狂った果実
二次元世界の調教師:作

■ 4

「このクラスにいじめがある、と思う人は手を挙げて」

 1人残らず手が挙がる。いや、ただ1人泣きじゃくりながらも顔を上げて翔太の言葉を聞いたアッコTだけが、手を挙げないという状態だった。

「自分はいじめていない、と言う人は手を挙げて」

 今度は誰1人手を挙げなかった。シカトするのはいじめているのと同じと言う認識を持っているのか、それとも怖くて人と違う行動を取ることが出来なかったのか。翔太の狂気の銃弾の犠牲になり掛かり、こうも残酷に自分の無力さを思い知らされたアッコTは、どんな思いでクラス全員が翔太をいじめていたと言う現実を受け止めていたのだろう。だが翔太は冷酷だった。

「今から僕は一番悪いやつ5人に、制裁を加える」

――5人だって!?

 直接手を下したいじめグループは、香奈子を入れても5人だ。だがよっちは撃たれたショックで気絶し転がっている。アイツも数に入れるつもりか、それとも……

「今から名前を呼ぶ人間に背中で手錠を掛けて寝かせろ。机をどけてスペースを作るんだ」

 皆翔太の指示に従い、すぐさま教室の後部に5人くらい並べて寝かせることが出来そうな空間が出来ていた。

「中島文江を寝かせろ。担当は……」

 翔太はよほど周到に準備していたと見えて、手錠などのヤバい品物が入った大きな袋を投げて寄越し、制裁を加える人間を捕まえる担当者まで読み上げた。エロ娘文江ちゃんを担当するのは男ばかり5人。どうやら女子を担当するのは男子、という魂胆のようだ。文江も泣きじゃくっていたが、男5人に抱えられて大人しく床に横になり、背中で手錠を掛けられていた。

「大沢伸吾。担当は……」

 しんごの担当はやはり女子ばかりだった。

「佐藤香奈子……山岡正人……」

 当然ながら名前が呼ばれ、俺は観念して大人しく8人の女の子たちの手で床に寝かされる。そして自ら背中に回した両手にガチャリと本格的な鉄製の手錠が掛けられると、その冷たい感触に俺はこれが悪夢ではなく現実に起こっていることなのだと痛感させられる気分だった。

「戸田彰子。担当は……」

――ゲッ! マジかよ……

 翔太が制裁を加える5人目の悪いやつは、何とアッコTだった。

「……ごめんね、ごめんね、今宮君……」

 俺の隣に寝かされた先生は、泣きじゃくりながら翔太への謝罪を口から洩らす。だが静寂の中耳に入るに違いない先生の懺悔にも、翔太が心を動かされることはないだろう。何を今さら、とでも思っているに違いない。翔太の手先と化した5人の男子生徒が先生の体を俺の隣に寝かせると、ガチャリ、と冷たい手錠の金属音を鳴らした。

「服を全部脱がせて裸にしろ。それから、アシを広げさせて人の字に縛り付けるんだ。机の足を使うといい」
「いや……」
「やめて……」

 文江と香奈子がそう口にすると、翔太は怒鳴りつけて天井に発砲した。

「うるさいっっ!! 余計なことをしゃべるなっっ!!」

 再び教室中に女子の悲鳴が響き渡り、どうしようもなくなった俺たちは、異性のクラスメイトの手で生まれたままの姿に衣服を剥ぎ取られてしまい、両肢を開いて机の足に手錠を掛けられたのだった。そこへ翔太が拳銃を手にのっそりとやって来る。皆で一斉に飛び掛かれば取り押さえられそうだったが、恐怖で竦み上がった俺たちにそんな蛮勇をふることが出来るはずもなかった。

 その時教室の外から拡声器の大きな声が、銃を捨てるようにと翔太に呼びかけて来た。

――警察だ!

 だが、助かった、という安堵はヌカ喜びだった。翔太は銃を捨てるどころか、大胆にも声の掛かったドアに向けて発砲して答えたのだ。翔太が自身の将来も捨て犯罪行為に手を染めてまで、クラスのいじめに報復しようと強い覚悟を決めていることがわかり、教室内には崖っぷちに立たされたような絶望感がますます色濃く漂い始めた。

 その後も翔太は警察の呼び掛けに一歩も譲らず、人質にとった俺たちの殺傷をほのめかせながら、時折発砲して女生徒たちの恐怖の悲鳴を聞かせたが、人の字に拘束された俺は次第に絶望感に打ちひしがれながらこんなことを考えていた。

――こいつ、いつからこんなことを計画してやがったんだ……

 拳銃や大量の手錠、そしてあっと言う間にクラスを制圧し立てこもって、俺たち5人に「制裁」を加える準備を整えてしまった見事な手管。どれをとっても頭の切れる翔太が、時間を掛け万全の計画を練ってから実行に移したとしか考えられなかった。

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