真梨子
羽佐間 修:作

■ エピローグ2

 浩二と吉岡の二人は、以前に浩二がNet上で主催していたパンゲアクラブのOFF会で”女を嬲る”という共通の嗜好を通じて知り合った。

 とはいっても互いにハンドルネームで通し名前も明かさないまま、やがてサイトを閉じたので、連絡を取ることもなかったのだが、ある経済団体のパーティで偶然出くわし、お互いの素性を知ることになった。

 誘われるままに吉岡の秘密クラブに出入りするようになった浩二は、幾度か同じ女を遊ぶうちに吉岡と気脈を通じるようになる。

 やがて吉岡の裏の顔の実力を知った浩二は、吉岡なら実現できるかも知れないと、時々衝動に駆られていた『真梨子を牝犬に堕とす』というアイデアを吉岡に相談してみた。

 吉岡は、凄く驚いたが、内心真梨子を調教できると思うと胸が躍り、快諾した。


 春になり、半年の任期で高倉ビューティに赴任する。

 しかし浩二のオーダーは真梨子をとても愛しているからなのだろう『真梨子をドキドキさせて嬲ってくれ』『俺への裏切りを後悔しながらも肉欲に溺れてしまう猥らな牝犬に育てろ』と真梨子の感情の移ろいを重視し、『薬・妊娠は絶対NG』という条件が付いている邪魔くさいものだった。

 吉岡は経緯を横田たち腹心にも秘したまま、half moonのスタッフや、会社の中に梶や秋山など協力者を作り、まどろっこしい調教を始めた。

 ”真利子を堕とす”最終の形は浩二にも見えていないようなので、いずれは高級娼婦として売り先を探すように横田には命じていた。

 たまたま浩二の会社の上場に秘密倶楽部の上得意である投資ファンドの橘啓介が出入りしているのを察知し、真梨子の購入を持ちかけてみる。

 啓介は、吉岡にとってこの道の師匠にあたる橘 義輔翁(注1)の子息で、浩二に返すようになっても真梨子の身柄については無理を聞いてもらえるだろうし、余録の小遣い稼ぎもできそうだと算盤をはじいた。

 客の好みは熟知していたので、あらかじめ監視カメラの映像を見ていた啓介は案の定真梨子をいたく気に入っている様子を見せる。

 啓介と浩二の関係がよくわからなかったので、真梨子の夫で男の嫉妬心から憎むべき男として紹介したが、啓介の浩二評はとても良いものだったし、同じ嗜好の二人を思い切って引き合わせることにした。

 吉岡は浩二と啓介を秘密クラブの仮面パーティでプレイに興じた後二人を別室で引き合わせる。

「羽佐間さん。 こちらが真梨子さんの調教をお手伝い頂こうと思っている橘さんです。 橘さん。 こちらが真梨子さんのご主人の羽佐間さんです」

 二人はマスクを外し見合ったまま言葉を発することが出来ずにいた。

 しばらくすると二人は「くくくっ」「くっくっくっ」とこみ上げる可笑しさをこらえて身体を揺すり、やがて大声をあげて笑いだした。

 それからは吉岡も呆れるほど無二の親友のように付き合い始めたのだった。


   ◆

「吉岡さん。 俺の子供を真梨子に産ませたいんだが、、、 俺の子供だと分からないように、、、」

「えっ?! 羽佐間さん、パイプカットしてませんでした?」

「精管再生術、受けたんですよ」  

「そうなんですか、、、 そのこと、奥さんは知っているんですか?」

「いいや。 知らせていない」

「生ませた子供はどうするんですか?」

「もちろん俺と真梨子、夫婦でしっかり育てるさ」

「はあ?! 訳がわかりませんよ。 だって奥さんには羽佐間さん以外の男の子供だと思わせて産ませるってことですよね?!」

「そうだ」

「羽佐間さんの実の子供でありながら、奥さんには他人の子供と思わせたまま、二人で育てるんですか、、、」

「そうだ。 真梨子には俺は俺の子供だと信じてると思わせてな」

「はあ、、、」

「俺のパイプカットの手術は失敗で、精子は生きていたと騙されていることにするんだよ。 幸いパイプカットをした医者は俺の友人だからな」

「なるほど、、、」

「俺が死ぬまで、真梨子は俺にばれないかとビクついて暮すんだ、、、 一生、俺に申し訳ないと心で詫びながら俺の子供と一緒に暮らしていくんだ、、、 あの子の中で俺が生きている間ずっと俺を騙していると自責の念で苦悩させたいんだ、、、」

「はあ、、、 何となくわかりましたけど、しかし羽佐間さん、、、 かなり病んでますねえ、、、」

「ああ、、、 重症だね。 普通に愛してやれたらいいんだが、、、 しかしあの子が俺への贖罪で自ら命を絶ってしまわぬよう、何か強烈な暗示というか洗脳というか、、、 う〜ん、枷とでもいうのかなあ、、、そういうもので守ってやって欲しいんだ」

「難しいですけど、やってみますよ。 啓介さんがいい味出してますから大丈夫でしょう」

「だが真梨子が橘君の子供だと思ってしまうのも詰まらん。 誰の子供かわからないようにして欲しいな」

「はい、、、 わかりました。 奥さんの生理の周期を確認して、スケジュールをお知らせします。 羽佐間さんだと分らぬように奥様を犯していただきます」

「頼むよ、吉岡さん。 俺は、一生あの子を愛し、守り抜く、、、」
 
「そうですか、、、」

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