ハルナさんのご乱心
二次元世界の調教師:作

■ 2

「でね、あれ実はUFOだったんだよね」
「そうですか。それは凄いな……」
「私たまたま塾の帰りに1人で歩いてたの。そしたら見たこともないピカピカ光る大きな円盤が、空から降りてきたのよ」
「え、まさか、それが……」
「そうなのよ、UFO。私もうビックリしちゃって」

 うーむ。僕はハルナさんの明白な作り話に、一体どう合わせてあげれば良いのか困ってしまった。どうして彼女は親しくもない僕に、こんな話をするのだ。

――ハルナさんって「不思議ちゃん」だったのか……

 そう言えば中学の頃、女の子同士で変なオカルト話をしてる子たちがいたのを思い出した。その時僕はこんなイカれた連中とまともに付き合っちゃいられないと思ったものだ。どの子もブスだったし。だが目の前でとうとうとあり得ない話を展開しているのは、そんなブスではない。こんなカワイコちゃんなら「不思議ちゃん」でもちっとも構わないと思った。

「へえ、それは驚いただろうね」
「でしょお。ところがここからがもっと凄いの。あのね……」

――は、ハルナさん!

 何と彼女が体を近付け、打ち明け話をするようにヒソヒソと耳打ちして来たのだ。その内容はうそっぱちもいい所だったが、そんなのはどうだっていい。ハルナさんの体の温もりや息遣いが伝わると、僕はアドレナリンが沸騰し股間が爆発しそうになっていた。

「中から宇宙人が出て来て、私宇宙船の中に連れ込まれちゃったの」
「…… まさか、そこで改造されてしまったとか」
「そう、そのまさかだったのよ! よくわかったわね、吉田君」

 僕はここで一息入れた。

――え、どんな改造されたの? なんてスケベ丸出しのことを言っちゃ駄目だぞ

 ハルナさんの話は突拍子もなさ過ぎて、僕は少し冷静に考えることが出来るようになった。

――そうか、僕が調子に乗ってえっちなことでも言い出したら……

 これは「ドッキリカメラ」だ。僕は中学の時ひどい目に会ったことを思い出した。ラブレターをもらい、指定された時間にドキドキしながら女の子に会いに行ったら、男友達が待っていて大笑いされたのだ。このあり得ない話の展開から考えて、僕がハルナさんに恋いこがれていることを知ってる誰かが、彼女を抱き込んで僕をからかってるのだろう。変なことでも口走ろうものなら、見張ってるやつに大笑いされるのに違いない。

――もう、その手には乗らないぞ

「ねえ、宇宙人ってどんな格好してると思う?」

 イタズラっ子のような表情で、そんなカマまで掛けて来るハルナさん。僕はからくりがわかってしまって、急速に気持ちが萎えるのを感じながら、それでも、宇宙人なんかいるわけないだろ! とむげに彼女をはねつける勇気も出せずにいた。

「宇宙人ってさ、タコさんそっくりなの。タコが大きくなって、八本足で立ってる感じ」
「マジで?」
「うん、マジ」

 ハルナさんの表情を見てると、かつごうとしてるなんて思えない真剣さで、僕は複雑な気持ちになった。彼女が本気でしゃべってるとしたら「不思議ちゃん」を通り越して、イッチャッてるアブない子なわけだ。僕は正直彼女と2人切りの夢のような時間をもう少し長く味わいたい気持ちもあったが、おそらく腹を抱えて笑っているであろう、隠れている誰かに向かって大声で言った。

「おい、もういいよ! 一体誰だい、僕をからかってるのは!」

 ところがハルナさんは意固地だった。

「吉田君! 私があなたをからかおうとしてるとでも! ひどい……」
「ハルナさん! ごめんなさい、あんまり凄い話だったもんだから、つい……」
「いいの……こんな話誰だって信じられないよね……」
「信じるよ! 僕が悪かったから、もっと宇宙人のこと聞かせてよ」
「ホント!?」

 ハルナさんが泣きそうになる「演技」をするもんだから、僕は慌ててしまった。たぶんこの様子も誰かが観察して楽しんでるのだろうな、と思いながら、僕は彼女を慰めずにはいられない。もう隠れて笑ってるやつがいたって良いではないか。僕の「信じる」と言う言葉に、ハルナさんが目を輝かせて見せてくれた眩しい笑顔だけで十分だ。

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