イカせ屋
二次元世界の調教師:作
■ 8
ユウイチの言葉は間違いではない。確かに女が美人で若いほど商品価値が上がる。美形、と聞いて俺も少し興味がわいて来た。
「親分さん、その女と痴漢プレイをやってみたい、なんておっしゃるんです。
始めは嫌がってる女が、痴漢の指でだんだん感じてしまい……と言うプレイが出来るように、調教しろ、と。」
何だ、それは! 金になるんじゃなくて、ケンジが抱きたくなったと言うだけじゃないか! 恐らく今夜サヨさんという素晴らしい人妻を抱くくせに、早くも違う女に食指を伸ばすとは……
まあ幼なじみで無類の女好きという共通項を持つ俺達は同じ穴の狢だ。俺はケンジの心を動かした、その美形の家出娘にがぜん興味がわいて来た。
「ところがこの女、仲良く一緒に弁当を食った後で、えっちしようか? と誘ったら、エライ剣幕で怒り出したんです。
そんなつもりはない、帰る、って言うんで。」
世間知らずな女らしいが、それでも無理矢理やってしまうのは「イカせ屋」の仁義にもとるぞ。
「暴れるもんですから、ついひっつかまえて手錠で繋いでしまいやした。」
「ずいぶん手荒なマネをするじゃねえか……」
「かわいそうですが、親分さんのためですから。
今仕置き部屋で裸に剥いて繋いであります。」
ふう〜、と俺は大きくため息をついた。暴力団関係者に声を掛けたばっかりに、世間知らずの家出娘は大変な災難に遭ってるわけだ。
だが、その娘は本当にそこまでの美形なのだろうか? 家出娘と言えば、田舎からポッと出て来たイモ姐ちゃんか、コンビニでウンコ座りしてるヤンキー娘のイメージしか浮かばない俺は、少し疑問を持っていた。
「そこまでやっちまったら、後戻りは出来ねえな。
ユウイチ、オメエが声を掛けられたんだろ?
責任を持って抱いて調教してやれよ。」
美人だと言うのには興味をそそられたが、股間がしゅんとしている俺にはちと過酷だ。見習いも数を重ねたユウイチだ。精力は申し分なく絶倫だし、たまには1人で試練を受けさせてやろう。
「はあ、そうしたいのはやまやまですが、この女自分の手には負えそうにねえんで。
ここはやはりマサキチさんのお力添えを頂きたいのです。」
「俺はまだ当分勃たねえぞ。」
ペニスが勃起しないのは「イカせ屋」の仕事には致命的だ。
「そこを何とか。
入れる必要があれば、そこで僕が……」
何と言う虫のいい奴だ! が、ユウイチの頼みとあっては聞いてやるよりあるまい。
それに本心を言えば、ケンジにアブない橋を渡る事を即座に決断させた、その娘の「美形」ぶりを確かめたい気持ちもあった。
「仕置き部屋にいるんだな?」
「ええ。」
「じゃ、オメエは俺の弁当を買って来い。
その間俺がその娘の相手をしといてやろう。」
時刻を確かめるともう夕刻で、中途半端だが昼抜きでは仕事に差し支える。それにある企みも秘めて俺はユウイチを使いにやる事にしたのだ。
ユウイチが事務所を出てから、俺はケンジと話をしようと思ったが、広い和室の奴の部屋には鍵が掛かっていた。恐らくサヨさんとお楽しみなのだろう。
ケンジは女好きと言ってもひどい浮気性で、1人の女と長く付き合う事など出来ない人間だ。だから今でも独り身だし、「イカせ屋」の俺が調教してやった女を次々に当てがわれて喜んでいるのだ。
が、ケンジの女の趣味は俺と似通っている。内心かなりホクホクしながら、俺は「仕置き部屋」の扉を開けた。
すると部屋の隅にユウイチが言った通り、全裸の女がいた。見ると後ろ手に手錠を掛けられた彼女は、首輪を柱に繋がれ、柱を背にこちらを向いて座らされた両脚が、大きく広げられて足首が手錠で固定されていた。
そんな無惨な格好で固定された彼女に近付いて行くに連れて、俺はこちらに敵意を剥き出しにして睨み付けている気の強そうな女の顔を見て、思わず「あっ」と驚きの声を上げそうになった。
「来るなっっ!!
オッサンもあの男の仲間かっっ!!」
オッサン、と来たか。すっぱだかで大きくアンヨを広げた格好で、こんな言葉が吐けるとは、よほど気の強い娘に相違ないが、それより吊り目でキッと睨み付けた彼女の容貌に、俺は信じられないような思いに囚われていた。
ソックリなのだ、昔別れたあの女と。俺が「イカせ屋」である事を忘れて夢中になってはらませてしまい、3年足らずの結婚生活を経て、ある日突然娘を連れて俺の前から立ち去った、あの女だ。
本気で惚れて愛して子供を産ませた彼女の事を、俺が忘れるわけはない。
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