真梨子
羽佐間 修:作

■ 第9章 肉人形11

− 禁断の扉 − 8月27日(土)

「ここへ乗せてください」
「はい」
「オッケ〜!」
――ああぁぁぁぁ、、、 こ、声がでちゃう、、、 秋山さん! 赦してえぇぇぇ、、、
「どうも、ありがとう。 助かりました」
「いえ、いえ。 じゃ気をつけてお帰りください」
(バタンッ!)
 ドアが閉まり、真梨子は『はぁぁぁ』、と恥辱の息を吐いた。
 真梨子が詰め込まれた箱は、車の後部席に乗せられ、エンジン音が高まり車は夜の東京の街を疾りだす。
――どこへ行くの?! どんな辱めをうけるの、、、
 オフィスでの出来事が真梨子の脳裏を駆け巡った。

   ◆

 屈辱の廊下の散歩を終え、放心状態で床に這いつくばる真梨子の背後で耳慣れない音が聞こえてきた。
 真梨子の目にした光景は、秋山が真梨子の服を鋏でザクザク切り刻んでいるところだった。
 小さな布切れと化した服は、段ボール箱の中に次々に落ちていく。
「あ、秋山さん、、、」
「行こうか、オシッコがへたくそな牝犬真梨子さん」
「ど、どこへ、、、 ですか、、、」
「さあ?! 少なくとも真梨子の性癖がもっと満たされるところさ」
「もう、、、 赦してください」
「ははっ、冗談だろ。せっかくの週末だ。楽しみはこれからだよ」
「ぁぁぁぁ、、、」
「さっ、自分でこの中に入るんだよ」
 秋山が段ボール箱を指差して冷ややかに言った。
「………」
「もう服はないよ。 裸で帰るつもり?!」
「そ、そんなぁ、、、」
「君が裸で現れたら警備室の守衛さん、喜ぶだろうなあ」
「………」
「早くしろ!」
「、、、はい」
 逆らえぬ恥ずかしい命令を授けられ屈服の意を示す時、真梨子の胸をキュンと鷲づかみにするあの妖しいざわめきを、今秋山の言葉にも感じてしまった。 
 真梨子は魅入られたように身体を起こし、ダンボール箱を跨いで身体を沈める。 虐げられるこの屈辱が得もいえぬ快感を呼び起こす。
 秋山から箱の上から目隠しに手錠にと次々に身体の自由を奪う”枷”が付けられるごとに、真梨子の被虐心は揺れ騒ぐ。
 秋山が楽しそうな顔をして真梨子を覗き込み、手にしたリモコンのコントローラで真梨子の頬をピシャピシャはたいた。
 
「移動中、退屈だろうから時々サービスしてやるよ。 でも守衛さんの前では声を出すんじゃないよ。 わかったね、牝犬真梨子さん、あははっ」

 蓋が閉まりガムテープでしっかり閉ざされた途端、股間の淫具が蠢きだした。
(うはぁぁぁ、、、くぅぅぅぅ、、、)
 俊一にスポーツバックのなかで強いられた新幹線での淫地獄を思い出し、真梨子は恐ろしさと淫らなざわめきに身体が震えてしまう。
 やがて微かに響くモーター音と共に、真梨子を現実から救い出すかのように再び淫魔が身体を覆い始めた。

   ◆

 前のめりに車が傾き、ぐるぐる廻りながら地下へと降る。 コンクリート壁に反響するタイヤの軋み音は、真梨子には聞き覚えががあるような気がした。
 やがて車はバックする電子音を刻みながらビルの地下駐車場に止まった。
――あぁぁぁ、、、 きっとあの秘密倶楽部だわ、、、

 真梨子が入った箱は、数人に抱えられ台車に積み替えられエレベータに載る。 かなり上階まで登った感覚の後エレベータから引き出されたフロアは台車の車輪から絨毯のふかふかした感触を伝え、真梨子はあの梶と奈保子に連れられてきた場所だと確信した。

――ケイスケ様、、、 シンガポールから戻ってこられたんですね、、、
 淫具の微振動に切なく牝芯を蕩けさせている真梨子は、今から強いられる凌辱がケイスケにもたらされる予感に悦び、倒錯の肉欲を心底求めている自分の淫らさに気が狂いそうな嫌悪感に包まれた。
 しかし脳裏には2週間前、レストランでの恥ずかしい食事の場面が思い浮かんでくる。 民自党奥様会の慰労会の後の果てしない悦楽に溺れ狂った時を、そして北海道でケイスケに買われた時の事が鮮明に蘇ってきた。
 そして、秋山の態度が豹変し、陵辱を受けたのはケイスケの指示だっただのだろうと思慮が及ぶと、秋山に知られてしまった恥ずべき秘密は、啓介の周りの閉じられた世界の中だけのことで他の人に漏れることはないだろうと思った。
 秘密は漏れない! そう思った瞬間、疼き火照る身体は、真梨子の知性も、罪の意識も吹き飛ばし、被虐の肉欲で被い尽くされた。

 やがて部屋に運びいれられたダンボールの上蓋のガムテープが剥がれる音がし、流れ込んできた冷気が汗みずくの真梨子の身体をヌルリと撫でていった。

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