女子能力開発研究所
二次元世界の調教師:作

■ 6

 自分勝手な妄想だが、どうしてもそう思ってしまう。だって彩美は幼い頃から内向的で男友達の1人もいなかったはずだし、今は他人との接触を拒み唯一接しているのが父親の俺なのだ。彼女が俺に性的なコンプレックスを抱えていると考えても不思議ではないだろう。

「いかがですか、田中さん。彩美さんも研究所に預けられては……」
「考えてみたいと思います」

 もう俺の気持ちは半ば固まっていた。こうして次の休日、俺は和田さんに案内されて「女子能力開発研究所」の見学に行くことにしたのである。

――え、ここは……

 和田さんに車で研究所まで案内された俺はビックリした。意外に近くです、とは言われていたが、まさか駅前の繁華街にあるなんて思ってもいなかったからだ。こんな街の中心部に「女子能力開発研究所」があるなんて聞いたこともない。

「ここって……伸々塾じゃないですか」

 しかも和田さんが車を駐めたのは、この街では大手の学習塾である。小学生から大学入試の受験生まで対象は幅広く、7階建てくらいの大きな建物だが、この中に矯正施設などがあるのだろうか? が、車を止めた和田さんは何度も口にした言葉を繰り返すばかりだった。

「きっと驚かれるだろうと思いますが、心を平静に保って、絶対に秘密厳守でお願いしますよ」

 あの素晴らしいM女に変身して帰ってきた奈津子さんから想像すれば、研究所の教育内容にいかがわしい性的なものが含まれることは間違いない。俺は休日で制服を着た学生たちがたくさん出入りしている伸々塾の入り口に向かいながら、一気に緊張が高まるのを感じていた。

 受付で和田さんが二言三言告げると、俺たちはすぐに「塾長室」と言う立派な部屋に案内された。

「これは和田さん、よくいらっしゃいました。その後奈津子さんのご様子はいかがでしょうか?」
「はい、もう何も申し分ありません。これも全て研究所のおかげです。本当にお世話になりまして、感謝の言葉もございません」

 塾長は俺たちと同年代かむしろ年下のようだったが、パリッとした高級感溢れるスーツを着こなした妙に眼光の鋭い男だった。学習塾を経営している教育者には見えなかったが、いかがわしい猥褻な事業に手を染めているようにはもっと見えない。俺はどことなく警察か自衛隊の関係者のようだと思ったが、和田さんは平身低頭と言う感じで深々と頭を下げていた。

「いえ、私どもはただ奈津子さんの中に眠っていた能力を目覚めさせただけのことですよ。一人ひとりの能力を最大限に伸ばす。これは伸々塾のモットーでもありますから」

 俺はあっと思った。「一人ひとりの能力を最大限に伸ばす」これは確かに街中でよくみかけるこの塾のキャッチフレーズではないか。だがもちろん、それと「女子能力開発研究所」に関係があるだなんて夢にも思ってはいなかった。

「こちらが和田さんの紹介で来られた方ですね。申し遅れましたが、私が塾長の柳沢です」

 渡された名刺には「伸々塾塾長 柳沢伸一郎」とあった。そしてここで塾長は急に真剣な面持ちになり、低い声で言ったのである。

「娘さんを更生させるため、研究所の方の見学をなさりたい、ということでよろしいでしょうか?」
「は、はい、そうです……」

 塾長の一層鋭さを増した眼光に気圧された俺は、その目に引き込まれるようにそう答えていた。やはり間違いなくこの男が「女子能力開発研究所」の所長でもあるのだ。

「ではご案内さしあげる前に、こちらの書類にサインをお願い致します」

 ずいぶん物々しいなと思ったが、その書類は和田さんが言っていたことと同じような内容の、一種の誓約書だった。すなわち、これから見学する内容に関して絶対に口外してはならず、その禁を破った場合は多額の賠償金を請求される、と言った内容である。

「恐らく和田さんからお聞きになられたことと思いますが、研究所の方では、世間一般の常識からは逸脱しているように見られ兼ねない教育を行っておりますので……これ以上のことは、ここでは申し上げられませんが」

 俺は誓約書にサインしながら、緊張すると同時に興奮して胸の高鳴りを覚えていた。股間の方は早くもズボンを突き上げる勢いになってしまっている。我ながら女好きでしようがないやつだと思うが、奈津子さんのことを思うと淫らな期待を持ってしまうのも仕方ないことだろう。そして研究所は予想以上の、とんでもない場所だったのである。

「誓約書にサイン頂けましたか? それではご案内致しますが、非常に刺激的ですので決して誓約書の内容をお忘れなきよう、お願い致します」

 立ち上がった塾長に合わせて俺たちも立ち上がったのだが、「刺激的」だと嫌らしい期待をますます煽られて、俺は歩くのに差し支えるほどの股間の張り切りようになっていた。すると何と塾長がニヤリと笑って言ったのである。

「ナニをたくましくしておいでのようですね、田中さん」
「あ、いや、これは……」

 いくら何でも初対面の相手に失礼ではないかとも思ったが、俺は情けなくうろたえてしまった。が、急に親しげな態度に変わった塾長が言うのである。

「いえいえ気取らず自然に反応して頂ければよろしいのですよ。下手に正義感を振りかざして、私どもの教育内容に口を挟むような厄介な連中より、よっぽど良い。健全な男性であれば大いに興奮なさるはずですが、それで大いに結構です。矯正中の女の子たちをしっかり見てやって下さい」

 そして塾長がボタンを押すと、奥の壁がゆっくりと反転して隠されていたドアが出現したのである。まるでアクション映画に出て来るような物々しさに驚いていると、塾長が手を触れてドアを開いた。

「このドアは私や、限られた教官にだけ反応する生体認識のロックが掛かっています。従って勝手に中に出入りすることは出来ません。もちろん矯正中の女の子たちもね」

――まるで最新の監獄みたいだな

 俺は率直にそんな感想を抱きながら、和田さんと共に塾長の後に従いドアの向こうの小部屋に入った。エレベーターになっていて下に降下して行ったのだが、繁華街の学習塾の地下に隠された「女子能力開発研究所」で、どんなことが行われているのだろう。俺はいつの間にか彩美をここに入れるための見学と言う目的を逸脱し、学齢期の女子たちの痴態をあれこれ妄想してドキドキワクワクしている、ただのロリコン助平親父に成り下がっていた。

「これをご覧下さい」

 エレベーターから降りると、先ほどと同じ部屋に戻ったのではないかと錯覚を起こしそうだったが、どうやらこちらは「女子能力開発研究所」の所長室であるらしかった。柳沢氏が書類を出して来たので又誓約書かと思いきや、今度はこちらの研究所の入所案内パンフレットのようなものだった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊