半紙
二次元世界の調教師:作

■ 1

 私は小久保瞳。この春からあこがれだった私立の女子高に入学の叶った高校1年生です。この高校はいわゆるお嬢様学校で偏差値が高く全然無理っぽかったのですが、私には特技があって恐らくそのおかげで推薦入試で合格したのです。その特技とは小学校入学前から習っている書道で、私は中学校時代に全国規模のコンクールで入賞したりしていましたから、先生に教えられて全く思ってもいなかったこの高校を推薦で受験したのでした。

 中学校はごく普通の公立ですから、やっぱりいろんな人がいて、ちょっと不良っぽい人が私は苦手でした。私は自分で言うのも何ですがとても真面目で、スカートを短くしたり授業中におしゃべりしたり、そういう事が嫌いなのです。そのため、他の女子からいい子ぶってる、とか言われてちょっとしたいじめにあった事もありました。だからみんな服装がきちんとしていて、いい所のお嬢さんみたいな生徒ばかりに見えた、この高校にあこがれていたのです。

 さて実際に入学してみるとこの学校はやっぱりイメージ通りで、服装とか生活態度についてはとても厳しく、生徒は皆真面目そうな人ばかりで嬉しかったです。クラスでは女子ばかりですから人間関係の難しい所がありましたが、すぐに入部した書道部は最高でした。やっぱり書道をやってる子は大人しくて真面目な、私のようなタイプの人がほとんどですから。この学校の書道部はとても活発で、各学年10人ずつくらい部員がいましたが、みんな上下関係もあまりなくて仲が良く、毎日放課後集まって楽しく活動しています。

 そして書道部の顧問は秋山恭子先生と言って、30歳くらいの優しくてとても美人の、素敵な先生です。いつも熱心に、沢山の生徒1人ひとりに細かく指導して下さるので、書道部はこんな大所帯の活発な部なのだと思います。先生は女の私達から見てもとてもおしゃれで奇麗なので、なぜまだ独身なのか不思議に思われるほどでしたが、余計なお世話でしたね。私はすぐにその理由を知る事になるのです。

「3年は花崎さん、2年は吉田さん、それから1年生は小久保さん、あなた達今度の日曜の書会にどうかしら?
 もし都合が悪かったら、他の人に変わってもらってもいいのよ。」

 入学、入部して1月くらいたったある日、先生がみんなの前でそうおっしゃいました。名前を呼ばれた花崎さんと吉田さんは、わあ、やったあ、などと嬉しそうにはしゃいでいましたが、私はまだ何の事やらわかりませんでした。すると2人の先輩が教えてくれたのです。

「毎月1回くらい、先生のご自宅で書会が開かれるのよ。」
「そこに学学年から1人ずつ呼ばれて参加するってわけ。」

「書会」と言われてもまだ私にはイメージがわきませんでしたが、さらに他の先輩方も加わっての話では、先生と選ばれた3人だけの特別レッスンみたいなものらしく、お茶やお食事まで出して頂けるし、それに選ばれる事はとても光栄な事のようでした。何より皆のあこがれの的である恭子先生の自宅に招かれてレッスンを受けると言うのが嬉しい事で、1年生の子達も、うわあ、いいなあ、瞳ちゃん替わってよ、と言い出しました。私もだんだん嬉しさが込み上げて来て、もちろんその「書会」に行く事を承諾してしまったのです。
 
 3年の花崎さんと、2年の吉田さんは、お呼ばれの常連らしく、まだ呼ばれた事のない先輩達からは、羨望の声も聞かれていました。もちろん個人の都合もあるとは思いますが、どうも「書会」に呼ばれる人は割と限られていて、先生のお気に入りなのかも知れませんが普段えこひいきをしそうな先生ではないので、私は少し複雑な気持ちでした。先輩の2人は毎日熱心に部活に顔を出していましたが、特別に上手だとか言うわけではないのです。あえて共通点を探せば、真面目で大人しい子の多い書道部の中でも口数が少なくておっとりした、クラスにいたら全然目立たないタイプの人でした。それは確かに私とも共通しているか知れません。

 それから日曜までの数日、私は花崎さんと吉田さんに、それとなく「書会」ってどんな事をするんですか?、と聞いてみましたが、なぜか2人とも言葉を濁して通り一遍の事しか答えてくれないのです。行けばわかる、と言う感じでしょうか。でも2人とも「書会」に行く事はとても喜んでいるのは間違いないので、私もまさかあんな事が行われているなんて、夢にも疑う事はなかったのです。



 さて「書会」に行く日曜がやって来ました。朝、3人で一緒に行く打ち合わせをしていた場所に行き、私は2人の先輩方と顔を合わせました。日曜と言っても部活の一環だと言う事で、3人とも紺のブレザーの制服をきちんと着こなしています。スカート丈はもちろん他の乱れた学校の女子みたいに短くしたりはしていません。地味で大人しい感じの3人ですから、遠目には中学生の集団みたいに見えたかも知れません。花崎さんと吉田さんはいつも通り無駄口を利く事は一切なく、さ、行きましょう、とそこから先生の自宅まで歩き始めました。私は普段ほとんど口を利かない先輩と一緒だし、先生のご自宅に招かれたと言う緊張感でそわそわと落ち着きませんでしたが、2人の先輩も何だか緊張しているみたいで、脚が慄えている様子がわかりました。そう言えばこのお2人の共通点をもう1つ発見しました。いつもオドオドとして大変な羞ずかしがり屋さんで、先生と話す時は不自然なくらい緊張してかしこまっているのです。何かあるとパアッと顔を真っ赤にして黙ってしまう、そんな姿をよく見かけるお2人で、それは又私にも当てはまる事でした。

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