
 秘書の新谷 裕美が昌也に告げた。
「ああ。 機嫌は良さそうだったか?」
「はい。 そう思います…」

「もしもし。 お待たせしました。 吉岡です。 おはようございます」
(おはようございます。 橘です)
「橘さん、お帰りになられたんですね!?」
(ええ、少し前に戻りました)
「真梨子も先ほどマンションに戻ってきまして、出勤の身支度を始めています。 随分と泣き腫らした顔をしてましたが、裏切った旦那を想ってなのか憂い帯びた表情がなんとも言えぬ色香がありますな」
(そうですか。 いっぱい泣いていましたか!? あっはっはっ)
「で、如何でしたか、真梨子は?」
(ああ、近藤さんには感謝しなくちゃいけませんなぁ! すこぶる…いや、最高の牝犬でした。 僕も張り切りすぎていささかくたびれましたが、こんなに熱中したのは久しぶりですよ)
「そうですか!満足頂けて何よりです」
(約束どおり、真梨子は私が引き取ります! 代金のお支払いは羽佐間さんの潟Eェブコミュニケーションズの株式でいいですね?!」
「ええ、もちろん。 恋女房を売り飛ばす代金は旦那が心血を注いで成長させた会社の株式上場の売買益。 こんな素敵なお支払い方法は初めてですよ。 あっはは」
(お礼にお分けする株数、少し上乗せしておきますよ)
「これはありがとうございます」
(上場までもう少しの間、近藤さんのところで可愛がってやってください)
「はい。 承知しました」
(但し、もう私の持ち物ですから余り無茶をしないように頼みますよ。 追い詰めすぎて羽佐間に打ち明けてしまうような事があれば元も子もないですからね)
「ええ。 その日が来るまでは、真梨子の羽佐間の元へ戻れるかもしれないという希望の芽を摘んでしまわないよう留意して、更に魅力的な奴隷になれるように適度な調教をしておきます。
真梨子に深い縁のある男が真梨子に興味を示していますし、更に己の性(さが)を自覚させておきましょう」
(お願いしますよ、近藤さん)

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