ハルナさんのご乱心
二次元世界の調教師:作
■ 1
「ねえ吉田君、UFOって信じる?」
「へ?」
僕はあまりにも意外なハルナさんの言葉に、そんなマヌケな受け答えをしてしまった。
――何やってんだ、マサシ! 何かもっと気の利いたことを言うんだ
そうだ、せっかくあこがれのハルナさんと1対1で話をすると言う栄誉に浴してるんだぞ。こんなチャンスはもう二度と訪れないかも知れぬではないか
「あ、あの、UFOって確か……」
しまった。UFOは何の略か答えてやろうと思ったのに、Uが出てこない。FOはフライングオブジェクトだ、確か。
「アンアイデンティファイド、フライング、オブジェクト、直訳すると未確認飛行物体ね。決してうまい、ふとい、おいしい、の略じゃないわ」
何てこった。ボケまでかまされてしまった。
――か、かわいい……
が、僕は初めて息遣いが聞こえるほどの間近で見るハルナさんのお顔に見とれてしまい、情けないことに完全に彼女が会話の主導権を握ってしまっていた。
「う〜ん、どちらかと言えば信じていないかも……」
正直に言おう。僕はそういう非科学的なものは一切信じていない。血液型や星座や風水などの占いもどうかと思うが、前世の生まれ変わりだのUFOだのとオカルトが好きな女の子はおつむが弱いのだろうと思っている。だから他の子だったらきっぱり、んなもんあるわけねーじゃん、とでも答えただろう。だが、目の前にちょこんと座っている、クラス一のカワイコちゃんが相手とあっては、そんなつれない答ははばかられたのだ。
「だよね〜。だから信じてもらえないと思うんだけど、聞いてくれる?」
「ああ、もちろん」
ハルナさんが相手なら、いつまでも話をしていたかった。たとえその話が幻の蛇ツチノコの話だろうと、失われたムー大陸の話だろうと構わないではないか。
高二で初めて同じクラスになり、クラス開きの自己紹介でハルナさんを見た瞬間に、僕は一目惚れしてしまったのだ。今時珍しい真っ黒なストレートヘアをきれいに切り揃えた、お人形さんのような美形の顔と、やせぎすなのにセーラー服の胸元がこぼれそうな、迫力あるボディーライン。何もかも僕のストライクゾーンど真ん中だった。
「あ、あのね、こないだ流れ星があったでしょ?」
「え〜っと……1週間くらい前だっけ?」
「違うよ、3日前だよ!」
ズキン! ハルナさんが口を尖らせて拗ねるように言った口調があまりにもかわいらしくて、僕はますますドキドキしてしまった。
――ハルナさんって、こんな話し方するんだ……
これまで1対1で口を利いたことなどなかったから、僕はかしこまって正座した股間にどんどん血が流れ込んで来るのを感じていた。いや恥ずかしい話、ハルナさんから、お話があるの、と呼び出された時から、僕はソワソワと落ち着かずアソコをビンビンに固くしてしまっていた。内気な僕はもう2ヶ月もたつのに、ハルナさんとまともに話したこともないのだが、一体何の用だろう? しかも呼び出されたのは、放課後の和室。ハルナさんが部長をしている書道部が使っている部屋で、今日は練習日じゃないから誰もいないの、と言われた。そんな場所であこがれのハルナさんと、2人切りで話をするだなんて。彼女いない歴16年を更新中の僕には刺激が強過ぎるシチュエーションだった。
――ハルナさんからコクられるのか? まさか、まさかなあ……
誰もが認めるクラス一の美少女が、何の取り柄もないこの僕に告白? 内気な僕は彼女に声を掛けたことすらなく、じっと遠くで見つめて密かな恋心に悶々としていただけなのに、いくら何でもそれはない、と思わざるを得ない。こうして彼女と話が出来ると言うだけで僕はもう有頂天で、ガチガチに緊張し男のくせに正座してハルナさんと対面しぎこちない会話を交わしていた。
「あ、そうだよね、3日前だったか……」
ホントは流れ星なんて少しも記憶になかった。
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