真澄くんパラダイス
二次元世界の調教師:作

■ 1

 今思い返せば、あれは羽澄姉ちゃんの策略だったようだ。さすがはいつも自分のことを「ヘンタイハスミちゃん」と称しているだけのことはある。たく、そんな頭があるんなら、ちっとはまともな方向に使いなよ。

「ねえ真澄くん、お願いがあるんだけどお〜」

 金曜の朝、僕が高校の制服に着替え登校の準備をしていた時、現れて猫撫で声でそう言った羽澄姉ちゃんはとんでもない格好をしていた。

「ね、姉ちゃん……」

 普段から一本切れてるような姉ちゃんに慣れてる僕も、さすがに目がテンになり声が慄えていたと思う。いや、スッパダカだったとか、ミリタリールックの迷彩服だったとか、テニスウェアだったわけではない。彼女が着てるのでなければ、むしろ普通の格好と言えなくもないだろう。

「佳澄ちゃんに借りたの〜 似合ってるでしょ、コレ」

 姉ちゃんは固まってしまった僕の前で、嬉しそうにくるりと1回転して短いスカートを翻して見せた。

――ゲ〜ッ! か、かわいい……

 困ったことに「ヘンタイ」羽澄姉ちゃんは、ルックスだけは抜群にいいのだ。専門学校の2年生だけど、中学生の妹佳澄に借りたと言うセーラー服姿は、ゴクリと生ツバを飲み込んでしまうほど魅力的だった。

「姉ちゃん、そんな格好でどこに行くんだよ!」
「それなんだけどさ〜 急遽友達に頼まれて合コン行くことなっちゃってえ〜 真澄くん、給食当番替わってよ〜」
「姉ちゃん、わかったからさ、そんなに寄って来ないでよ!」
「アハハ、照れてんの? 真澄くんったら、か〜わいい!」

 有無を言わさずにじり寄って来た羽澄姉ちゃんに、悔しいけど僕はドキドキして股間を固くしてしまう。それを姉ちゃんにからかわれてしまうのも、いつものことだが、姉弟と言う気楽さもあるのかメチャクチャ無防備な羽澄姉ちゃんは、フェロモン全開の美女なので仕方ないと思う。黙っていればどこぞのお嬢様かと見紛うような整った美貌だし、背は僕より高くモデルのようなスタイルなのだ。それなのに、目のやり場に困るような露出過剰な服装を好む困った姉ちゃんだ。

「小さ過ぎるだろ、ソレ……」
「アハハ、やっぱし〜?」

 佳澄は姉ちゃんと正反対で、小学生と間違えそうな小柄なのだ。するとちょうどその時、学校に出掛ける支度を終えた佳澄が通り掛かった。彼女の制服を借りたと言う羽澄姉ちゃんが大声で言う。

「佳澄ちゃん、おはよ〜!」
「お早う、羽澄ちゃん、真澄くん……」

 ニッコリと笑って、ちゃんと僕にも挨拶してくれた佳澄は見た目は幼いが、しっかりしたとてもいい子だ。おまけにお人形さんみたいにかわいらしい。全く同じ女の姉妹なのに、「ヘンタイ」羽澄姉ちゃんとはエライ違いだ。

「今日はさあ、真澄くんがカレーを作ってくれるよ。楽しみにして、しっかり勉強して来るのよ」
「ホント? 佳澄、真澄くんのカレー大好きなんだ、楽しみだな……」
「行ってらっしゃ〜い」

――僕まだ給食当番替わってあげるなんて言ってないのに……

「勝手に決めないでよ」
「アンタ、わかったって言ったじゃないのよ!」

 何てヘリクツだろう。でも、僕はもう諦めていた。羽澄姉ちゃんには頭が上がらないのだ。いや、姉ちゃんだけではない。母さんにはもっと頭が上がらないし、佳澄はいい子だから無茶なことは言わないが、お願いされると、僕は何でも言うことを聞いてしまう。我が中川家は女性が圧倒的に強い、女権家族なのである。今単身赴任している父さんはさぞかし羽根を伸ばしているに違いない。

 例えば、わが家では男でも座って小便をしなければいけない。床に飛び散るから、と言う理由らしいが、僕がナヨナヨした女みたいな性格に育ったのは、幼い頃から座り小便させられているのが1つの原因ではないかと思っている。父さんがいた頃も家事は完全分業制だったが、今きょうだいで母さんの手伝いをするのも、もちろん分業だ。いや、それは正確ではない。佳澄は高校入試が間近い受験生だし、羽澄姉ちゃんは何だかんだと押し付けて来るので、僕がほとんど一手に引き受けている状態なのだ。

 でも結局家族同士の仲はとても良いし、僕は多少不満だがそれなりに楽しく暮らしている。父さんも僕に愚痴をこぼしながら、女たちよりよっぽどテキバキと炊事や洗濯や掃除をこなしていたし、男はかくあるべし、と言うこだわりを捨てれば女権家族も悪くはないのでは、と僕は思い始めている。それは幼い頃から洗脳された結果なのかも知れないけど。

「じゃ明日は姉ちゃん作ってよ」
「どうせカレーなんだし、明日もついでにカレーでいいじゃん。真澄くん、お願いねっ!」
「……たく」
「よし、決まりね!」

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