真梨子
羽佐間 修:作

■ 第9章 肉人形41

− 十字架 − 9月15日(木)

「ほぉ〜! いい部屋じゃないか」

「はい、、、」

 日付が変わりかける頃、浩二が真梨子のマンションにやってきた。

 浩二が社長を務める潟Eェブコミュニケーションズは明日、東証に上場する。

 東京支社で最後の打ち合わせを終え、真梨子のマンションを訪れた。 真梨子が単身赴任で東京へ来て以来初めてのことだ。

「お腹、大丈夫ですか、浩二さん?」

「ああ、佐伯君たちと済ませてきた。 真梨子も戻ったばかりなのかい?」
 真梨子の濡れた髪を見て浩二が言った。

「はい。 少し前に、、、 どうぞ」

 真梨子が浩二の好きなほうじ茶をテーブルに置いた。

 脳裏に、ほんの数時間前にたくさんの男達に輪姦され悶え狂った瞬間が蘇える。

「ふふっ、ありがとう。 真梨子にお茶を入れて貰うのは久しぶりだなあ」
 旨そうにお茶を啜る浩二を見て、真梨子は胸がズキンと痛む。

「ええ。 そうですね」

「島田から電話もらったんだけどプロジェクトは無事済んだんだね」

「ええ、、、」

「お疲れ様だったね、真梨子」

「あぁっ、、、 浩二さん、、、 あぅぅ、、、」 
 浩二が真梨子を抱きよせ、熱いキスを交わす。 

 疲れきった身体を泣きながら奮い立たせ懸命に洗ったが、全身に浴びた夥しい精子の匂いが未だ残っている不安にかられ、浩二に抱きしめられていることが恐ろしく怯えている。
――ああぁぁ、、、 この匂い、、、 この力強さ、、、 私はこの人の女なの、、、 浩二さんの元に帰りたい、、、
 鼻腔をくすぐる浩二の男の匂いは真梨子を安らかにさせ、そして心の底から浩二に詫び、半年間の出来事を悔いる。

 周到な計画で嵌められたとはいえ、引き返せるタイミングがあったに違いない。

 half moonにさえ行かなければ、、、 雅の誘いに乗らなければ、、、次々と繰り言が真梨子の頭をよぎる。

 そして何よりもお腹に宿った小さな命に、心が張り裂けそうになる。

『要は旦那が自分の子供だと信じればいいんだろ!?」
 啓介の言った言葉が蘇るが、未だ妊娠していることすら伝えていない。

 どのようにして浩二に信じ込ませるのかは想像もつかない。
 そしてそうなった時、そのウソを演じ浩二を欺き続けなければならないのは真梨子自身なのだ。

「ん?! 泣いてるのか?」

「い、いいえ、、、」

「ふふっ。 寂しかったんだな、真梨子。 実はな、、、 お前に話があるんだ」
 真梨子の肩を抱き、じっと目を見て浩二が語りだした。

「、、、何ですか? あ、あらたまって、、、」

 真梨子は、恐怖で心臓が張り裂ける思いで浩二の唇が発する言葉を待つ。

「急な話なんだが、アメリカの会社と合同事業を立ち上げることになって、明後日の土曜日にシアトルに飛ぶことになってるんだ。 月に一度くらいは帰ってくるが、1年くらいは向うで暮らすことになる。 で、話というのはお前にも一緒に来てほしいんだ」

「、、、あぁぁぁ、、、 はい」
 真梨子は頭が混乱して、どう返事してよいのか検討がつかない。 異国の地で日々お腹が大きくなっていく自分を想像すると気が狂いそうだ。

「あっ、もちろん今の仕事のケリをつけてからでいい。 今度の日曜日に一緒に飛ぼうなんて無茶は言わないさ」
 浩二が真梨子の返事が気乗りでないと思ったのだろう、気遣ってくれていることが何よりも真梨子にはつらい。

「ええ、、、」

「それと真梨子とアメリカでやりたいことがあるんだ!」

「アメリカでやりたいこと?!」

「ああ。 遠藤って僕の友達、覚えてるだろ?!」

「お医者様の?!」

「そうそう、遠藤総合病院の遠藤だよ」

「えっ、ええ。 もちろん、、、」

「この間、奴のところで健康診断を受けたんだけど、その時についでに調べられたんだけどなあ、、、 遠藤にやって貰った俺のパイプカットの手術、、、 失敗だったんだとさ、、、」

「えっ!?」

「まれにそういう事があるとは聞いてはいたんだが、、、」

「し、失敗って?! ど、どういうことなんですか?」
 真梨子は動悸が激しくなり唇がワナワナ震えてくる。

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