真梨子
羽佐間 修:作

■ 第9章 肉人形46

「本日の我が社の上場はひとえに株主の皆様のお陰です。そして市場のニーズに叶う商品を作り上げた我がスタッフ達の才能と弛まざる努力の賜であり、大変感謝しております」
 浩二の晴れやかな表情で堂々とした挨拶を見上ていると、真梨子の目頭に涙が滲んでくる。

「創業以来、私は会社の舵取りを担わせて頂いておりますが、心おきなく仕事に没頭できるも私の日常を献身的に支えてくれている妻がいればこそなのです。 2度目の結婚という事もあって近親者のみで式を挙げましたので皆様に紹介させていただく機会がないままでした。 改めて最愛の妻・真梨子を紹介させて頂きます。 真梨子。 おいで」

 壇上から浩二がにこやかに手招きをし、舞台に向かう真梨子を大きな拍手が包む。
――あぁぁ 浩二さん、、、

 晴れやかな舞台の上に上がり、浩二と並んでスポットライトを浴びる。 

 夫が起業した会社が上場し、そのお披露目の席で主人と並んで祝福して貰えるのは、世の妻にとってもっとも晴れやかな瞬間のひとつのはずだ。

 裸の上に薄衣一枚をまとっているだけの心細さは、真梨子を疼くような羞恥心となって包み込み、マイクの前に進み一際強いライトが全身に当たった瞬間、股間からトロリと精液が大腿を伝い流れた。
――あぁぁぁ、、、

 差し障りの無い短い謝辞を終え、後ろへ下がろうとすると浩二が歩み寄り真梨子の肩を抱いてマイクに向かった。

「皆さんに私事ではありますが、つい先ほど飛び込んできた嬉しいニュースがございます。 え〜、、、ちょっと気恥ずかしい話なのですが、妻・真梨子に子供が宿りました〜」

 どよめきの後、会場中から割れんばかりの拍手と歓声が起きる。
――あぁぁぁ、、、 もう本当に後戻りできない、、、

 浩二のスピーチを聞きながらフロアに目を移すと、懸命に拍手をする両親と目が合った。

 父・俊夫は目に涙を滲ませ、嬉しそうにうん、うん、と大きく頷き、その隣で母・由子は口元を押さえて泣いていた。

 二人の隣には弟・俊一と妹の詩織の顔があった。 

 俊一は怒った様な表情で、じっと真梨子を見詰めていた。
――あぁぁぁ、、、 俊ちゃん、、、 来てたのね、、、 ごめんね、、、

 俊一の顔を見るのは二人一緒に陵辱された後、置手紙を残し、故郷へ戻ってしまって以来だ。 

 俊一との背徳の時間が真梨子の脳裏に蘇る。 二人して嬲られ、黒人の巨大なペ○スにア○ルを犯され快感に喘いでいた俊一の痴態は今も忘れられない。
――私のせいで、、、 普通の生活に戻れるよね、、、 俊ちゃん、、、

「それでは乾杯の音頭はこの方にお願いしたいと思いま〜す。 彼の力添えがなかったら上場は適いませんでした。 ご紹介します。 ベンチャー・エンジェルの橘社長です!」

 浅黒い男が壇上に駆け上がり、浩二とかたい握手を交わす。

「皆さん、こんばんは。 ベンチャー・エンジェルの橘です。 ウェブコミュニケーションズの皆様。 本日は、おめでとうございます!」

「あっ!、、、」
 真梨子は思わず声をあげてしまった。

――そんな、、、 そんな、、、 ケイスケさま、、、
 真梨子はこの光景が理解できず、呆然と見詰めていた。

 壇上でスピーチしているのは、”ケイスケ”だった。

――ケイスケ、、、 橘 啓介!!
 真梨子も仕事の上で、橘 啓介の名前は度々耳にしていたが、マスコミ嫌いで有名で、その風貌はほとんど知られておらず、投資ファンド界の風雲児として名を馳せていた。

 その橘啓介が、真梨子を堕としたケイスケだったのだ。 その人が夫と共に目の前にいる。

 随分前に、投資ファンドのトップと意気投合し、大切なパートナーを得たと浩二が言っていた事を思い出した。
――ケイスケ様は浩二さんの盟友だった、、、

 啓介のスピーチの間、真梨子は立っているのがやっとという程にショックに打ちひしがれ、身体の震えが止まらない。

――いったいどうなってるの!? 何が目的なの?! 浩二さんの会社? どういう事? 浩二さんに恨み?
 真梨子は何が何だか分からず、気が狂いそうだ。

――ケイスケさまは浩二さんの大事な仕事のパートナー、、、 ケイスケさまは盟友の浩二さんの妻である私を陵辱し尽くした、、、 ケイスケさまは浩二さんを愛せよと命じる、、、 そして誰の子供かわからない子供を浩二さんの子として産ませようとしている、、、 ケイスケさまはどうしたいの? 私の事、浩二さんの事、会社の事、、、

「今回、仕事を通じて羽佐間さんに出会えた事は僕の人生の中で最大の喜びの一つとなりました。 羽佐間さん! そして奥様! お二人の愛の結晶が健康でご誕生されますようお祈りしています」

「それでは皆様ご唱和ください! ウェブコミュニケーションズの更なる発展と、皆様のご健勝を祈念し、乾杯!」
「かんぱ〜い!」
 
「さあ、皆さん! お腹が空いたでしょ?! 食べながらご歓談ください」
 拍手の渦の中、響いた浩二の言葉に一気に華やいだ空気が会場に満ち、ビュッフェスタイルで用意された美味しそうな料理に皆が散った。

   ◆

 フロアに下りると、真梨子の元に両親が駆け寄ってきた。

「真梨子! おめでとう! おめでとう、、、 予定日は何時なの?」

「ありがとう。 お父さん、、、 お母さん、、、 5月の中頃の予定よ」

「真梨子姉さん、オメデト! 私、叔母さんになっちゃうのね〜」
 詩織が嬉しそうに真梨子のお腹をさすった。

「俊にぃはねぇ〜、ご機嫌斜めなの〜。 俊にぃは真梨子姉さんの大ファンだもんネ。 結婚した時もそうだったけど、今日も何だか怒ってるみたい、ウフッ。 ホラ、あそこで自棄食いしてる〜〜」
 詩織の指差す方を見ると、俊一がローストビーフをパクついていた。

「お母さん。 俊ちゃん、元気になったの?」

「ええ。 突然すぐにでもアメリカに留学したいなんて言い出して、浩二さんにも相談に乗っていただいているみたいよ」

「えっ? そうなの?!」
――私が神戸に戻るからなのね、、、

 真梨子は俊一の真意は分からないが、環境を変えてこの夏の悪夢を払拭するのも良いのかもしれないと思った。

   ◆

 パーティの間中、真梨子は浩二に連れられ、たくさんの人に挨拶して回った。

 なんとか淫らな装いが露見せずにパーティは終わった。

 これからは、こういうお付き合いも時々頼むよと浩二に言われ、嬉しく思う反面、贖罪の日々の始まりと、啓介の存在が不安で真梨子の心を塞いでしまう。
 
 真梨子は二次会に繰り出す浩二を見送り、今夜はこのホテルに泊まり明日、神戸に帰る家族を部屋まで案内して、マンションに戻った。

■つづき

■目次2

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊