女子能力開発研究所
二次元世界の調教師:作

■ 1

――ふう〜

 俺は嫌がる彩美を何とか浴室に押し込めると大きくため息をついた。だがまだ油断は出来ない。俺はスリガラスの向こうの我が娘がちゃんと脱衣するところを確かめるため、外で見張っていなければならない。彩美がいわゆる「引きこもり」状態になってからもう半年以上たつ。初めは朝学校に行く時間におなかが痛いと言ってしぶるようになり、そのうちどんどん行動範囲が狭まって、今では24時間自分の部屋にこもってトイレと風呂以外は姿を現さない。放っておくと入浴もしたがらないので、1週間に一度は必ず風呂に入るようにと半ば強制的に約束させたのだ。

「彩美、早く風呂に入りなさい。パパはここで見張ってるからな」

 案の定脱衣する気配のない彩美に焦れた俺は声を掛けた。つい大声で怒鳴りたくなる衝動を覚えたが、カウンセラーの言葉を思い出して努めて冷静に言葉を選んだつもりだ。

――焦ってはいけませんよ、田中さん。彩美さんのような大人しい子供さんは、親から強く当たられると却って自分の殻に閉じこもってしまい、取り返しの付かないことになってしまう危険があります。ここはじっくり本人の成長を待ち、長い目で見守ってあげて下さい……

 彩美が不登校になったのは高校に入学して半年ほどたった頃だった。担任の話では、いじめなど学校生活における問題はないはずだと言う。その頃まだ俺には口を利いていた彩美も、学校が嫌なわけではないと繰り返し言っていた。でも、どうしても朝腹痛が起こってしまうのだ、と。学校から紹介された専門機関のカウンセラーの男によれば、よくある典型的な不登校・引きこもりの症状だそうだ。思春期に特有のことらしく、焦っても特効薬はないし、時間が解決してくれるのを待つのが一番だと言う。

――くそ! こんな調子でいつまで待ってやればいいんだ……

 欠席がかさみこのままでは落第するぞ、と言っても彩美の不登校は一向に改善されなかった。それどころか部屋に引きこもるようになり、俺にさえほとんど口を利かなくなってしまった。カウンセラーの言葉通り待ってやるのは良いが、俺の目には彩美の症状は悪化の一途を辿っているように見えた。

 部屋にこもった初めの頃はまだケイタイを弄ったり、雑誌を読んだりしていたようだが、今はただ無気力に何をするでもなく無為な時間を過ごしている。朝と夜の食事は俺が差し入れてやっているが、朝のトーストは食べたり食べなかったり。夜はコンビニ弁当だ。父子家庭なので仕方ない。中学生の頃はたいてい彩美が夕食を作ってくれたのだが。

 どうも食べることだけが楽しみらしく、俺は彩美が朝筆談で希望を寄越すお菓子類と弁当を買って帰り黙って差し入れるのだ。朝になりトーストと飲み物を運んでやる時、夜の食べ物がなくなっているのを見て、俺はまだ彩美が生きていることを確認するようなものだ。色白でお人形さんみたいにかわいらしかったのに、今では髪はボサボサの伸び放題、風呂にもあまり入らないから、見るも無惨な姿に変わりつつある。だから最低の人間らしさを保つためにも、週1回の入浴だけは譲れないと思っている。

――お、観念したか……

 俺の願いが通じたか、ようやくスリガラスの向こうの彩美が着た切りスズメのホームウェアを脱ぎ始めたようだ。下着を脱いでいるらしき様子が目に痛い。

――俺は一体何を考えてるんだ。引きこもりの娘を入浴させるため見張ってるだけなんだぞ……

 スリガラス越しの娘の脱衣の目視で股間を固くしてしまった俺は自責の念にかられた。血の繋がった、それも引きこもりでバケモノ化しつつある実の娘に欲情するなんて、我ながら鬼畜だ。いや鬼畜ではない。ごく自然な感情だとは思う。

 俺は生来大の女好きだ。彩美と良く似た、色白でスレンダーな美人と結婚し1男1女をもうけたのはいいが、女好きがたたっての浮気が発覚し、彼女から三行半を突き付けられたのが5年ほど前のことだ。実の所三度目だったから、さすがの彼女も堪忍袋の緒が切れたのだろう。子供たちを引き取って別れたい、と言われた。

 彼女はナースで、しがないサラリーマンの俺より経済力もある。だから2人の子を両方寄越せと言ったのだ。俺も自分の不始末が原因だし、わずかの養育費を払って子供たちの親権を彼女に渡すことに同意しようと思った。ところが驚くべきことに、当時小学校高学年だった妹の彩美は、パパの方がいい、と俺と暮らすことを望んでくれたのだ。確かに彩美は俺によくなついていたが、まさか母親より女癖の悪いボンクラな父親を選んでくれるなんて思ってもいなかったので、俺はとても感激した。だから俺なりに改心して、父子家庭でも彩美が寂しがらないよう毎晩早めに帰宅し、娘を大切にかわいがって育てて来たつもりだ。 

 その甲斐あってか、彩美は中学まで何も言うことのない素直な良い子だった。学校でも優等生だし、ボンクラな俺の替わりに家事までこなしてくれた。おまけに彩美は親のひいき目を差し引いても、本当に絵に描いたような美少女だ。俺は内向的で大人しい彩美を猫かわいがりし、いつしか実の娘にけしからぬ感情を抱くようになっていた。

「彩美、入るぞー!」

 俺は脱衣した彩美が浴室に入ったのを確認すると、大声でそう呼び掛けて脱衣所に入った。もちろん浴室に入ろうなどと言う不埒な目的ではない。それが出来たらどんなに幸せだろうとは思ったが。彩美が上がった時のために下着などの着替えを用意して置き、同時に1週間着衣を続けた服を没収してしまうためだ。ここまでしないと、今の彩美はいつまでも着替えようとさえしないのだ。俺はスリガラスの向こうで物音1つさせずに入浴している彩美のシルエットに、ますます良からぬ興奮を覚えながら、出来るだけ早く作業を終え彼女の下着とホームウェアを抱えて脱衣所を出た。

 自分が入浴しているすぐ外で、実の父親が1週間の汚れが染み付いた下着などを持って出るのに当然気付いているであろう彩美は、一体どんな思いでいるのだろうか。シルエットの愛娘は物音1つ立てずただ湯船に浸かっているだけで、彼女の気持ちは何1つうかがい知ることは出来ない。せっかく1週間ぶりの入浴だと言うのに体を洗う様子のまるでない彩美は、恐らく次に俺が声を掛けるまでそのままじっとしているのだろう。無気力な娘の行動を予測した俺はぬる目の湯を張っているので、逆上せたり反対にかぜを引いたりすることはないと思うが。

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