真梨子
羽佐間 修:作

■ 第8章 牝奴隷10

「えっ!、、、それでご様態は?、、、」
 退社前に今日は病欠だと聞いていた梶が実は大怪我をして入院していると、秋山から聞かされた。

「命には別状ないようだけど、何ヶ月かは入院が必要だそうだ。  もしかすると後遺症が残って車椅子かもしれないって事だ。 それとこの件は緘口令が敷かれているので内密なんだけどね、怪我っていうのはどうも自宅で息子さんにバットで殴られたそうなんだよ、、、」
「えっ、ほ、ほんとですか?!、、、」
「ああ、、、 上は何とか表沙汰にならないように必死で工作しているようだけど、どうなるかなぁ、、、 ほら、君も何年か前に一度、酔った梶さんを自宅までタクシーで送り届けた事、覚えてないかな!? その時息子さんに一度会ったことがあるだろう?! 翔太君っていったかな?! 大人しそうでこの春からT大に入った優秀な子だと聞いていたんだがなぁ、、、」
「えっ、そっ、そうなんですかぁ、、、 しょ、翔太君って、、、 む、息子さんが梶さんを、、、」
――翔太君、、、 梶部長の子供だったんだ、、、 どうして!? 私のために?!、、、
「ん? 大丈夫?! 羽佐間さん」
 真梨子の沈んだ様子に気付き秋山が心配そうに尋ねた。
「えっ、ええ、、、 ご自分の息子さんにそんな事されるなんて、、、 凄くショックです、、、」
「そう。 まあ、どの家庭にも外からはうかがい知れない問題があるんだよなぁ」
「そうですね、、、」
 真梨子は、秋山と喋りながら『梶が復帰出来なければいいのに…』と本気でそう思った。 死んでくれればいいのにとさえ邪な考えが頭をよぎった。 どうしようもない淫獄に真梨子を引き込んだ男で、日々仕事場で真梨子を苛む最低の男だ。 日々の職場での辱めはなくなる事が嬉しかった。
 梶がいなくなり、9月に神戸に帰ると、もしかして元のように浩二との幸せな世界に戻れるのかもしれないと淡い期待さえ抱いてしまう。 
 しかし、心の底では、心と身体に巣食う圧倒的な啓介の存在が、それは不可能だと真梨子を笑っているのを感じていた。
「まっ、回復されるのを祈るのみだが、プロジェクトの期間内に復帰される事は無理みたいだね。 もっとも実務には影響ないけどさ」
「まぁ、秋山さんたら、、、」

   ◆

「ただいま〜。俊ちゃん!?」
 マンションに戻ったのは11時頃だった。 玄関のスニーカーがあったので俊一は帰っているようだが、既に寝ているようのか声を掛けても返事がなかった。

 夜になっても温度が下がらず蒸し熱い一日で、とにかく汗を流したかったので、真梨子は自室でTシャツとショートパンツに着替え、バスルームに向かう。
 俊一は、既に入浴も済ませたようでバスタブには暖かいお湯が張られていた。

「ふーっ」
 お風呂好きの真梨子はたっぷりお湯が溜まったバスタブに身体を浸すと、きまって満足の吐息を漏らしてしまう。 浩二に何度か『おっさん臭いなあ』と笑われる癖だ。 お湯に浸かると、男たちに玩弄され荒んだ心がほんの少し癒されるような気さえする。
 しかし体が温まるにつれ、漸く腫れが引きかけたお尻のあたりが疼くようにむず痒く、一昨日の小松原教授に打擲(ちょうちゃく)された恥辱の一夜の記憶が蘇ってしまった。
 鞭で身体を打たれて、痛みの中からも快楽を感じてしまった忌まわしい時間、、、
 そして、啓介をはじめ小松原教授や梶部長、桑野医師、星野に嬲られ狂わされた数々の惨めな記憶、そしてに雅ママや、奈保子店長、菅野美穂との女同士の甘い恥辱の官能が走馬灯のように頭を駆け巡る。
 辱められ、惨めで惨い仕打ちを受けるほどに乱れ狂い、快感を貪ってしまう己が身体を呪い、懊悩する真梨子は、嗚咽を漏らし涙を湯船に落とす。
 ひとしきり泣くとやがて気持ちが少し和らいできたように真梨子は感じた。 何も状況は変わったわけではないのに、泣く事で気分が変わった高校生の頃の失恋を思い出し、自嘲気味に微笑んだ。 ふと、駅で翔太が発した言葉を思い出した。

――翔太君、大丈夫なのかしら、、、 翔太君は私を救おうとして、、、 やはり彼は梶部長が私にしてたことを知っていたから…!? 
 卑劣な痴漢として出会った翔太だったが、純粋そうな彼の目がなにかしら真梨子は好きで、それに彼に悪戯されることを望んでいた自分がいたのを知っている。 今は恨む気持ちよりも彼の人生に傷が付かずにいて欲しいと思っていた。
「ふーっ、、 湯あたりしちゃいそう、、、」

 知らぬ間に30分は湯に浸かっていただろうか、真梨子は湯船をあがり、髪を洗った。 強めのシャワーを地肌に当て髪を丁寧にすすぐ。 そして身体を洗おうとスポンジを手に取ったとき、奈保子店長から貰った高倉ビューティーの新製品のボディシャンプーのことを思い出した。
――今夜、試さなきゃいけないわね、、、
 先日の打合せの時に『お盆休みに帰省するんだったら、久し振りに旦那様に可愛がって貰う貴女の身体をお店の営業が終わった後、みっちりエステで磨いてあげるわよ』と意味ありげな微笑をたたえた奈保子に半ば命じるように言われ、その時に新製品の感想を聞かせて欲しいと渡されていた物だ。
 明後日には俊一と一緒に帰省する予定で、エステの約束は明日、午後8時だ。 新しいシャンプーはバスルームを見渡しても見当たらなかった。
――そっか、、、 部屋に置いたままだったわ、、、

 シャワーを止め、勢いよくバスルームのドアを開けた。

「えっ! きゃっーーー!、、、」
 脱衣場に俊一が蹲っていたのだ。 脱いだばかりの一日の汗を吸った真梨子のショーツを鼻に押し当て、見上げる俊一と目が合った。
 一瞬呆然と言葉を失い立ち尽くす真梨子…
「きゃー!! で、出ていって! 俊ちゃん! な、何してんの、、、」
 悲鳴とともに真梨子は胸を手で覆い、しゃがみ込んで俊一に叫んだ。

 俊一は驚いてすっくと立ち上がり、手に握りしめていた真梨子のショーツを投げつけ、バスルームを飛び出していった。

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