男子トイレのハナコさん
二次元世界の調教師:作

■ 2

 3人の中では最も小柄で何の取り柄もない僕はそう泣き付きたい気分だったけど、もう後戻りは出来ない。勇気を出して廃校舎の中に足を踏み入れると木造の床がギシギシときしんで、僕は余りの恐ろしさですくみ上がる気分だった。いくら他のトイレが遠いとは言え、部活の連中はよく夜こんな所のトイレなど使う気になるものだ。しかも「ハナコさん」の目撃者は1人で入ったのだ。僕はソイツは、始めてナマコを食べた人間と同じくらい勇気のある人間だと思った。

「それじゃここで見張ってるからな。」
「トイレの入口は全部開けとけよ。」
「大丈夫だ。
 いざと言う時の備えは万全だからな。」

 コウイチ君は懐中電灯などの入った大きなバッグを持って来ていた。何が入っているのかは聞かなかったけど、頭脳明晰で頼りになるコウイチ君の事だ、きっとその言葉を信用してもいいのだろう。さて廃校舎の中は真っ暗だったけど、どこかから少しだけ明かりが洩れていて、僕が向かうトイレはもうすぐそこに入口がうっすらと見えている。この春までは使われていた校舎だから、僕にも多少は覚えがあるが、このトイレ何とイマドキ珍しいく」み取り式の大小兼用タイプだ。うちの高校は県内で最も古い伝統がある、と言うのがウリみたいだけど、木造のガタガタ校舎にくみ取り式のトイレはシャレにならない不気味さだ。で、男子トイレはそういうくみ取り式便器の個室が3つある作りで、「ハナコさん」は一番手前に出るらしい。その現場を見せなきゃいけないから、マサル君は入口を開けておけと言ったのだ。言われなくても明かり1つないその個室にこもってしまう勇気は僕にはなかっただろうけど。

「うわっ!」

 僕はそのトイレ全体の入口を手探りして奇妙な感触で声を出してしまった。張っていたクモの巣が手と顔に当たったのだ。こんな物でも気色悪い事この上ない。僕は様子をうかがっているに違いない2人の方を振り向いたけど、完全に気配を殺していたので、もしかして本当に1人ぼっちなのではないか、という恐怖に陥りそうになっていた。お、おい、何とか言ってくれよ〜。そんな事をしたらせっかくの「ハナコさん」探索が台無しなのだが、僕は情けない事にそんな気持ちだった。

 が、ここは悪友の2人を信頼して僕も勇気を出すよりないだろう。僕は、何も出ないでくれ〜、と又情けない事を祈りながら、ゆっくりと個室の戸を開けた。すると、真っ暗闇の中に、ぼんやりと人の姿をしたものの形が現れて、今度こそ僕は腰を抜かしそうになっていた。

「うわあっっっ!!!」

 僕は大声を上げてその場にへたり込むと、股間に生暖かい感触を覚えていた。本当にチビってしまったのだ。

「ねえ君。
 アタシお化けじゃないから、大丈夫だよ。」

 お、おい、来るなよ! と思ったけど腰が抜けて動けない僕に、その女の子はアッサリ手を触れて、そう言った。ハナコだ! 何してるんだ! 僕はまだ気配を殺している2人が動いてくれる事を願ったが、全く動く気配がない。そして「ハナコさん」の手に触れ、声を聞いて、彼女が生身の人間である事がわかるに連れ、不思議なくらいに恐怖は消えていたのである。

「人間だから安心しなよ。
 ねえ、アタシの事誰にも言わないって約束してくれる?」

 だらしなくへたり込んでいる僕の額に手を当てながら、「ハナコさん」はそう言った。乏しい光の中でも次第に慣れて来た目で見る彼女は、噂通りうちの高校のセーラー服を来ていて、声の感じはごく普通の女子高生みたいだった。顔は、何と言ったらいいんだろう。暗がりでもギラッと光るような派手な、ギャルメイクと言うのだろうか、うちの高校の真面目な女子高生達には絶対いない濃い化粧をしているようだった。僕は落ち着くに連れて、同年代と思われる女子に至近距離に迫られているのに興奮し、思わずうんうん、とうなずいていた。

「良かった。
 じゃさあ、いい事してあげる。
 アタシのパンツ見たくない?」
 
 う……
 き、来たーっっ!!

 僕は何者かもわからない「ハナコさん」のえっちなお誘いに、再びウンウンとうなずいてしまっていた。勝手に想像していた日本人形みたいな和風の美少女じゃなかったけど、セーラー服を着たえっちな女子高生、と言うだけで僕の濡れた股間は別の反応を始めていた。

「じゃあ千円でいいよ。」

 え?「ハナコさん」の意外な言葉に、僕は戸惑ってしまった。そんな僕を尻目に、「ハナコさん」はどんどんとんでもない事をしゃべり始めていた。

「パンツ見るだけなら千円。
 もう千円くれたら、お触りさせたげる。
 それともおちんちん弄ったげよっか?
 3千円で手でしてアゲル。
 5千円でオクチ。
 本番なら1万円だよ。」

 な、何なんだ、コイツ……僕が余りに世俗的な「ハナコさん」に返す言葉もなく固まっていると、パッと辺りが明るくなった。

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