ヘンタイ教師
二次元世界の調教師:作

■ 6

 どうしてそんなバカな提案に聡明なサヤカが耳を傾けてしまったのかはわからない。でも口にするのも辛そうなサヤカを責めるような事はとても言えなかった。アタシもみっちゃんも特に不自由のない生活で、幼い頃父親と離別して苦労して来たサヤカの気持ちをわかってやる事は出来ないのだ。こうして悪魔の取り引きに応じてしまったサヤカに、宮本は「いたずら」を仕掛け、さらに「写真」をたくさん撮って、これをバラまかれたくなかったら、絶対に人に言うな、と脅迫して来たと言うのだ。サヤカは「いたずら」や「写真」の細かい内容は言わなかったけれど、それはもう人にバレたら死んだ方がましなくらいの、ひどい物だったらしい。あのトイレでの件と今サヤカを悩ませている黒革のT字帯だけでも、想像するに余りあると言うものだ。やり方がひど過ぎる。正に鬼畜だ。アタシ達は宮本への憎悪を膨らませ、「ヘンタイ」に加えて「鬼畜」という称号をアイツに贈っていた。

 一日中体に密着して取り外しの出来ないT字帯と、羞ずかしい「写真」の脅迫をタテに、宮本は今も毎日サヤカに「いたずら」を仕掛けて来ている。スカートを異常に短くさせているのも宮本に命令されての事だ。誰にも相談出来ず、こういう形でアタシ達に問いつめられて初めて告白したわけだ。でもこれは立派な犯罪だ。勇気を出して宮本に直接抗議してやめさせなくては。「写真」を気にしてサヤカは嫌がるかも知れないけど、警察に突き出した方がいいかも知れない。

 が、アタシ達がそう言うと、やはりサヤカは絶対にやめてくれ、と言った。よっぽどひどい写真を撮られてしまったのだろうか。でもこれは犯罪だよ。見逃してやるわけにはいかないじゃない、と言うと、サヤカは、あなた達にも危害が及ぶかも知れないから、などと言う。みっちゃんは興奮して、そんなの怖くないよ、アタシ達友達じゃない! などと大声で青春ドラマを演じてたけど、アタシは別の意味で興奮してしまってた。サヤカが宮本にされた「いたずら」がアタシにも加えられ、死ぬほど羞ずかしい「写真」を撮られて、宮本に申し出てT字帯を外されオシッコをする所を見られるのだ……

 そんなウジウジしてたらもう絶好だよ! 一緒に宮本に文句を言いに行こう、と言い張るみっちゃんに、サヤカは驚くべき言葉を返していた。

「アタシはいいの、今のままで。
 ちょっと我慢してればすむ事だし、大した事ないよ……」
「何が大した事ない、だよ!
 アンタ、ションベンちびって泣いてたじゃんか!」

 みっちゃんは興奮して、あえて直接持ち出すのは避けてた事を口にしてしまい、しまった、という表情をしていた。

「最低。
 もうアタシに関わらないでくれる?」

 サヤカは表情を強張らせてそうボソリと呟き、立ち上がるとアタシ達を押しのけるようにして個室から出て行った。優等生の上に素直で優しいサヤカのこんなふて腐れた態度を見るのも初めてで、アタシもみっちゃんも唖然としてサヤカが出て行くのを無理に止める事は出来なかった。慌ててサヤカの後に続いたアタシ達に、振り向いたサヤカは、ついて来ないで! と言い放ち、足早にトイレを出ると国語準備室の方へ向かって行ったのである。トイレの入口でアタシとみっちゃんは、どうしようかと顔を見合わせた。みっちゃんが言う。

「サヤカが行っちゃう!
 1人で行かせたら駄目だよ、一緒に行こう!」

 が、不穏な胸騒ぎのしたアタシはためらって言った。

「いや……
 サヤカもああ言ってるんだし……
 今度落ち着いてゆっくり考えてからにしない?」
「何言ってんのよ!
 友達甲斐のない子ね!
 もういい!
 あんたとも絶交だよ!」

 そう怒鳴ったみっちゃんは、1人でサヤカの去った方向、ヘンタイ鬼畜教師宮本の待つ国語準備室へと歩いて行った。アタシはどうしようかと迷ったが、やっぱり今ここで不用意に動く事に危険を感じてやめる事にした。こういう男女の関係の絡んだ問題は慎重に対処した方が良い。下手に動くとサヤカをこれ以上傷付けてしまうかも知れないではないか。恐らく性経験がないと思われるみっちゃんには理解出来ないのだろう。アタシはいいの、と言った時サヤカが見せた、覚悟を決めた女の強さみたいなものをアタシは敏感に感じ取っていた。あの言葉をみっちゃんはただの強がりだと思っただろうけど、意外にサヤカが本音を洩らしたのかも知れない、とアタシは思っていた。

 とにかく今日はサヤカも気持ちの整理が付かないだろうし、直情直行型のみっちゃんが行ってしまったのは仕方ないとして、アタシは放っとこう。みっちゃんが怒って絶交よ、なんて言うのはよくある事で、明日になればケロッとして友達関係も修復しているはずだ。そう思ってサッサと帰り支度を始めたアタシは、本当に大甘で「友達甲斐がない」と言ったみっちゃんが正しかった。翌日の朝、サヤカもみっちゃんも登校して来なかったのだ。

 これは一体どうした事だ! アタシは朝2人が登校して来ないのが判ると、すぐに2人の家に電話を掛けた。すると何と、サヤカのお母さんは、みっちゃんの家にお泊まりしたはずです、と答え、みっちゃんのお母さんはその反対で、お互いの家に外泊して今日学校には一緒に行ってるはず、と言うのである。確かにアタシ達3人がお互いの家にお泊まりさせてもらう事は、たまにある事で不自然ではないのだが。何でもなさそうにそう答えてくれた2人のお母さんを心配させるような事は言えず、2人が学校に来ていない事は隠して、アタシは電話を切った。

 そして朝のSHR。ヘンタイ鬼畜教師宮本は、いつものようにペチャクチャ私語の治まらない教室で、よく聞き取れない声で連絡事項などを話すと、最後にアタシに向かってこれ、と小さく畳んだメモ用紙を渡したのだ。周囲の子はちょっと興味深そうに、何それ、見せてよ〜、と言って来たけど、とても見せられるものじゃない事は明らかだ。アタシは1時間目の授業がすぐに始まる事などもう気にしておられず、トイレに駆け込み個室に入ると、キドキしながらそのメモの内容を見たのである。

 え? そのメモ用紙には何も書かれていなかった。アタシは1時間目の始業のチャイムが鳴ってしまうのを聞きながら、狐につままれたような気持ちでしばらくそこから動けなかった。が、いつまでもここに居座るわけにもいかない。宮本のやつ何考えてるんだ?、とヘンタイ鬼畜教師の行動にますます不穏なものを感じ、姿をくらましてしまった2人の友達の身を案じながら、個室のドアを開けたその時。

「授業をサボっちゃいけないぞ。」

 宮本が女子トイレに入りみ、アタシの入った個室の外で待っていた。驚きの余り凍り付いてしまったアタシに、宮本の行動は普段のドン臭さがウソのように素早かった。パッとアタシの口に布のような物を押し付け、物凄い刺激臭をツーンと嗅いでしまったアタシは気を失っていた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊