真梨子
羽佐間 修:作

■ 第7章 淫獄14

 エレベータは6階に止まった。
 案内板をみると、会員制倶楽部half moonという名前が書いてある。

――会員制倶楽部… お酒の店だよな?! 接待ってやつか?

 下北沢まで遊びに出ていた俊一が、千代田線に乗って真梨子のマンションに向かっていると、代々木公園駅から乗ってきた真梨子を見かけた。
――姉さん?! そっか。 姉さんの勤め先ってこの駅だったよなぁ。 こんな時間までよく頑張ってるやん。
 車両はそこそこ込み合っていたので、もう少し空いてから近付こうと思っていたら、乃木坂駅で真梨子が下車してしまったのだ。
――えっ、まだ仕事なのか?

 何という理由もなしに俊一もホームに降りてしまった。
 真梨子が先を急ぐように小走りに階段を駆け上っていくのを見て後を尾行てみる気になった。
 姉の行動を監視するなんて、何となくワクワクしてきて探偵気分で姉の後を追った。
――随分急いでるやん?! 約束の時間に遅れてるのかな?
 そうこうするうちに真梨子は、このビルに辿り着いたのだ。
――どうしよっかなあ?! もう帰るかな?!
 高級そうな店の雰囲気があるし、会員制と書いてあるので中に入って確かめることが出来るのか、、、、俊一は暫く逡巡していた。

「失礼」
 そこへ銀髪の恰幅の良い紳士が、俊一の前を横切り、エレベータのボタンを押した。
「あっ、いいえ」
 後退りすると、その紳士は、パンツが覗けそうな凄いミニスカートから綺麗な足を露出した女性の腰に手を廻していた。 やがて二人が乗ったエレベータは、また

も6階に止まったのだった。
――どんな店なんやろ?! 気になるなあ…
 怪しげな隠微な雰囲気のある二人が入った店・会員制倶楽部half moon、そこに姉もいるのかと思うと胸がざわつく。
 中に入れなくても表からだけでもどんな店か様子を見ておこうと俊一はエレベータに乗った。

「えっ」
 ドアが開くと黒服を着た星野が俊一に向かって「いらっしゃいませ」とお辞儀をしているのだ。
――ワンフロア、全部がこの魅せだったんだ、、、
 驚いて直ぐに1階のボタンを押したのだが、星野がエレベータのドアセンサーに手を添えて、ドアが閉まらないようにホールに誘っている。
 俊一は仕方なく一旦エレベータを降りた。
「ああ、あの… 僕はそうじゃないんです…」
「そうじゃない?!」
「い、いや、、、あ、あの…姉が…」
「はぁっ?! なんだ、おまえ!」

「どうしたの?」
 その時ドアが開き、黒いイブニングドレスの雅が出てきた。

「はい… 姉が… そこで見かけて…」
「姉って?」
「あっ、僕の姉です。 あの、泉真梨子… あっ、じゃなくて… 羽佐間真梨子がココに来たような… あの…」
 星野のドスの利いた乱暴な言葉遣いにすっかり怖気づいた俊一は、しどろもどろになって雅に喋った。

「まあ! じゃ貴方、真梨子さんの弟さんなのね」
「あっ、はい! 真梨子の弟で俊一と言います。 や、やっぱり姉はここに来ているんですね」
「ええ。 私はここを経営している雅です。 俊一さん、お入りなさいな」

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