トライアングル
二次元世界の調教師:作

■ 3

 今日の早朝、まだほとんど他の生徒は登校していない学校の正門で落ち合った私に、彼は言いました。

「完全に校則違反のスカートだな」
「イヤ、そんなに見ないで」
「俺に見せるためだろ? カバンで隠すなよ」
「ああ……」

 出来るだけセクシーな服装と言われた私がはいて来たのは、これ以上は絶対無理、と言うほどガッと大胆に上げたミニスカートです。もう家を出た時から朝の冷たい外気がスースーとナマ脚に当たる下半身の頼りなさは圧倒的で、そんなスカートをはくのは初めての私は泣きたくなりました。スカートの前を通学カバンでしっかり押さえながら歩き、まだ空いていた市電で座った時も、露出した太股の上にカバンを乗せてガードしないではいられませんでした。私は正彦くんとほとんど変わらない、女子としては高身長なので、目立ってしまうのがうとましかったです。もし満員電車だったら、間違いなく痴漢の標的にされていたことでしょう。

 カバンを前から横に持ち替え、自分でもえっちだと思うムチムチの太股に彼の視線を感じておかしなくらい真っ赤になった私に、正彦くんは手を伸ばすと、何とペロンとミニスカをめくってしまいました。

「あ、イヤッ!」
「安心しろ、誰も見ていない。それに黒いのをはいてるじゃないか」

 そういう問題ではないと思うのですが。彼はさらに続けて言いました。

「どMなお前のことだ。嬉しくてドキドキしてるんだろ?」
「そんなこと……」
「どうせ家じゃ勉強もせず、オナニーでもしてたんだろう」
「……」

 いくら誰も注目していないと言っても、時々他の生徒が通り掛かるのです。まるで2人切りの勉強会の時みたいにえっちな話をされては気が気でなく、私は無言で目を伏せ泣きそうになってしまいました。

「正直に言えよ。ま、嫌なら別にいいんだぜ。そのスカートも普通に戻して、もう俺に構うな。勉強会も終わりだ……」
「待って!」

 特に普段と変わらぬ、感情をあまり表さない冷静な口調でそう言った彼が、アッサリともう私に見向きもせず去ろうとすると、私は後ろからすがり付くように呼び止めていました。無言で足を止めて振り向き、銀縁メガネの奥のクールな瞳で私を見た正彦くん。登校して来る生徒はじょじょに増え、何やってるんだろう? と私たちの方を見る人もいましたが、私は思い切って言いました。

「したわ」
「何を?」
「お、オナニーよ」

 ああ。正彦くん以外の誰も、その言葉を私が口にしたことに気付かなければ良いのですが。

「羞ずかしいやつだな。お仕置きを追加する」

――ああ、もっと羞ずかしい、えっちなお仕置きをされちゃうんだ……

 私は自分でも嫌らしいと思う、ネットリと粘り着くような視線を無言で彼に送ります。それはもちろんOKサインのつもりでした。学年一の秀才で、しかも甘いマスクの三角(みすみ)正彦君は、女子たちの憧れの的でした。告白してお付き合いを始めたのは私からでしたが、友達に半ば強引に引っ付けられたようなものでした。と、言うのも、自慢ぽくて申し訳ありませんが、私は背が高く色白の容姿は誰にも負けない自信があるのです。

「彼と一番お似合いなのは、アンタだけだって」

 頭脳明晰でイケ面の上、めったに笑顔を見せないクールな彼に恐れをなして、クラスの女子は誰も告白する勇気がなく、引っ込み思案で男の子と1対1でお付き合いしたことのない私に、告白するよう言って来たのです。私はとても億劫でしたが、完璧な彼に胸をときめかせていた一人だったので勇気を出して告白しました。こうして三角正彦と、私中塚麻美は、クラスで公認のカップルとなったのです。

 美男美女でお似合いね、と皆に羨望混じりで言われてますが、実際は私の方がどんどん一方的に彼に惹かれてしまい、今では彼の言うことなら何でも言うことを聞いてしまう、私が彼に完全に服従している関係でした。彼はいつも尊大で、付き合ってやってるんだ、という態度を崩すことはありません。でもそれすら「どM」な私の気持ちをくすぐって、ますます彼から離れられなくなってしまったのです。

「あ、麻美お早う」
「……お早う」
「どうしたの?……なあんだ」

 その時クラスメイトの女子が自転車ですれ違いざま、私に声を掛けて来ました。だけど私は、お仕置きを追加されると聞き無言で彼を見つめていたので、ハッとして返事が遅れ、その子に不審がられてしまいました。でも彼女は私が正彦くんと一緒にいることに気付くと、さっさと去って行ってくれたのです。

――ああ、こ、こんな……私って、私って……

 大好きな正彦くんに朝の学校の正門で露出狂のようなミニスカ姿を晒し、性的な「お仕置き」を口にされた私は、さらに他の生徒に目撃されたことで、「どM」の性癖がムクムクと頭をもたげてしまい、全身がワナワナと慄えおののくほどの強烈な興奮に包まれていました。

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