ヘンタイ教師
二次元世界の調教師:作

■ 1

「宮本って、何かヘンタイっぽくない?」
「うん、アタシもそう思ってた。」
「でしょー。」
「だってさ、あの歳で独身って、終わってるよね。」
「えマジ?
 あの先生結婚してないの?」
「こないだの夜、よっちんがコンビニでバイトしてたら、弁当1人前買って帰ったんだってー。
 だから独身だよ、絶対。」
「だいたい、宮本って何歳?」
「さあ?」
「もうすぐ50になるらしいよ。」
「やだー、うちのお父さんと同じー。」
「キンモー!」

 お昼のおべんとタイムの後、アタシ達女子はみんなで2年生の担任になった宮本先生の事をこき下ろしていた。宮本先生はとても小柄で貧相な国語の先生だ。一見すると年齢不詳の感じだが、もう50歳になるのか。うちの父親より上なわけだ。その歳で独身、と言うだけでヘンタイだの、キモイだのと言われてしまうのはかわいそうだが。いや、それだけではない。宮本先生はとても小声でボソボソとしゃべるし、いかにも気が弱そうで怒っても少しも怖くないので、生徒から完全にナメられているのだ。高校生女子は、自分より立場が弱そうな男性には残酷なものだ。話はエスカレートして、宮本は生徒の着替えをのぞいている、だの、やたらと女子の体に触りたがる、だの、みんなある事ない事好き勝手に話し出し、すっかり宮本先生は「ヘンタイ教師」だと言う事にされてしまった。あの先生、絶対童貞だよ、なんて断言する子まで出る始末で、これだからおしゃべりな女子の噂話は怖い。

 クラス全体を巻き込んだ「宮本先生ヘンタイ疑惑」の話は一段落着き、仲の良い子同士で固まってそれぞれにおしゃべりが始まった。アタシはみっちゃんと、さっきから1人黙っていたサヤカが、いつもの連れなんだけど、サヤカは急に立ち上がるとまるでアタシ達2人から逃げるかのように言った。

「ごめん、ちょっとおなかが……」

 そう言っておなか、と言うか、むしろ下腹部、ハッキリ言っちゃえばアソコを両手で抑えてオシッコを我慢してる小学生みたいな格好で教室を出て行ったサヤカを見送りながら、アタシとみっちゃんは顔を見合わせた。だけどサヤカは目がテンになりそうな激ヤバのミニスカセーラーなんで、改めて見るとアタシ達まで妙な気分になっちゃいそうだ。小っちゃくて三つ編みのお下げ髪のサヤカは、どうかすると小学生に間違われてしまうくらい幼い感じの子だけど、アタシ達と同じ立派な高校生だ。小学生ならあんなミニスカでも逆にいいか知れないけど、ありゃさすがにエロいよね〜。この所いつもこんな感じでアタシ達としゃべってる時急にどっかへ行っちゃったりするんで、アタシ達はおなかの具合が悪いと言ったサヤカの体を心配するより、もっと違う疑惑の目で見てしまっていた。

「どしちゃったんだろ、あの子。」
「絶対ヘンだよね、こないだから。」
「みっちゃんもそう思う?」
「うんうん、絶対何かありそう。」
「何かって?」
「男が出来たとか……」
「それはない。」

 即座に却下したアタシはマユ。工業高校の2年生だ。工業高校に女子は珍しいようだけど、そんな事はない。確かに機械科とか土木科は男子ばっかりだけど、デザイン科と言うのがあってここはほとんど女子なのだ。他の科と正反対で2人だけいる男子はとても肩身の狭い思いをしているに違いない。アタシとみっちゃんとサヤカは小学校時代からの仲良し3人組で、高校1年からずっと同じクラスでいられるから、ここのデザイン科に進学した、って言うくらい仲がいいのだ。もともとお父さんが建築事務所をやっていて将来家業を手伝いたいと言うみっちゃんが、ここに進学を決めたのがきっかけだ。みっちゃんはサヤカと正反対で、背が高くてショートヘアの男の子っぽい子だ。陸上の長距離をやってて、この子が男なら惚れてしまいそうなくらいカッコイイ。

 アタシはと言えば、一番平凡で何の取り柄もないごくフツウの女の子だと思う。サヤカみたいに将来やりたい事があるわけじゃないし、部活には入っていない。親もアンタの好きにしなさい、とどうでもいいような事を言うので、みっちゃんの同じ高校に行こうよ、という話に乗ったのだ。そもそも勉強が出来るわけでもないので、進学高校に行っても仕方ないと思ったし。

 だけどサヤカまで同じ進路を選んでくれたのは一寸意外だった。と言うのはサヤカは中学校ではとても成績が良くて、てっきり大学まで行くつもりなんだろうと、みっちゃんもアタシも思ってたからだ。サヤカの家は母子家庭で、とても高校以上に進学する事は出来ない、と言う事情らしかった。あんなに頭が良いのにかわいそうだと思ったけど、こればっかりは仕方ない。よくわからないけど、この高校にも奨学金やら授業料を免除してもらってようやく通っているらしい。成績優秀な生徒は授業料が安くなる制度があるのだ。お母さんから聞かされた事がある。まあアタシには到底無理な話で、お母さんも期待しちゃいなかったけど、サヤカならそれに値するくらい成績がいいはずだ。サヤカはそんな事を一言も話した事はなかったけど。

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