狂った果実
二次元世界の調教師:作

■ 3

 アッコTがしゃべり終わる前だった。翔太が発狂したように大声で、うが〜っっと吠えた。何事かと教室中の視線が集中する中、翔太はとんでもない物体を袋の中から取り出すと、アッコTに狙いを外して銃声を響かせた。

「キャ〜ッッッ!!!」

 一体どうやって入手したのか、翔太の手にした拳銃が恐ろしい発砲音と共に黒板に穴を開け煙が立ちこめると、女子は黄色い悲鳴を上げ、皆入口に向かってパニック状態となった。その中で、今まで聞いたこともない大声で翔太が吠える。

「動くなあ〜っっ!!」
「ぎゃあ〜っっっ!!!」
「動くな! 黙れえっっ!! 動くなあ〜っっっ!!!」

 もう一発放たれた銃声と同時に、翔太と席の近いよっちがもんどりうって倒れた。足を撃たれたらしい。本物の拳銃の威力をまざまざと見せられて、俺たちは凍り付く。翔太の怒声とさらにもう一発の銃声に狙い撃たれたよっちが、足を抱えて横になり動かなくなった時、教室内に不気味な静寂が訪れていた。
 
 ふと教室内を見回すと、教壇の横付近で2発の銃弾に脚を撃たれ倒れたよっちに、翔太は拳銃を突き付けている。よっちは気絶しているが、死んではいない様子で体が時折微妙に動いていた。翔太から離れ後ろの入口めざして殺到した生徒たちは、俺も含めて銃撃の衝撃で足止めを食らい誰1人教室から出ることは出来なかったようだ。女子は皆ショックで泣きベソをかき、男子も皆顔面蒼白になってその場に凍り付いていた。

「内側から鍵を掛けろ! ドアも窓もだ、早く!」

 そう怒鳴った翔太がもう一発誰もいない空間に拳銃をぶっ放すと、仕方なく近くにいた者が鍵を掛けに動いた。と、鍵を掛けるのと同時に、外からドンドンとドアを叩く音が聞こえた。

「何をやってるんだ! 開けなさい!」

 この部屋の異変に気付いた先生たちがやって来たのだ。恐らく野次馬の生徒たちも大勢詰めかけているだろう。救いの神か、と皆がホッとしたのも束の間、翔太が信じられないような大声で怒鳴り返したのだ。

「絶対に開けるなあっっ!! 開けたら、1人ずつぶっ殺すぞ!」

 そんな恐ろしい怒号と同時にさらに一発銃声を響かせる翔太。そして女子たちの黄色い悲鳴の中にまじって、次の犠牲者となった無関係な男子の悲鳴が。

「ぎゃあ〜っっ!!」

――コイツ、マジでヤバいぞ、狂ってる……

 翔太は何と無差別に生徒が群がっている所に発砲しやがったのだ!幸いやはり脚を撃たれたらしく命に別状はなさそうだったが、哀れな犠牲者となった男子が倒れて口からゲロを戻してピクピク痙攣しているのを見た俺たちは、今度こそ心底血も凍るような思いで微動だに出来なくなった。

「僕に逆らうなあっっ!! 騒いだり、抵抗するやつは遠慮なく撃つぞ!」

 ドアの外のドンドン叩く音も聞こえなくなった。手に負えなくなった先生たちは警察を呼んで来るに違いない。そしてその替わりに放送や先生たちの大声が、他の生徒に下校するよう指示しているのが聞こえた。こうして教室は誰1人拳銃を所持した翔太に逆らうことの出来ない、恐怖の空間と化したのだった。翔太はハアハアと息を乱しながら、相変わらずよっちに銃口を向け、その形相は今や悪鬼のように恐ろしく歪んでいた。女の子たちの泣き声はどんどんひどくなり、俺は全身にドッと冷や汗が吹き出すのを感じていた。

「今宮君、よく考えて。こんなことはやめなさい……」

 アッコTが勇気を出して、教室の後部に群がりへたり込んだ生徒たちの中から立ち上がると、前へ進み出てそう翔太に呼び掛けた。

――先生、恩に着るぜ……

 この、若くて美人だけどちょっとトロくて頼りない新米の女先生に、俺は初めて素直に頼り甲斐を感じ、怯えて脚がガタガタ慄えているのに、生徒たちをかばうかのように前へ出た姿が眩しく見えた。さすがの翔太も予想外だったのか、じっとアッコTの言葉に耳を傾けているようだ。誰もが意外な担任の先生の勇気に心の中で拍手を送り、動きが止まったかのように見える翔太がまともに戻ってくれることを期待したことだろう。だがその期待は、次の瞬間翔太が無言でアッコTに向けて放った銃撃の前に雲散霧消した。外れはしたが頭の上を銃弾が通過した先生は、つんざくような悲鳴と共にへたり込み、他の女生徒たちと同じようにオンオン泣きじゃくるばかりとなる。教室中を恐怖が襲い、誰もしゃべれず翔太に逆らうことの出来ない状況に陥るには十分な衝撃だった。

「先生、このクラスにいじめなんかないって言いましたね。ウソだと言うことを証明してあげましょう」

 女の子たちの嗚咽があちこちで聞こえる教室内に他の物音は聞こえず、翔太がやけに落ち着いた口調で話す言葉に皆聞き入るよりなかった。

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